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不動産登記をしない場合の危険性と登記制度の意味
不動産登記をしない場合の危険性と登記制度の意味
不動産には「表示登記」と「権利の登記」があり、その中の「権利の登記」は義務ではありません。しかし、義務ではないからと言って登記しないと、どのようなリスクが生じるのかを知っておく必要があります。主にリスクは買主にありますが売主にも一部あります。登記制度は法律的にも難しい問題があり、権利関係の争いや二重売買の事故にもつながるものです。なお、所有者不明の土地における相続登記の義務化については、2021年の民法改正により改革がなされました。この記事における不動産登記は所有者不明の場合ではない一般の場合です。不動産登記制度の意味、内容と、登記しない場合の危険性などを紹介します。
目次
1. 不動産登記制度
(1) 不動産登記とは
(2) 登記簿の構成
(3) 「表示登記」と「権利の登記」
(4) 「権利の登記」の登記手続きについて
2. 「権利の登記」の意義と効果
(1)意思主義
(2)登記の効力について
(3) 不動産登記をしないデメリット
(4) 不動産登記をしない場合の売主のリスク
(5) 不動産二重売買の場合の売主の責任
まとめ
1.不動産登記制度
(1) 不動産登記とは
不動産登記とは、登記所において法令で定められた手続きにより、登記簿に不動産の表示や権利に関する事項を記録することです。
(2) 登記簿の構成
登記簿とは、「表示に関する登記」および「権利に関する登記」について、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される登記記録を、電磁的記録として備える帳簿のことをいいます。
登記記録は、「表題部」と「権利部」に区分され、「権利部」はさらに、「甲区」(所有権に関する事項)と「乙区」(所有権以外の権利に関する事項)に区分されています。
(3) 「表示登記」と「権利の登記」
不動産登記には、次のものがあります。
①不動産の物理的な状況の登記である「表示登記」
(例:建物の増築・新築、土地の地目変更)
物理的な状況を正確に公示するという役割があるため、不動産の所有者には申請義務が課され(法36条等)、原則として非課税です。
②不動産の権利に関する得喪、変更等に関する登記である「権利の登記」
(例:売買による所有権移転、弁済による抵当権抹消)
権利の登記として登記できる権利は、法律で所有権、抵当権、地役権等9種類の権利に限られています(法3条)。
権利の登記は、不動産の権利関係を第三者に対抗するために公示するという役割であって、申請人には申請義務が課せられていません。
また、登記申請に際しては、原則として、登録免許税法に基づく登録免許税を納付する必要があります。
以下、権利の登記について見ていきましょう。
(4) 「権利の登記」の登記手続きについて
➀申請主義
権利の登記は、当事者の申請、または、官庁もしくは公署の嘱託がなければすることができないと規定されています(法16条)。
そして、登記の申請は、原則として、登記権利者(登記上利益を受ける者―例:売買契約の買主)と登記義務者(登記上不利益を受ける者―例:売買契約の売主)の共同申請によるものとされています(法60条)。
②申請方法
2004年の法改正により、出頭するだけでなく、郵送による登記申請またはオンライン申請による方法も認められています(法18条1項、不動産登記令10条)。
③登記の実行
登記所は申請が却下事由に当たらないと判断したときは、これを受理し、登記記録、申請人から提供された申請情報および添付情報に基づいて審査を行い、登記を実行します。
④登記識別情報の通知
登記名義人となる申請人ごと、不動産ごとに、原則として「登記識別情報」が作成され、申請人に通知されます(法21条)。なお、旧法においては、書面の「登記済証」が発行されていました。登記識別情報も登記済証も、所有権移転登記等一定の場合に申請に際して添付することとされています。
⑤登記記録の公開
登記記録の公開は、登記事項証明書等を交付する方法により行われます(法119条)。
2.「権利の登記」の意義と効果
(1)意思主義
民法では「物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています(民法176条)。そのため、「当事者の意思表示」により、二重売買が行われる場合もありえます。民法では二重売買自体を違法とはしていないのです。
(2)登記の効力について
民法では「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律
の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定し
ています(民法177条)。
・先に所有権移転登記を完了させた者が第3者に対抗できる。
したがって、売買契約の順序にかかわりなく、先に所有権移転登記を完了させた者が、一方の買主を含む第三者に対し自らが所有者であることを対抗できることになります。このような効果を登記の「対抗力」といいます。先に登記をした方が優先されます。
また、登記には、物権の表象を信頼した者は、たとえその表象が真実の権利関係と異なるときでも、その信頼が保護されることはありません。不動産登記には「公信力」がないのです。
