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認知症対策としての注目の「家族信託」とは? PART2
認知症対策としての注目の「家族信託」とは? PART2
(PART1より続く)
目次
1. 認知症になった人は不動産の売買契約を締結できるのか?
(1) 本人の意思能がない重度の場合は不動産売買契約を締結できないが、軽度の場合はできる。
(2) 意思能力の有無を判断するのは医師
2. 認知症になる前の対策
3. 家族信託とはどのようなものか
(1) 家族信託とは
(2) 認知症対策で「家族信託」が注目されるように
(3) 家族信託の基本的な仕組み
(4) 家族信託の内容
(5) 家族信託のメリット
(6) 家族信託のデメリット
(7) 家族信託導入までの基本的な進め方
(8) 家族信託に必要な書類
(9) 家族信託でかかる費用の相場
まとめ
3.家族信託とはどのようなものか
(5) 家族信託のメリット
家族信託のメリットには次のような点があります。
①本人(老親など)の体調・判断能力に左右されず財産の管理処分が実現できる。
本人の元気なうちから財産管理を託せるとともに、託した後に本人の判断能力が低下・喪失しても、本人の意思確認手続きが本人に対して行われないので、財産管理の担い手たる子(受託者)主導で、不動産などの管理や売却が実行できます。
具体的には、家族信託を事前に組んでおくことで、老親が老人ホームに入所したために空き家となった実家(老親の自宅)を、適切な時期に受託者が売却できる等のメリットがあります。
②遺言の機能+受遺者の財産管理ができる。
本人の死亡により遺産をもらった者が既に財産管理の能力が無い場合、例えば、夫が亡くなった後に遺された認知症の妻がいる場合、受遺者である認知症の妻に成年後見人を就けて、財産管理を担ってもらう必要が出てくるかもしれません。
しかし、家族信託だと、遺言として、本人死亡後の財産の承継者を家族信託の契約書の中で指定でき、本人が亡くなった後も引き続き子である受託者の下で、財産の管理が可能となります。信託の仕組みの中で、妻の生涯にわたる財産管理・生活資金を、子によりサポートすることができます。
③家族信託で自分の生前に資産承継の道筋が実現できる。
家族信託では、遺言ではできない孫の代まで、2次相続以降の資産の承継先まで、自分で指定することができます。この機能により、自分の希望する順番で何段階にも資産承継者(受益者)の指定が可能となります。また、後々の遺産分割協議による争いの余地を排除できます。家業の継承などの場合が考えられます。
(6) 家族信託のデメリット
下記の注意すべき点が挙げられます。
①司法書士などの専門家に依頼する場合はある程度の費用がかかる。
費用の目安は後述します。
②登記申請が必要
家族信託を利用する際に必要な手続きでは、信託契約と法務局での登記申請が必要です。
③税務申告の手間が増す。
資産の一部又は全部を信託財産に入れた場合、そこから年間3万円以上の収入がある場合は、信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出しなければなりません。
また、毎年の確定申告の際、信託財産から不動産所得がある人は、不動産所得用の明細書の他に、信託財産に関する明細書を別に作成して添付しなければなりません。
④長期に亘り当事者を拘束する。
信託の持つ機能として1次相続だけでなく、2次相続以降の財産承継者まで自分一人で決定できるという画期的な面があります。
これにより、相続関係が複雑な家庭(前妻と後妻との間に子がいるケース)などの資産承継や事業承継などでは、この機能が大きな効果を持つ可能性があります。
一方で、何世代にもまたがり、長期に亘って資産の処分に制限をかけるようなことにもなりかねず、かえって争族や不測の事態を誘発しかねないリスクがあるのも事実です。
(7) 家族信託導入までの基本的な進め方
家族信託導入に必要な、基本的となる作業内容は主に下記の3つです。
・家族信託の設計
・家族信託契約の公正証書の作成
・信託開始のための手続き
かかる期間の目安はだいたい1カ月半~3カ月程度です。
①家族信託の設計
家族信託で一番重要な作業内容は、この「家族信託をどのように設計するか」です。本人と受託者との間だけではなく、家族、関係者との話し合いが不可欠です。家族間で、家族信託の仕組に対する同程度の理解や、家族それぞれの希望が共有されることで、円満で安心の財産管理体制をつくることができます。家族会議のポイントは次のようなものです。
・家族信託を実施する目的は何か
・今後の財産管理をどのように家族に任せていくのか
・どの財産を信託するのか
・誰を委託者、受託者、受益者とするのか
