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認知症対策としての注目の「家族信託」とは? PART1
認知症対策としての注目の「家族信託」とは? PART1
親が認知症になった時に心配になるのが介護と資産の管理です。資産の管理では、売却など重大な不動産の変更に関わることは、認知症になった人の場合できない、もしくは、認められないと考えておかなければなりません。基本的に不動産の売却には所有者の意思確認が必要です。認知症になり意思能力が無いとみなされれば売却はできません。そこで近年創設された、親が認知症になる前にでき資産管理の対策にもなる「家族信託」について紹介します。
目次
1. 認知症になった人は不動産の売買契約を締結できるのか?
(1) 本人の意思能がない重度の場合は、不動産売買契約を締結できないが、軽度の場合はできる。
(2) 意思能力の有無を判断するのは医師
2. 認知症になる前の対策
3. 家族信託とはどのようなものか
(1) 家族信託とは
(2) 認知症対策で「家族信託」が注目されるように
(3) 家族信託の基本的な仕組み
(4) 家族信託の内容
(5) 家族信託のメリット
(6) 家族信託のデメリット
(7) 家族信託導入までの基本的な進め方
(8) 家族信託に必要な書類
(9) 家族信託でかかる費用の相場
まとめ
1.認知症になった人は不動産の売買契約を締結できるのか?
(1) 本人の意思能がない重度の場合は、不動産売買契約を締結できないが、軽度の場合はできる。
所有している不動産の名義が高齢の親の場合、親本人の意思確認が求められます。具体的には、自分の行為によりどんな法律的な結果が生じるのかを判断できない場合は意思能力が無いとみなされ、売買契約を結べません。重度の認知症の場合が該当します。その場合行った売買契約は無効となります。
しかし、認知症の症状が軽度で意思能力があると見なされれば、所有者本人によって売却可能とみなされます。
(2) 意思能力の有無を判断するのは医師
認知症なのか、もし、認知症であるならばどの程度の症状で、本人に意思能力があるのかなどの判断は、医師の診察が必要です。医師が認知症の進行を診断する際は、以下のポイントが参考になります。
・既往症
・最初の異変と時期
・現在の症状と症状の進行度
・日常生活に支障のあるレベルか、単なるもの忘れなのか
2.認知症になる前の対策
親が認知症になる前であれば、以下の方法で不動産売却の準備をしておくことが考えられます。ただし、子供が財産の相続にばかり関心を持つのはなく、親の財産なのですから所有者である親の気持ちもよく聞くようにすることが重要です。
認知症になる前の不動産対策としては、次のようなものがあります。
①生前贈与で不動産の名義を変更する。
生前贈与は相続と比較した場合、相続人が複数いる場合の相続後のトラブルを回避するために、指定した人に不動産を渡せることがあります。もちろん、相続でも遺言により同様のことは可能です。ただし、遺言では解釈の相違が出ないように指示を具体的に明確にする必要があります。
贈与税対策では、次のような対策があります。
a. 年間110万円までは基礎控除となる「暦年課税」
b. 取り決めた相手から2,500万円まで贈与税が発生しない「相続時精算課税制度」
c. 夫婦間の場合は2,000万円まで非課税になる「贈与税の配偶者控除の特例」
ただし、贈与後3年以内に贈与者が死亡したケースでは、贈与財産は相続時精算課税制度により相続税の課税対象になったり、「暦年課税」が適用されなかったりするデメリットもあります。
②任意後見制度を利用する。
任意後見制度は、将来的に判断能力が不十分になった時のために、後見する人と後見事務の内容を、事前の契約によって決めておくものです。後見する人のことを任意後見人と呼びます。
任意後見制度のメリットは、親が自由に任意後見人を選出でき、任意後見監督人による任意後見人のチェックがあり、仕事の内容を確認できることです。一方でデメリットは、法定後見制度と同様の取消権がなかったり、任意後見人・任意後見監督人に報酬が必要であったりすることです。
③家族信託制度を利用する。
以下の項目で詳しく説明します。
3.家族信託とはどのようなものか
(1) 家族信託とは
家族信託とは、自分で自分の財産管理をできなくなってしまった時に備えて、信託という仕組みを使って、家族に自分の財産の管理や処分をできる権限を与えておく方法です。
また、家族信託は、財産管理のための報酬が発生しない家族間で行われるものです。
(2) 認知症対策で「家族信託」が注目されるように
家族信託が注目されている大きな要因は、従来の相続対策ではできなかったことが、家族間の信託という方法で実現できるようになり、認知症対策にもなる点です。
従来、認知症により判断能力を喪失してしまうと、本人の財産を管理するには成年後見制度を利用するしかありませんでしたが、成年後見制度を利用すると、資産を組み替え等で本人の財産を柔軟に活用することができませんでした。
ところが、家族信託を利用すれば、家族信託の目的に応じて、本人の財産を柔軟に活用することができます。
また、親が認知症になっても、本人に対して意思確認手続きが不要で、信託契約を結んだ家族が不動産の売却などの資産活用ができるメリットがあります。
(3) 家族信託の基本的な仕組み
➀信託とは
信託とは、財産を所有する委託者が、受託者に財産の所有権を移転(信託)して、受託者は、信託による利益を受ける受益者のために財産の管理や処分を行います。
信託は、信託銀行や信託会社が営業として行う「商事信託」とそれ以外の「民事信託」に分かれ、民事信託の中でも家族を受託者にする信託を「家族信託」と呼びます。
②「委託者」、「受託者」、「受益者」の3者が当事者となる。
家族信託では「委託者」、「受託者」、「受益者」の3者が当事者となります。
財産の所有者である「委託者」が、遺言や信託契約によって「受託者」に財産の管理処分の権限を与え、最終的に「受益者」が財産からの収益を受け取れるようにする形が一般的です。
また、委託者自身が受益者となることも問題ありません。親が委託者と受益者になり、子供が受託者になるケースが多くあります。
「委託者」、「受託者」、「受益者」の意味は下記の通りです。
・「委託者」
財産を受託者に引き渡して信託を設定する。受託者に信託財産の管理・処分の指示もする。
・「受託者」
委託者から財産を引き受け、信託の目的に従って信託財産を管理・処分する。
・「受益者」
信託財産を管理・処分したことで得られる利益を受ける。
(4) 家族信託の内容
信託の内容は委託者の意思を反映する形で自由に作ることができます。一般的に信託の内容に記載すべきこととしては以下の事項があります。
・信託の目的と信託する財産の明示
・委託者、受託者、受益者の明示
・委託者から受託者への所有権の移転時期の明示
・委託者から受託者への信託財産の所有権移転の手続きとその費用負担の明示
・信託開始日前後に区分した、信託財産にかかる収益と費用の帰属者の明示
・信託財産にかかる瑕疵担保責任の記載
・受託者が行う信託財産の管理運用事務の裁量権の記載
・受託者が負う注意義務
・受益権の譲渡、承継、質入れに関する事項
・信託財産の運用方法
・信託の計算期間と受託者から受益者への報告方法に関する記載
・信託財産からの分配可能な配当金の交付に関する記載
・信託期間の明示
・信託契約の解除事由の明示
・信託の終了事由と残余財産の帰属者の明示
などです。
(以下PART2に