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売主にとっての「契約不適合責任」とは
売主にとっての「契約不適合責任」とは
2020年4月に改正民法では瑕疵担保責任という概念が変わり、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」(以下「契約不適合責任」)となりました。これまでの「隠れたる瑕疵」よりも広い意味の「契約の内容に適合しない場合」という概念になりました。売主が買主に引き渡すべき契約の目的物が、性状及び品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、一種の債務不履行、契約違反として法的責任を認めるということになります。売主の責任はより広くなったと考えるべきでしょう。
目次
1. 契約不適合責任とは
2. 民法改正前の瑕疵担保責任と現行民法の契約不適合責任の権利上の相違
(1) 瑕疵担保責任は無過失責任、契約不適合責任は債務不履行責任
(2) 買主が取れる権利行使の方法が増えた。
(3) 追完請求権
(4) 代金減額請求権
(5) 催告解除権
(6) 無催告解除権
(7) 損害賠償請求権
3. 売主が認識しておくべき契約不適合責任の概要
(1) 期限について
(2) 任意規定について
(3) 物件の内容の検査、確認
まとめ
1.契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、売主が売買契約において、買主に引き渡した売買対象物である不動産が、種類・品質・数量などに関して契約内容と合っていない場合に、買主に対し負うべき責任のことです。
ただし、不動産取引では「種類」については通常間違いはないと思えます。「数量」に関しては、問題となるのは土地の面積で境界が確定していない場合などに限定されるでしょう。そのため、不動産取引では契約不適合責任は主に「品質」が問題となると考えられます。
中古住宅の場合の「品質」としては、経年による劣化または欠陥が多くあります。例えば屋根・天井裏の損傷などによる雨漏り、水道管の老朽化による水漏れ、シロアリなどによる木部の侵食、基礎や構造物の腐食などです。
土地については、土壌が汚染されている、地中に不要な埋設物があるなどが欠陥としては考えられます。
2.民法改正前の瑕疵担保責任と現行民法の契約不適合責任の権利上の相違
(1) 瑕疵担保責任は無過失責任、契約不適合責任は債務不履行責任
民法改正前における瑕疵担保責任は、いわゆる法定責任(無過失責任)と言われるものでしたが、契約不適合責任は、契約責任(債務不履行責任)です。
改正前民法においては、売主は「隠れた瑕疵」について瑕疵担保責任を負うこととなっており、契約時点で買主が知っていた瑕疵は責任の対象外でしたが、契約不適合責任は、契約の内容に適合しているか否かが判断基準とあるため、売主は、買主が契約時に知っていた契約不適合についても責任を負う必要があります。
(2) 買主が取れる権利行使の方法が増えた。
民法改正前では、隠れた瑕疵があった場合に買主が取れる権利行使の方法は、「損害賠償請求」と「契約解除」の2つでしたが、改正後の「契約不適合責任」では、買主の権利行使方法に、「追完請求」と「代金減額請求」が加わりました。
これによって、契約不適合部分の修補請求や代替物または不足分の引き渡し請求(追完請求)が出来ることとなり、売主が修補に応じない場合には、その分の売買代金からの減額請求(代金減額請求)ができることとなりましたまた、契約解除は催告解除と無催告解除に分けられました。これらの行使できる権利の内容は次のようなものです。
(3) 追完請求権
追完請求権とは、種類や品質または数量が契約内容と異なっていれば、完全なものを求めることができる権利です。
ただし、不動産は基本的に同じものがない特定物ですので、数量を追加するという考えは適切ではありません。そのため、基本的に不動産売買における追完請求とは、具体的には修補請求が該当します。修補請求は修理の請求です。記載されていない雨漏りがあれば、修理して雨漏りがしないようにしてくださいというのが追完請求になります。
(4) 代金減額請求権
上記の追完請求を売主側が実行しない場合、買主は契約不適合責任では次の一手として、代金減額請求をすることができます。
代金減額請求権とは、追完請求の補修や修正請求をしても売主がその行為を行わない、行えないとき、補修自体ができないときなどに、買主側に認められる売買価格の減額を請求できる権利です。
代金減額請求は、まず「買主側が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないとき」に認められるものです。
また、明らかに直せないものなど、追完の補修が不可能である場合は、催告なしで買主は直ちに代金減額請求することもできます。
(5) 催告解除権
催告解除権とは、追完請求をしたにもかかわらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告(相手側に対し一定行為を請求すること)して契約解除をできる権利です。
不動産の場合、売買代金が減額されても、住めない、住むために多額の費用がかかる、こうした致命的な欠陥があるケースが多くあります。そのような場合、「購入を止める」と売主側に伝えるのが催告解除です。
通常、契約後に契約を取りやめると違約金が発生しますが、この催告解除で契約解除されれば契約はそもそもなかったものとなるため、売主側から買主側に無条件で売買代金の返還が必要になります。
民法541条では、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間(定めた期間)を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」と定められています。
