TOP > 不動産売却の基礎知識 > ローン > 担保における「物上代位」とは
担保における「物上代位」とは
担保における「物上代位」とは
住宅ローンでお金を貸した金融機関は抵当権を設定します。そして、抵当権を設定していた土地が売却されてしまった場合は、抵当権の対象物がなくなり金融機関は困ります。そのため、金融機関はその売買代金債権に対しても権利を行使することが出来るようになっています。民法における物上代位という制度です。担保設定における物上代位とはどのようなものか、対象や要件などについて紹介します。
目次
1. 担保における物上代位
(1) 物上代位とは
(2) 抵当権の物上代位の意義
(3) 物上代位が認められる担保物件
2. 抵当権の物上代位を行使するための要件とは?
3. 抵当権の物上代位の対象とは?
4. 物上代位の手続
(1) 物上代位の手続の流れ
(2) 実務上の問題点
5. 一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えの競合の判例
まとめ
1.担保における物上代位
(1) 物上代位とは
物上代位とは、担保物権(抵当権など)の目的物が、売却、賃貸、滅失、破損によってその物の所有者が金銭その他の物を受ける請求権を取得した場合、この請求権や請求した結果の変形物に対しても担保物権の効力を及ぼすことを言います。
例えば、抵当権を設定していた土地が売却されてしまった場合には、その売買代金債権に対して権利を行使することが出来ることになります。
また、住宅ローンを借りて家を購入する場合、借入先の金融機関がその家や土地に抵当権を設定しますが、その家が火災などで焼失した場合、火災保険金の請求権にも金融機関の抵当権の効力が及ぶということになります。
ただし、抵当権者は、払戻し又は引き渡しがなされる前に、その請求権を差し押さえておかなければ、物上代位権を行使することは出来ません。(民法第304条、第372条)
(2) 抵当権の物上代位の意義
抵当権の物上代位の意義は、抵当権者が債権を回収できることです。
債権を回収しようとするときは、原則、債権者はみな平等で他の人より先に貸し付けたからといって先に回収できるということはありません。
これに対して、抵当権者は債権者の中でも特別な債権者となります。抵当権者に対して、抵当権などの担保を設定していない者は「一般債権者」と呼ばれます。
(3) 物上代位が認められる担保物件
物上代位が認められる担保物件には、抵当権のほか、先取特権、質権があります。
なお、留置権には物上代位性が認められません。
留置権とは、相手が債務を履行するよう促すために物を留置する権利であって、その物の価値を担保する権利ではないからです。
2.抵当権の物上代位を行使するための要件とは?
要件とは、「権利が成立して法律効果が発生するために必要な条件のこと」です。
抵当権の物上代位を行使するための要件とは、「払渡し又は引渡し前の差押え」です。
抵当権の物上代位を行使するためには、換金されたものを差押えする必要があります。
そして、差押えするタイミングは、換金されて債務者に支払われる前です。
3.抵当権の物上代位の対象とは?
物上代位ができるのは、賃料、売買代金、火災保険、損害賠償請求権などです。
なお、転貸賃料債権については原則認められません。例外的に、賃借人を所有者と同視できる場合や、賃料債権と同視しうるような事情があれば判例で認められています。
また、債務者の請負代金債権については原則認められません。しかし、転売代金債権と同視しうるような事情があれば判例で認めるとしています。
認められない理由としては、請負には材料や労務があり、それらが含まれているので、抵当目的物の価値を表しているとは言い難いということです。
4.物上代位の手続
物上代位の手続は賃料債権の場合次のようになります。
(1) 物上代位の手続の流れ
①債権者Bが、裁判所に賃料債権差押えを申し立てる。
②裁判所は、差押命令を発令後、各第三債務者(テナント・賃借人)へ差押命令を送達する。
③第三債務者への差押命令送達後、債務者へ差押命令を送達する。
④債務者への送達が完了し、1週間経過後(取立権発生後)債権者へ差押命令正本等が送達される。
⑤第三債務者から債権者が賃料の支払いを受ける。
または
⑥第三債務者が支払いに代えて賃料を供託した場合には、裁判所を通じて、供託された賃料の払渡しを受ける。
(2) 実務上の問題点
実務上の問題点としては次のような点があります。
➀差押債権の特定
賃料債権を差し押さえようとする場合、債権の種類・債権額・賃借人の氏名(名称)と住所(所在地)が必要です。これらの事項により債権を特定し、裁判所から差押命令が発令されます。
②賃料の取立て
原則、債権者が直接取り立てます。賃借人が取り立てに応じない場合には、取立て訴訟などの手段があります。
③送達
裁判所から賃借人へなされる差押の送達には少し時間がかかります。
④他の債権者との競合
a. 賃料債権差押の競合
担保権者間は、担保権設定登記の順位によります。
担保権者と一般債権者では、原則として担保権者が優先します。
b. 物上代位による賃料債権差押と債権譲渡
抵当権設定登記と債権譲渡の対抗要件具備の先後によります。
c. 物上代位による賃料債権差押と転付命令
転付命令(強制的な債権譲渡)が第三債務者に送達される前に、抵当権者は賃料債権を差押
える必要があります。
5.一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えの競合の判例
判例として、抵当権者の有する抵当権が一般債権者による差押え前に設定登記をしていた場合には、たとえ、一般債権者による賃料債権の差押えに後れて同一債権について物上代位権を行使したとしても、抵当権者は一般債権者に優先して配当を受けることができるとしています。(東京高裁平成6年3月30日判決)
また、債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができないと解すべきであるとしています。(最高裁判所第1小法廷判決 平成10年3月26日)
まとめ
・物上代位とは、担保物権(抵当権など)の目的物が売却、賃貸、滅失、破損によって、その物の所有者が金銭その他の物を受ける請求権を取得した場合この請求権や、請求した結果の変形物に対しても担保物権の効力を及ぼすことを言います。
・抵当権者は、払戻し又は引き渡しがなされる前に、その請求権を差し押さえておかなければ、物上代位権を行使することは出来ません。
・物上代位が認められる担保物件には、抵当権のほか、先取特権、質権があります。
・物上代位ができるのは、賃料、売買代金、火災保険、損害賠償請求権などです。