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相続登記義務化関連―「相続人申告登記制度」の新設
相続登記義務化関連―「相続人申告登記制度」の新設
2021(令和3)年4月21日、相続登記の義務化に関する法案が成立しました。今後はこれまでのように相続登記を放置することは許されず、相続登記を回避することはできません。しかし、正当な理由があって相続登記を直ちには行えないというケースも多数存在します。そのため、政府は相続登記とは異なる新たな制度を立案しました。それが「相続人である旨の申出」と「相続人である旨の申出等による登記(相続人申告登記)」の制度です。合わせて「相続人申告登記制度」と称します。2024(令和6)年4月1日より施行されるこの制度の内容を紹介します。
目次
1.現行法での問題点
2.相続登記の義務化が行われるとどうなるのか?
3.相続人申告登記制度の新設
(1) 相続人申告登記制度とは
(2) 相続人申告登記制度の効果
4.「相続人である旨の申出」をするときに何が必要か?
まとめ
1.現行法での問題点
①相続発生後は、相続人間の遺産分割協議による遺産分割がなければ、全ての相続人が法定相続分の割合で、不動産を共有した状態となること。
共有は暫定的な措置であり、共有の解消をしないと不動産の変更などでは共有者全員の一致が原則であり、遺産分割・処理の解決に多くの困難が生じます。
②現行法の下でも、共有状態をそのまま登記に反映する方法(法定相続分での相続登記)がありますが、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が必要であるため、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本等の書類の収集が必要となり、登記申請に当たっての手続的な負担が大きいこと。
登記手続きの煩雑さが、相続登記をためらわせ登記が行われていない事態を招いている面があります。
2.相続登記の義務化が行われるとどうなるのか?
相続登記が義務化されると、期限までに手続きを行わない場合、最高で10万円の過料に処せられます。期限は「自己のために相続の開始があったこと及び所有権を取得したことを知った日から3年以内」です。
そのため、相続が発生して自分が所有者となったことを知った日から3年以内に遺産分割協議を行って、確定した相続人が相続登記をするのが基本となります。
しかし、3年以内に遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。そのため、新たに相続人申告登記制度が必要となってきました。
3.相続人申告登記制度の新設
(1) 相続人申告登記制度とは
相続人申告登記制度とは、不動産を相続した人が法務局の登記官に対し、自分が不動産の相続人である旨を申し出て、職権で登記してもらう制度です。
これは、「相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から、新たな登記を設ける」ものとして作られました。(新第76条の3)
登記官が職権で登記を行ってくれるので、相続人にとってはハードルの低い利用しやすい制度と言えます。最終的な相続登記は改めて行うことにして、とりあえず登記簿上の所有者に相続が発生したことと、その相続人である蓋然性の高い者を暫定的に登記するものです。
(2) 相続人申告登記制度の効果
①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を、申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ履行したことになる)ことになります。
申出を受けた登記官は、所定の審査をした上で、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。
その結果、登記簿を見ることで相続人の氏名・住所を容易に把握することが可能になります。
なお、相続人が複数存在する場合でも、特定の相続人が単独で申出が可能です(他の相続人の分も含めた代理申出も可)。
また、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要です。
添付書面としては、申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足ります。そのため、戸籍資料収集の負担が軽減されます。
ただし、通常の相続登記のように、所有権が相続人に移転したことを対外的に主張できるようになるわけではなく、「登記簿上の所有者が亡くなった」という事実を知らせる範囲にとどまります。そのような観点から、「相続人である旨の申出」に際して、法定相続人全員を調査する必要もなく、持分を明らかにする必要もありません。その意味で非常に簡易的な登記です。
したがって、後日に遺産分割協議が成立した場合は、遺産分割協議の内容に合致する相続登記をあらためて申請しなければなりません。この登記は、遺産分割の日から3年以内に行わなければなりません。
また「相続物件を売却したい」という場合も、正式な相続登記を申請しなければ売却することはできません。つまり、「相続人である旨の申出等による登記(相続人申告登記)」をしただけでは、売却や贈与などの変更の登記はできません。
それでは、相続人申告登記制度のポイントについて簡単にまとめました。
【相続人申告登記制度の特徴】
①相続人全員から1人からでも申出ができる。
②申出を行った相続人の氏名・住所のみが職権で登記される。
③持分は登記されない。
④所有権の登記に、付記登記で実行される。
⑤法定相続人全員の氏名・住所を調査する必要はない。
⑥被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を添付する必要はない。
⑦相続した不動産を相続人が第三者に売却する場合、別途、相続による所有権移転登記を備えることが必要
4.「相続人である旨の申出」をするときに何が必要か?
この申出の手続きに関して具体的なことはまだ決まっていません。
添付書類に関してでは、通常の相続登記の申請では、被相続人(故人)の出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍などを提出する必要がありますが、「相続人である旨の申出」ではその必要はなくなります。
では、具体的に何を添付するかですが、次の書類などを添付することが予想されます。
・被相続人の死亡の旨が記載されている除籍謄本
・被相続人とのつながりが分かる申出人(相続人)の戸籍謄本
・申出人の住民票
など
まとめ
・現行法での問題点として次のような点があります。
①相続発生後は、遺産分割がなければ、全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を共有で取得した状態となること。
②法定相続人の範囲等の確定が必要であるため、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本等の書類の収集が必要となり登記申請に当たっての手続的な負担が大きいこと。
・新たに創設された相続人申告登記制度とは、不動産を相続した人が法務局の登記官に対し、自分が不動産の相続人である旨を申し出て、職権で登記してもらう制度です。
・相続人申告登記制度の効果としては、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を、申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、暫定的に申請義務を履行したものとみなすことです。