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高齢者を守るために知っておきたい「成年後見制度」
高齢者を守るために知っておきたい「成年後見制度」
高齢者を狙った犯罪や消費者被害では、特殊詐欺、住宅リフォームなどの訪問押し売り営業、貴金属などの訪問押し買いなどが問題になっています。高齢者の判断能力の衰えを狙ったものです。特に、認知症になってくると重要な分野の契約、高額な買い物では心配になってきます。そこで、これらの被害を防ぐ方法の1つに成年後見制度もあります。成年後見制度は、高齢者を守るためにも必要な制度として知っておきたい分野として紹介します。
1.成年後見制度の概要
(1) 成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害などで、財産の管理や契約を結ぶ等の法律行為を行う際に、判断能力が十分でない場合に、成年後見人等が財産の管理や福祉サービス等の契約を行い、本人の権利を守り生活を支援する制度です。
(2) 成年後見人の主な職務
成年後見人の主な職務は次のようなものにつき契約を代理して行います。
・本人の預貯金、有価証券、保険や不動産などの財産管理
・本人の診療、療養介護、福祉サービスなどの利用契約の締結
・本人の財産や収入を把握した上で、医療費や税金などの支払管理
・本人の介護サービス利用契約や老人ホーム施設への入退所契約
成年被後見人の財産について目録を作成し、その財産処理の内容を裁判所に定期的に報告するなども行います。
(3) 成年後見人にできない業務内容
成年後見人の権限は財産管理行為が中心で、以下のような身分行為や本人意思が重要となる行為はできません。
・戸籍に関する契約の変更(婚姻・離婚・離縁・養子縁組・認知等)
・遺言書の作成
・重大な医療行為(軽度の診察・緊急を要するものを除く)への同意
また、財産管理行為であっても不動産の処分など重要な取引行為については、別途、裁判所の許可が必要となります。
2.成年後見制度の種類
成年後見制度には、家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見制度」と、あらかじめ本人が任意後見人を選ぶ「任意後見制度」の2つがあります。
(1) 法定後見制度
既に判断能力が不十分な人に対し、家庭裁判所が後見人等を選任して支える制度です。
法定後見には、後見、保佐、補助の3つの類型があり、本人の判断能力に応じて家庭裁判所が決定します。
➀類型
a. 後見
後見は、日常の買い物がまったくできない等の状態、判断能力がまったく人が対象となります。
後見人には、被後見人の財産管理や法律行為を代わりに行う代理権と取消権が与えられます。取消権とは、被後見人が行った法律行為を取り消すことができる権限です。なお、被後見人の自宅の処分に関しては家庭裁判所の許可が必要です。
b. 保佐
保佐は、日常的な買い物などは自分でできるけれど、不動産や高額品の売買をする等の重要な財産行為を行う場合は、他者の支援があったほうが良い人を対象とします。
保佐人には、被保佐人が行う重要な財産に関する行為について、同意権、取消権が与えられます。
重要な財産に関する行為とは、相続の承認や放棄、住宅の新築や増改築、不動産の売買、借金、訴訟等で、法律で定められています。これらの行為を被保佐人が行う場合は保佐人の同意が必要となります。
保佐人の同意なく被保佐人がこれらの行為を行った場合、取り消すことができます。保佐人の同意を必要とする法律行為は、家庭裁判所の審判により追加することができます。
c. 補助
補助は、日常的な買い物などは自分でできるけれど、補佐と同様の重要な財産行為について、一人で行うことが不可能ではないが適切に行えない恐れがあり、他者の援助を受けたほうが安心である人を対象とします。
補助人には、家庭裁判所の審判により、被補助人が行う重要な財産に関する行為について、同意権・取消権が与えられます。
また、保佐人同様、家庭裁判所の審判により、特定の法律行為に対する代理権を追加することができます。
②成年後見人・保佐人・補助人にはどんな人が選ばれるか
成年後見人・保佐人・補助人(以下、後見人等)は、家庭裁判所が選びます。選ばれる後見人等は、基本的には弁護士、社会福祉士、司法書士、行政書士などの専門職や法人が選ばれる場合が多いですが、親族が選ばれることもあります。また、後見人等が複数選ばれることもあります。
