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債務者が債務を履行しない場合の「詐害行為取消権」とは
債務者が債務を履行しない場合の「詐害行為取消権」とは
債務者が債務を履行せず債権回収が困難になる恐れがある場合には、債権者は債務者の責任財産の保全のための方策が必要です。債権回収が困難になる恐れがある場合とは、例えば、債務超過に陥った債務者が、所有する不動産を配偶者に無償で譲渡し所有権移転登記をするなどです。このような事態に対処するために「詐害行為取消の制度」があります。従来の民法の条文では具体的な取り決めが乏しく2020年に民法改正が行われました。民法改正による詐害行為取消権について紹介します。
目次
1. 詐害行為取消権について
(1) 詐害行為取消権とは?
(2) 詐害行為取消権に関する見直し
2. 詐害行為取消権に関わる民法改正
3. 詐害行為取消権の行使要件
(1) 債務者が詐害行為をしたこと
(2) 債務者と受益者が、債権者を害することを知っていたこと
(3) 当該法律行為が財産権を目的とするものであること
(4) 債権が詐害行為以前の原因に基づいて生じたものであること
(5) 債権が強制執行により実現できないものではないこと
まとめ
1.詐害行為取消権について
(1) 詐害行為取消権とは?
詐害行為取消権とは、債務者による財産減少行為や偏頗弁済(へんぱ弁済、債務者が一部の債権者にだけ返済をすること。「債権者平等の原則」という、すべての債権者に対し平等に返済されなければいけないというルールに反しているもの)など、債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)について、債権者が取り消し債務者の責任財産を保全できる権利です。
債権の弁済ができなくなることを知りながら、責任財産を不当に流出させたり、一部の債権者に対して抜け駆け的に弁済したりする行為は、債務者の債権者に対する背信行為といえます。民法は、このような債務者の行為を許さず、債権者の請求によって当該行為を取り消すことを認めているのです。
例)債務超過に陥った請負業者(債務者)が、自己が所有する建物を配偶者に無償で譲渡し(贈与)、所有権移転登記をした場合に、請負業者に融資している銀行(債権者)は、贈与契約の取消しと所有権移転登記の抹消を裁判所に請求することができます。
(2) 詐害行為取消権に関する見直し
実のところ、詐害行為取消権自体は、旧民法の施行時から設けられていました。しかし、詐害行為取消権は、債権者が、債務者がした行為の取消し等を裁判上請求するという強力な制度であり、複雑な利害調整を要するにもかかわらず、従来は旧民法第424条以下の3カ条で骨格を定めているのみで、具体的なルールは判例によって形成されていました。そこで、2020(令和2)年4月1日施行の民法改正では、従来の判例法理の明文化・整理が全体を通しての大きなテーマとなり、その一環として、詐害行為取消権についてその要件・効果などが規定されることになりました。
2.詐害行為取消権に関わる民法改正
民法改正では次のようなルールを新設しました。
・債権者は、債務者がした行為の取消しとともに逸出財産の返還(返還が困難であるときは価額の償還)を請求することができる。(改正民法第424条6)
・詐害行為取消しの訴えにおいては、受益者を被告とし、債務者には訴訟告知をすることを要する。(改正民法第424条7)
・詐害行為取消権の要件(詐害行為性、詐害意思等)についても、類似する制度(破産法の否認権等)との整合性をとりつつ、具体的に明確化する。(改正民法第424条2~4)
3.詐害行為取消権の行使要件
債権法改正後の現行民法では、詐害行為取消権の原則的な要件を定めつつ、通常の財産減少行為とは異なるいくつかの類型について要件の特則を設けています。
原則として、詐害行為取消権が行使できるもっとも原則的な場面は、債務者が「財産減少行為」をした場合です。具体的には、以下の要件をすべて満たす場合に、詐害行為取消権を行使できます。
(1) 債務者が詐害行為をしたこと
詐害行為とは、その行為をしたことにより、債務者が無資力(債務を弁済できない状態)となるような行為を意味します。
(2) 債務者と受益者が、債権者を害することを知っていたこと
詐害行為取消権の行使は、債務者および当該行為によって利益を得た者(受益者)の犠牲を生じるため、債務者・受益者が債権者を害することを知っていたことが要求されています(民法第424条1)。
(3) 当該法律行為が財産権を目的とするものであること
身元保証などの身分行為のように、財産権を目的としない行為については、詐害行為取消権の対象になりません(民法第424条2)。
(4) 債権が詐害行為以前の原因に基づいて生じたものであること
債務者が詐害行為をしないという合理的な期待を持ち得る債権者のみを保護する観点から、債権の発生原因が詐害行為以前に存在することを要件としています(民法第424条3)。
(5) 債権が強制執行により実現できないものではないこと
強制執行により実現できない債権は、裁判手続きを通じて保護するに値しないことから、詐害行為取消しの対象外です(民法第424条4)。
なお、受益者からさらに他の者(転得者)に対して、対象財産が移転されているケースも考えられます。その場合には、その転得者に連なるすべての者が詐害行為の存在を知っていた場合に限り、転得者に対しても詐害行為取消権を行使できます(民法第424条5)。
なお、強制執行においては、債務者が金銭債務を履行しない場合、債権者は勝訴判決などの債務名義(強制執行の根拠となる文書)を得た上、債務者の財産(責任財産)に対して強制執行により債権回収をすることができます。
また、請負業者(債務者)に融資している銀行は、債務者から返済がされないときは、債務者の責任財産(工場の土地建物、未収債権など)に強制執行をすることができます。
まとめ