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公益団体に「不動産を遺贈・寄付」できるか?
公益団体に「不動産を遺贈・寄付」できるか?
自宅などの不動産を遺贈寄付したいと考える方が増えています。特に、子どものいない方は相続人が兄弟姉妹や甥姪になるため、自分が亡くなった後は空き家になる可能性が高く、引き取り手がいないのなら公益団体に遺贈寄付しようと考えるようです。また、最近は親から相続した実家が既に空き家になっているケースも非常に多く、有効に活用してもらいたいと寄付を考える方も増えています。しかし、現金寄付と違い不動産の遺贈、寄付は受け入れるところが少ない現状です。不動産の遺贈・寄付についての可能性や、税金の扱いなどについて紹介します。
目次
1. 不動産の遺贈・寄付を受け付けている公益団体は少ない。
2. 不動産を遺贈寄付すると決めたらすべきこと
3. 不動産を寄付する場合の「みなし譲渡課税」
(1) 生前に不動産を寄付した場合
(2) 遺言で不動産を遺贈寄付した場合
(3) みなし譲渡課税を相続人が支払うことを防ぐには
4. 相続財産を公益法人などに寄附したときの相続税の特例
(1) 国、地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附した場合の特例
(2) 特例の適用除外
5. 公益団体の不動産の遺贈の受入対応の例
まとめ
1.不動産の遺贈・寄付を受け付けている公益団体は少ない。
不動産の遺贈・寄付を受け付けている公益団体はとても少ないのが現状です。これには様々な理由があります。現金の寄付とは異なり、次のような問題があります。
・寄付された不動産を団体の活動に利用できるかわからない。
・換金する場合でも必ず売却できるとは限らない。
・不動産の管理に費用がかかる。放置すれば火災・不法投棄などの管理リスクがある。
・遺留分に違反していないかどうかの管理が必要になる。
これらは不動産特有のリスクです。このような事情から、多くの団体は、不動産は相続人や寄付する人が売却した上で現金で寄付することを求めています。
したがって、不動産を遺贈寄付しようと考えた場合、寄付先の団体が不動産の遺贈を受け付けているかをまず確認することが重要です。
2.不動産を遺贈寄付すると決めたらすべきこと
寄付先の団体が不動産遺贈を受け付けている場合は、寄付する不動産をそのまま団体に利用してもらいたいのか、それとも不動産を売却しても構わないのかをはっきり伝える必要があります。不動産に思い入れがあって、どうしても団体に現状のまま利用してほしい場合は、受け入れ団体により活用方法が無ければ断る場合もあります。不動産を売却しても構わない場合は、不動産の遺贈を受けてもらえる可能性が高くなります。
受け入れ団体側で、不動産の現物での遺贈が難しく相続人の寄付者側で換金する場合は、
不動産を遺言執行者が換価して現金で寄付する方法(換価型遺言)になります。
3.不動産を寄付する場合の「みなし譲渡課税」
不動産の寄付や遺贈寄付をする際には、「みなし譲渡課税」に注意する必要があります。これは、寄付をする不動産の取得価格(買った時の価格)よりも寄付した時の時価が高い場合に、その差額に対して課税する制度です。
みなし譲渡益は、相続発生時の時価が、不動産取得費(遺言者が不動産を購入した額)を上回ったときの差益となります。取得費は、確認できる資料が残っていないなどでわからなければ、相続発生時の時価の5%として計算されます。
税率は、5年超の長期保有で20.315%、短期保有で39.63%となっています。
(1) 生前に不動産を寄付した場合
生前に個人が法人へ不動産を寄付した場合には、不動産を売却したのと同じように(売却したものと「みなし」て)課税されます。その納税義務者は寄付者で、確定申告で納税しなければなりません。
不動産を現物のまま寄付するとこのような事態になりますので、生前に寄付する場合は、寄付者自身が不動産を売却して譲渡課税を支払い、売却代金から税金や経費を差し引いた残金を寄付した方が適切と思われます。
(2) 遺言で不動産を遺贈寄付した場合
不動産を遺言で遺贈寄付した場合も同じようにみなし譲渡課税がかかるのですが、寄付者である遺言者は既に亡くなっていますので、その相続人が代わりに準確定申告(死亡日から4カ月以内)で納税します。
相続人の立場で考えてみれば納得がいかないかもしれませんが、不動産を受け取ってもいない相続人が税金だけ負担することになります。
(3) みなし譲渡課税を相続人が支払うことを防ぐには
事前に団体が税金を負担することに合意していれば、遺言に「みなし譲渡課税を受遺者に負担させる」と記載し、相続人とのトラブルを回避できます。ただし、受け入れ団体側が税金を負担することになり受入れるかどうかの問題があります。
4.相続財産を公益法人などに寄附したときの相続税の特例
相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国、地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人、認定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合や特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があります。
(1) 国、地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附した場合の特例
この特例の適用を受けるには、次の要件すべてに当てはまることが必要です。
➀寄附した財産は、相続や遺贈によって取得した財産であること。
②その取得した財産を相続税の申告書の提出期限までに寄附すること。
③寄附した先が国、地方公共団体、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の公益法人であること。
(注)上記の特定の公益法人の範囲は、独立行政法人や社会福祉法人などに限定されています。
その他、「特定の公益信託の信託財産とするために支出をした場合の特例」、「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合の特例」があります。
(2) 特例の適用除外
次の場合はこれらの特例の適用を受けることができません。
・寄附又は支出した人あるいは寄附又は支出した人の親族などの相続税又は贈与税の負担が結果的に不当に減少することとなった場合
例えば、財産を寄附した人又は寄附した人の親族などが、寄附を受けた特定の公益法人などを利用して特別の利益を受けている場合は、これに該当することになります。
*国税庁「相続財産を公益法人などに寄附したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4141.htm
5.公益団体の不動産の遺贈の受入対応の例
➀公益財団法人日本ユニセフ協会
現金や預貯金などの動産だけでなく、「将来、自宅の寄付を考えているけれど、最期まで住み慣れたところで暮らしたい」など、不動産の遺贈についても検討の上対応しています。用途は、世界の子どもたちの命や未来を守るため、ユニセフの活動に役立てさせてることです。
https://www.unicef.or.jp/cooperate/navi/005.html
②公益財団法人さわやか福祉財団
現金・預貯金をはじめ、有価証券や不動産も受けいれています。(ただし、流動性の高いもので、動産・不動産いずれも、原則は市場で、時価で売却のうえ活用します)。資産の整理処分に経費がかかる場合は、支払いは寄付額から行います。
https://www.sawayakazaidan.or.jp/bequest-donation/
③公益財団法人日本対がん協会
がんに負けない社会をめざし、がんで苦しむ人や悲しむ人を一人でも減らすための活動に役立てます。日本対がん協会では、金融資産をはじめ土地・家屋などの不動産の遺贈も対象にしています。
https://www.jcancer.jp/
④公益財団法人日本自然保護協会
不動産・有価証券など評価額が変動する資産の寄付は、遺言執行者に換価していただき、かかる費用や税金を差し引いた残余の現金を引渡すことをお願いしていますが、条件によっては現物のままでの遺贈も承っています。
ただし、不動産(土地・建物)の場合、絶滅危惧種の生息地など自然度の高い土地や、当会の事務所・倉庫などに活用できるような建物をのぞいては、受遺後の速やかな売却を了承いただけるものに限っています。なお、売却額が低い見込みの物件や、売却が困難であると想定されるもの、リスクが付随している物件は対象外となります。
https://www.nacsj.or.jp/nacs_j/about/
まとめ