③法定後見人等になれない人
法定後見人等になれない人には次のようなものがあります。
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
・行方の知れない者
④成年後見等の申立て
本人の住所地の家庭裁判所に申立てを行います。申立てができる人は、本人、配偶者、四親等内の親族などです。身寄りがない、身内から虐待を受けている、親族が協力しないなどの理由で申立てをする人がいない人の保護を図るため、市町村長も法定後見の申立てができます。なお、申立て後は、裁判所の許可がないと取り下げることができません。
(2) 任意後見制度
任意後見制度は、本人に判断能力があるうちに、判断能力が不十分になったときに備える(老い支度としての)ために、自分で決めた代理人に、自分で決めた内容(預貯金の管理、不動産管理を始め、自分の住みたい住まいの選択、生活スタイルなど)について、代理権を与える委任契約を、公証役場で「公正証書」によって作成します。
➀任意後見制度と自己決定権の尊重
自分の将来を自分で決める制度で、自己決定の尊重の趣旨により法定後見に優先する制度です。
②任意後見人と任意契約
任意後見人は、本人と話し合って決めた契約内容にしたがって活動します。本人は自分の希望を伝えて双方で確認することが重要です。本人は、任意後見人に支払う報酬も必要ですので双方で話し合って決めることが大切です。話し合って決めた仕事の内容を「任意後見契約書」という書面にします。
③任意後見の契約手続き
任意後見契約書は、公証役場で公証人が作成します。契約の内容は、公証人によって法務局に登記されます。
本人の判断能力が低下して、家庭裁判所によって任意後見監督人という人が選ばれると、任意後見人の仕事がはじまります。
④任意後見人になる人
任意後見人は本人の意思で任意で選択することができます
⑤任意後見人になれない人
任意後見人になれない人には次のようなものがあります。
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・行方の知れない者
・本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
3.成年後見制度を利用するメリット・デメリット
成年後見制度を利用するメリット・デメリットについてよく検討することが必要です。家庭裁判所が関係するため簡単に変更できないからです。
(1) 成年後見制度を利用するメリット
➀法定後見制度を利用するメリット
法定後見制度を利用するメリットには次のようなものがあります。
・家庭裁判所において公的に適格と認められる者が成年後見人に選任されること。
・公的に成年被後見人により財産管理を適切に行うことができること。
・後見人が財産などを管理・保護するため、相続が発生した際にも財産把握が容易なこと。
②任意後見制度を利用するメリット
任意後見制度を利用するメリットには次のようなものがあります。
・本人が任意に安心できる後見人が選べること。
・複数の後見人を選び、それぞれの役割、権限を分けることもできること。
・後見人により財産管理を適切に行うことができること。
(2) 成年後見制度を利用するデメリット
➀法定後見制度を利用するデメリット
法定後見制度を利用するデメリットには次のようなものがあります。
・手続が煩雑であること。
・一度制度が適用された場合に柔軟な対応が難しくなること。
・法律の専門家などの後見人が財産管理は行っても、本人の日常生活ケアに関するサポートがあまり行われない場合があること。
②任意後見制度を利用するデメリット
任意後見制度を利用するデメリットには次のようなものがあります。
・法定後見ほどではなくても一定の手続きの煩雑さはあること。
・親族が後見人になる場合は相続に関連して警戒心、不信感が生まれる場合があること。
4.成年後見人等の報酬額のめやす
成年後見人等の報酬額のめやすは、基本報酬は月額2万円~です。成年後見人が管理する財産額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合には月額3万円~4万円、管理する財産額が5,000万円を超える場合には月額5万円~6万円程度です。
また、付加報酬として、身上監護等に特別困難な事情があった場合には、基本報酬額の50%までの範囲内で相当額の報酬を付加すること、また、成年後見人が特別な事務を行った場合には相当額の報酬を付加することがあります。