生前対策には、遺言、生前贈与、成年後見制度と様々な制度を活用することができるので、希望をどう実現するのかを、多くの選択肢の中から考えていきます。
②家族信託契約の締結
・信託契約における契約の内容を決める。
a. 誰が(委託者:親)、誰に(受託者:子)、何のために(目的:認知症対策のため)、何の(信託財産:現金預金・自宅)管理運用を任せるのか決める。
b. 信託財産の将来的な帰属先(相続先:子等)を決める。
c. 将来的に家族が揉めないように、家族全員で内容を確認する。
・契約書を作成する
家族信託の契約書案を作成します。専門家に依頼する場合は内容をチェックしてもらい、本人の判断能力の確認などを行います。
③信託用口座(しんたくぐちこうざ)の開設
信託財産を管理運用するための体制を整えるため、受託者が現金・預金を管理運用するための、「信託口口座」を準備します。信託口口座とは、家族信託で預けたお金を管理・運用するための口座です。一般的な普通口座とは異なり、名義が「委託者○○受託者△△信託口」など委託者と受託者連名となります。
信託口口座を開設できる金融機関と打ち合わせ開設します。金融機関でも家族信託に力を入れている信託銀行などがありアドバイスも受けれられます。
④受託者が不動産を管理運用する場合の必要な不動産登記の準備
不動産を信託した場合には、不動産の信託登記手続(不動産の名義変更)を行います。法務局に申請しますが、司法書士に依頼するのが一般的です。
⑤公正証書の作成
公正証書を作成することもできます。公証役場にて作成します。また、本人が出向くことができない場合は公証人の出張対応もあります。信託財産に不動産があれば、司法書士による登記に関する意思確認をします。
⑥信託財産の名義変更
信託財産の管理運用のために所有者の名義変更をします。
⑦信託口口座の開設と信託口口座への送金
現金や預金が信託財産なら、それらのお金を管理するための専用口座を開設し、開設した専用口座に信託財産のお金を入金して管理していきます。受託者が金融機関に口座開設をし、委託者が送金します。
⑧家族信託運用の開始
上記の作業内容を経て、家族信託の運用が開始します。
(8) 家族信託に必要な書類
信託の内容によって必要書類の種類も変化しますが、基本的には公証役場で信託契約書を公正証書にするタイミングで以下の書類等を用意しておかなければなりません。
・本人確認資料
運転免許証やマイナンバーカードなどの、公的機関から発行された書類。
・受託者と受益者の印鑑証明書
信託契約書は公正証書での作成が一般的です。公証役場で、受託者と受益者の印鑑証明書が必要です。
・受託者と受益者の実印
・信託する財産に関する資料
土地や建物といった不動産を家族信託の対象にするなら、不動産の「登記事項証明書(登記簿謄本)」が必要です。また、不動産の価格を証明するための、「固定資産税評価証明書」や「固定資産税課税明細書」も準備します。
・戸籍謄本
・不動産の登記済証または登記識別情報
不動産登記の名義変更の場合に必要です。
・受託者の住民票
その他
(9) 家族信託でかかる費用の相場
信託財産の額を基本に、公正証書を作成するか、不動産を扱うのか、司法書士などに依頼するのかなどにより異なります。
①家族信託を専門家(司法書士、弁護士など)に依頼した場合の相談、コンサルティング料
費用相場は信託財産の価格によって異なり、1億円以下の信託財産なら価格の1%、1億円超で3億円以下なら価格の0.5%です。最低でも10~15万円で100万円程度までが目安です。
②公書正証作成費用
公正証書作成手数料(公正証書作成の手数料として公証人へ支払う費用)は3~10万円程度が目安です。契約の内容や信託財産額に応じて費用が変わります。
③不動産登録免許税(信託財産に不動産が含まれている場合)
不動産価格の1,000分の4に相当する額を法務局へ税金として納めます。ただし、税率が1,000分の3に軽減される期限の規定があり確認が必要です。
まとめ
・認知症になった人は、本人の意思能緑がない重度の場合は不動産売買契約を締結できませんが、軽度の場合はできます。
・家族信託とは、「自分で自分の財産管理をできなくなってしまった時に備えて、信託の仕組みを使って、家族に自分の財産の管理や処分をできる権限を与えておく方法」です。
・親が認知症であっても、本人に対しての意思確認手続きが不要で、信託契約を結んだ家族が不動産を売却できるメリットがあります。
・信託とは、財産を所有する委託者が、受託者に財産の所有権を移転(信託)して、受託者は信託による利益を受ける受益者のために、財産の管理や処分を行います。
・家族信託では「委託者」、「受託者」、「受益者」の3者が当事者となります。
・信託財産を管理運用するための体制を整えるため、受託者が現金・預金を管理運用するための、「信託口座」を信託銀行などの金融機関で開設します。