TOP > 不動産売却の基礎知識 > 制度 > 登記簿に名義人の死亡情報を紐づける制度の新設
登記簿に名義人の死亡情報を紐づける制度の新設
登記簿に名義人の死亡情報を紐づける制度の新設
不動産の登記簿を見ても所有権の登記名義人が生きているのかどうかは分かりません。相続登記が行われないまま長期間経っていれば相続が複数回にわたり行われ、、相続人すら分からない状況もありえます。そこで、相続登記の義務化の法案成立にともない、関連して相続登記が行われていない場合の登記名義人の死亡の情報を把握することが求められます。しかし、現行の不動産登記は物的な情報と人的な情報が紐づけられていない制度であるため、これを保管するシステムが必要になってきます。それが、「所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度」の新設です。この内容を紹介します。
目次
1.不動産の登記名義人が死亡しても、相続登記がされない限り、登記簿には公示されない現状の問題点
2.背景となる現行の不動産登記の制度
(1) 不動産登記の方法―年代別編成主義、人的編成主義、物的編成主義
(2) 表示に関する登記は表題部に表示
3.所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度とは
(1) 所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度とは
(2) 死亡情報の情報源
4.所有者名義人情報の最新化の取り組み
(1) 所有者登記名義人氏名・住所変更の登記の義務化
(2) 登記官による職権の変更登記
(3) DV被害の恐れへの対応
(4) 外国に住所を有する登記名義人の所在把握のための方策
まとめ
1.不動産の登記名義人が死亡しても、相続登記がされない限り、登記簿には公示されない現状の問題点
現行法の下では、特定の不動産の所有権の登記名義人が死亡しても、相続登記等がされない限り、当該登記名義人が死亡した事実は不動産登記簿に公示されないため、登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することができません。
民間事業や公共事業の計画において、死亡の有無の確認ができないと、所有者の特定ができず、その後の交渉に手間がかかり、事業用地の選定がより円滑に行われないなど行政上の土地利用の観点からも、所有権の登記名義人の死亡情報をできるだけ登記に反映させるべきであるとの指摘がされていました。
2.背景となる現行の不動産登記の制度
(1) 不動産登記の方法―年代別編成主義、人的編成主義、物的編成主義
・日本では物的編成主義をとる。
不動産登記とは、不動産に関する権利変動を公示するために行なわれる登記のことです。不動産登記の方法としては,個々の権利変動ごとの登記を申請順に受け付けて実施していく年代別編成主義(証書登録制度)や、年代別編成主義の帳簿に人名索引をつけた人的編成主義もありますが、日本ではドイツ法にならって明治時代の1886年の旧登記法以来、1個の不動産ごとに登記を編成する物的編成主義がとられています。
(2) 表示に関する登記は表題部に表示
不動産登記の手続きは,不動産登記法等に基づいて登記所で行なわれます。不動産の登記には、表示に関する登記と権利に関する登記とがあり、表示に関する登記は登記記録の表題部に、権利に関する登記は登記記録の権利部に記録されます。
3.新設の「所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度」とは
(1) 「所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度」とは
所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度とは、登記簿を見ればその不動産の所有権の登記名義人の死亡の事実を確認することが可能となることを目的に、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて、不動産登記に死亡の事実を符号によって表示する制度です。所有権の登記名義人の相続に関する不動産登記情報の更新を図る方策の一つとして新設されました。
*不動産登記法76条の4(所有権の登記名義人についての符号の表示)
「登記官は、所有権の登記名義人(法務省令で定めるものに限る。)が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、当該所有権の登記名義人についてその旨を示す符号を表示することができる。」
(2) 死亡情報の情報源
公的機関の住基ネットおよび住基ネット以外の情報源(固定資産課税台帳等)からも死亡情報の把握の端緒となる情報を取得する予定です。
当面、法務省令で必要性の高い自然人を対象とすることとする予定です。
4.所有者の名義人情報の最新化の取り組み
相続登記の義務化に関わる事項では、登記簿に記載されている所有者に生じた異動(氏名・住所変更)の変更登記申請等が放置されることによって、登記簿の権利者の現状が正しく表示されないといった問題などへの対処方策も導入されます。
(1) 所有者の登記名義人氏名・住所変更の登記の義務化
所有権の登記名義人の氏名・住所に変更があった場合には、変更があった日から2年以内に変更登記申請をしなければならなくなりました(改正不動産登記法第76条の5)。
正当な理由がないのに、変更登記申請を行わない場合は5万円以下の過料が課されます(改正不動産登記法第164条第2項)。
(2) 登記官による職権の変更登記
上記にあわせて、登記官は住民基本台帳ネットワークシステム(マイナンバー)や商業・法人システムから登記名義人の氏名・住所の情報を得て、所定の場合は職権で変更の登記を行うことができるとされました(改正不動産登記法第76条の6)。
(3) DV被害の恐れへの対応
住所・氏名が最新化されるようになった場合に考えられる弊害として、DV被害者などの住所が相手側に知られてしまうということがあります。そのため、「人の生命もしくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがある」として法務省令で定める場合に、登記名義人から申し出があったときには住所に変わり、省令で定めるところに従って所定の表示を行うこととされました(改正不動産登記法第119条第6項)。
(4) 外国に住所を有する登記名義人の所在把握のための方策
所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、国内における連絡先となる者の氏名・住所その他の連絡先情報を登記するものとされました(改正不動産登記法第73条の2第1項第2号)。
また、外国に住所を有する外国人については、所有権の登記名義人になろうとする場合の住所証明情報として、外国政府等の発行した住民証明情報又は住所を証明する公証人の作成に係る書面が求められる予定です。
まとめ
・現状の問題点として、不動産の所有権の登記名義人が死亡しても、相続登記等がされない限り、当該登記名義人が死亡した事実は不動産登記簿に公示されないため、登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することができないことがあります。
・これは日本の登記制度が不動産の物的な移動を現わす物的編成主義を取っているためです。
・「所有権の登記名義人の死亡情報の符号の表示制度」とは、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報に基づいて、不動産登記に死亡の事実を符号によって表示する制度です。
・死亡情報の情報源としては、公的機関の住基ネットおよび住基ネット以外の情報源(固定資産課税台帳等)などが想定されています。
・所有者の登記名義人氏名・住所変更の登記の義務化が決まり、所有権の登記名義人の氏名・住所に変更があった場合には、変更があった日から2年以内に変更登記申請をしなければならなくなりました。
・登記官による職権の変更登記ができるようになり、登記官は住民基本台帳ネットワークシステム(マイナンバー)や商業・法人システムから登記名義人の氏名・住所の情報を得て職権で変更の登記を行うことができるとされました。