もっとも、宅地建物の売買等の媒介を行う場合の宅地建物取引業者や司法書士には、法令等に基づく厳格な本人確認義務や業務の管理義務があるため、二重売買の危険性は稀だとは思います。しかし、法律の規定については知っておかなければなりません。
(3) 不動産登記をしないデメリット
➀登記には対抗力があるため、登記をしないと法的に対抗できない。
登記をしないと、自分の不動産の権利を対外的に主張できないことになります。
登記名義を移転させなくとも、合意があれば不動産の所有権は移転することになります。不動産売買がなされたにも関わらず登記を移転していなければ、買主は所有権を対抗できなくなるリスクを負うことになります。
②不動産を担保に銀行融資が受けられない。
登記名義人を変更しておかないと、金融機関等が抵当権などの担保権をつけることができないため融資が受けられません。
③不測の事態が起こった時、不動産賠償がスムーズに受けられない場合もある。
災害時の補償などです。東日本大震災の原発事故の東京電力は、原発事故発生当時の登記情報で賠償をしようとしていましたが、登記をしていないことにより不動産賠償がスムーズに行えないという事態が起こりました。
(4) 不動産登記をしない場合の売主のリスク
売主は、売買代金を受領しているのであれば、売買契約により取得した債権についてのリスクはありません。また、土地建物を引き渡し、移転登記に必要な書類も交付しているのであれば、売主としての債務は全て履行済みであり、契約を解除されるということもありません。
ただし、登記が買主によりなされない場合、登記名義が売主のもとに残ることによって、次のような不利益を被ることがあります。
➀固定資産税・都市計画税の請求が来る。
地方税法は、「固定資産税は、固定資産の所有者に課する」とし、この所有者とは、登記されている土地又は家屋については、登記簿に所有者として登記されている者と規定しています。
売買契約に基づき所有権が移転したにもかかわらず、移転登記が未了の場合について、「現に所有している者」に固定資産税を課すという規定はないため、この場合は登記名義人が課税されることになります。
固定資産税や都市計画税は、本来、土地建物の真の所有者が負担すべきものですので、課税された売主は買主に対して、固定資産税・都市計画税分を支払うよう請求することはできますが、登記名義を移転していない場合には、登記名義人が市区町村から固定資産税・都市計画税を課されるという不利益を被ることになります。
②土地工作物責任
民法717条は、不法行為責任として、土地工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、工作物の占有者や所有者に賠償責任を負わせています。建物は代表的な土地工作物ですが、建物が売却されたにもかかわらず、登記がまだ移転されていない場合に、売主買主のいずれが工作物責任の「所有者」にあたるかについては、法的に議論があります。
原則としては、登記が移転していなくとも、所有権が移転していれば譲受人に所有者としての工作物責任が発生することについては争いのないところです。ただし、登記名義が残っている譲渡人の責任については、見解の分かれるところです。登記名義人である譲渡人に対しても責任を追及できるとする見解もあります。
また、法的な責任が否定されたとしても、登記名義人であることによって、訴訟の被告とされるなどの事実上の不利益を被ることも考えられます。
(5) 不動産二重売買の場合の売主の責任
➀民事上の責任
不動産の売主は、通常、売買契約に基づいて、買主に所有権を移転し、登記を移す義務を負っているといえます。二重売買がなされた場合、先に登記をした優先買主に登記を移した時点で、売主はあとから売った劣後買主に対する登記を移す義務は履行できなくなります(履行不能)。
そのため、劣後買主は、売主に対して、この履行不能の責任(債務不履行責任)の追及として、解除や損害賠償の請求ができます。
②刑事上の責任
不動産を売却したにもかかわらず、自分の登記が残っているのを利用して、他の者にさらに売却して登記を備えさせた売主には、横領罪が成立し得ます。また、詐欺罪、背任罪が成立する可能性もあります。
まとめ
・不動産登記とは、登記所において法令で定められた手続きにより、登記簿に不動産の表示や権利に関する事項を記録することです。
・不動産登記には、「表示登記」と「権利の登記」があります。
・「表示登記」は、物理的な状況を正確に公示するという役割があるため、不動産の所有者には申請義務があります。
・「権利の登記」は、不動産の権利関係を第三者に対抗するために公示するという役割であって、申請人には申請義務が課せられていません。
・民法では「物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と規定しています(民法176条)。そのため、二重売買が行われる場合もありえます。
・民法では登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定しています(民法177条)。したがって、売買契約の順序にかかわりなく、先に所有権移転登記を完了させた者が、一方の買主を含む第三者に対し自らが所有者であることを対抗できることになります。このような効果を登記の「対抗力」といいます。先に登記をした方が優先されます。
・登記には、物権の表象を信頼した者は、たとえその表象が真実の権利関係と異なるときでも、その信頼が保護されることはありません。不動産登記には「公信力」がないのです。