(6) 無催告解除権
無催告解除権は、契約の目的が達成できない、つまり相手方の履行が期待できない、履行が不可能であると考えられる場合に、催告をすることなく、直ちに契約を解除することができるできる権利を指します。
どんな場合に適用できるのかというと、改正民法542条で次の5つのケースが定められています。
①債務の全部の履行が不能であるとき
②債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
④定期行為の時期を経過したとき
⑤催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき
(7) 損害賠償請求権
契約不適合責任における損害賠償請求権は、売主が故意に隠した不具合や、売主の過失で生じた損害に対して、買主が損害賠償請求をする権利です。
前述のように、民法改正前の瑕疵担保責任の損害賠償請求は売主の「無過失責任」でしたが、契約不適合責任では売主の「過失責任」になります。
無過失責任とは、損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償の責任があるということを指します。一方、過失責任とは、故意や過失がなければ損害賠償の責任を負わなくて良いという考え方です。つまり、契約不適合責任では、売主が故意に隠した不具合や、売主の過失で生じた損害でない限り、買主は損害賠償請求をすることができません。
ただし、瑕疵担保責任の損害賠償請求ができる範囲は「信頼利益」に限られていましたが、契約不適合責任の損害賠償請求の範囲は「履行利益」も含まれます。
信頼利益とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害を指します。不動産売却の場合では、例えば登記費用などの契約締結のための準備費用が該当します。
また、履行利益とは、契約が履行されたならば債権者が得られたであろう利益を失った損害を指します。例えば転売利益や営業利益などが該当します。
3.売主が認識しておくべき契約不適合責任の概要
売主が認識しておくべきことには次のような点が上記に加えてあります。
(1) 期限について
契約不適合責任には、買主側からの請求権行使については「不具合を知ったときから1年以内」という期限が定められています。買主はこの期限内に、売主に対して不具合の内容を通知しなければなりません。しかし、売主が引渡し時に不適合を知っていた場合や、重大な過失によって見過ごしていた場合は、この期限は適用されません。
- 新民法第566条
「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」
また、買主が請求権などを行使できることを知ったときから5年間行使しなかった場合、または権利を行使できるときから10年間行をしなかった場合は、時効によりその権利は消滅します。
(2) 任意規定について
契約不適合責任では規定について任意性があり任意規定とされています。
任意規定とは、一般消費者間の売買契約であれば売主・買主という売買契約当事者双方が合意していれば、契約の中で任意の細かな取り決めを独自にしてもよく、また、既に修復工事を施している箇所などの該当の部分は契約不適合責任を負わない旨を定めても良いということです。
特に築年が古い中古住宅については、瑕疵や不具合が存在する可能性が高くなるので、その全部の責任を売主が長期間負うことは難しいと言えます。そういう場合に、契約時に「特約」として任意の規定などを設けることができます。
ただし、免責特約を付けたとしても、改正民法第572条により、売主が知りながら買主に告げなかった契約不適合については特約の対象外となります。
契約不適合に関する特約を全く付けない場合は、民法の条項がそのまま適用されます。
なお、売主が宅建業者の場合は、宅建業法第40条の規制がありますので、民法の規定と異なる取決めをすると無効になります。
・任意規定における免責事項の一例
- 買主は、下記容認事項を確認・承諾の上、購入するものとし、下記事項について売主に対し、解除、損賠賠償、修補、代金減額請求等の一切の法的請求をなし得ないものとする。(免責事項)
テレビなどの電波受信機器において、アンテナなど機器の設置や、ケーブル引き込みなどが必要になる場合、費用は買主の負担となる。本物件上に新たに建物を建築する際、建築会社から地盤調査を求められたり、地盤補強工事などが必要になった場合、費用は買主の負担となる。
(3) 物件の内容の検査、確認
引渡し後のトラブルを防ぐためには、まず、第一に買主が納得して受け入れる目的物を引き渡すことです。そのためには、目的物がそれに足るものであるかを細部まで検査しておくことが必要になります。専門技術者による建物状況調査を行っておくというのは、一つの方法でしょう。
まとめ
・契約不適合責任とは、売主が売買契約において、買主に引き渡した売買対象物である不動産が、種類・品質・数量に関して契約内容と合っていない場合に、買主に対し負うべき責任のことです。
・民法改正前の瑕疵担保責任では、契約解除権と損害賠償請求権の2つがありましたが、現行民法の契約不適合責任では、それに追完請求権と代金減額請求権が加えられました。契約解除権では、催告解除権と無催告解除権に分けられました。
・契約不適合責任には、買主側からの請求権行使については「不具合を知ったときから1年以内」という期限が定められています。買主はこの期限内に、売主に対して不具合の内容を通知しなければなりません。しかし、売主が引渡し時に不適合を知っていた場合や重大な過失によって見過ごしていた場合は、この期限は適用されません。