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「贈与税の配偶者控除」と「相続税の配偶者控除」の比較
「贈与税の配偶者控除」と「相続税の配偶者控除」の比較
夫婦間の相続や贈与を通して財産が移転した場合の税金で、いくつかの優遇措置が認められています。代表的なものとして、夫婦間で居住用不動産(マイホームまたは購入資金)の贈与を行なう場合の「贈与税の配偶者控除」と、相続により配偶者が財産を取得した場合の「配偶者に対する相続税額の軽減」(以下、相続税の配偶者控除)があります。いずれも税制上の優遇措置により、税負担を最小限におさえて財産を移転させることができます。それぞれの控除の制度の内容とメリット・デメリットを通じて、双方を比較して説明します。
目次
1. 贈与税の配偶者控除
(1) 贈与税の配偶者控除の概要
(2) 贈与税の配偶者控除の要件
(3) 贈与税の配偶者控除のメリット
(4) 贈与税の配偶者控除のデメリット
2. 相続税の配偶者控除
(1) 相続税の配偶者控除の概要
(2) 相続税の配偶者控除の要件
(3) 相続税の配偶者控除のメリット
(4) 相続税の配偶者控除のデメリット
まとめ
1.贈与税の配偶者控除
生前に贈与する場合には、「贈与税の配偶者控除」という優遇措置が利用できます。制度の概要と要件、メリット・デメリットを整理します。
(1) 贈与税の配偶者控除の概要
贈与税の配偶者控除とは、「おしどり贈与」とも呼ばれるもので、婚姻期間20年以上の夫婦間に認められ、マイホームとなる居住用不動産の贈与を受けた場合や、金銭の贈与を受けてマイホームとなる居住用不動産を購入し住み始めた場合に利用でき、贈与を受けた財産の価額から最高2,000万円まで控除(非課税枠となる)されるものです。
もともとの暦年課税贈与の年間110万円と、この贈与税の配偶者控除を合わせて、同じ年にほかに贈与を受けていないのであれば、年間最高2,110万円までの贈与財産について贈与税がかかりません。
ではなぜ、婚姻期間20年以上の夫婦にはこのような優遇が認められているのでしょうか。
一般的な世帯では、一生のうちで最も高い買い物とも言えるのがマイホームであり、マイホームの購入に、夫婦の協力は不可欠です。マイホームの名義が夫だった場合でも妻の貢献もあるはずです。妻に対して、夫が生前に自宅を贈与し自分の死後も妻が安心して住み続けられるようにしたいと思った場合の配慮として、一定の範囲で贈与税を優遇しようということで設けられたものです。
(2) 贈与税の配偶者控除の要件
贈与税の配偶者控除を活用する際の要件は、以下の3点です。
①夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
②配偶者から贈与された財産が居住用不動産であること、または、居住用不動産を取得するための金銭であること
③贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
(注)
・「居住用不動産」とは、もっぱら居住の用に供する土地、もしくは、土地の上に存する権利または家屋で、国内にあるものを言います。
・配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることができません。
(3) 贈与税の配偶者控除のメリット
①最高年間合計2,110万円まで贈与税がかからないこと
贈与税の配偶者控除の最大のメリットは、暦年課税贈与の110万円を加えた年間合計2,110万円まで贈与税がかからないということです。
具体的な利用方法としては、例えば、結婚20年の記念に、夫名義のマイホーム(土地建物)の持ち分を土地建物、土地だけ、建物だけの2,110万円相当分だけ妻に贈与する方法が考えられます。
②将来配偶者が亡くなった場合に、相続財産にならず相続税がかからないこと
例えば、将来夫が亡くなった場合には、すでに妻名義になっているマイホームの全部または一部は、夫の相続財産にはならないので遺産分割の対象にならず相続税がかかりません。相続税対策としてメリットがあります。
③相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産への加算の対象外となること
通常は、現状では相続開始前3年以内に行われた贈与については、相続財産に加えて相続税の対象となります(3年間の7年への延長について検討中)。それが、贈与税の配偶者控除の場合は、相続開始前3年以内であっても相続財産に加えなくてよいのです。
④将来、マイホームを売却する時に、夫婦それぞれが「居住用財産の3,000万円特別控除」を利用できること
贈与税の配偶者控除を行ってマイホームの持ち分の一部を配偶者に贈与しておくことで、将来、マイホームを売却する時、夫婦それぞれが「居住用財産の3,000万円特別控除」を利用できます。
(4) 贈与税の配偶者控除のデメリット
①不動産取得税がかかること
マイホームを贈与してもらった配偶者に対して、不動産取得税(地方税)がかかります。
不動産取得税は、相続の場合はかからないのですが贈与の場合はかかります。令和6年3月31日までに取得した不動産の場合、土地も住宅も固定資産税評価額の3%の税率で課されます。ただし、一定要件を満たす土地や住宅の場合、軽減措置が受けられます。
②登録免許税が相続よりも高くなること
名義変更などの登記の際にかかる登録免許税も、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は固定資産税評価額の2%の負担となります。
③毎年、固定資産税や都市計画税がかかること
マイホームの一部を取得した配偶者に対して、その後、毎年、固定資産税や都市計画税がかかります。
④子供がいない場合、先に妻に相続があると意味がなくなることもある。
贈与してもらった妻が夫より先に死んでしまい子供がいない場合は、贈与した意味がなくなってしまいます。妻が先に死んでしまうと、妻の財産を夫が相続をすることになり、結局財産を夫に戻すことになってしまうからです。子供がいれば、妻の財産を子どもが相続するように配分したりすることができます。ただし、遺言書が必要な場合もあります。
2.相続税の配偶者控除
配偶者が死亡した場合には、相続税の配偶者控除という優遇措置が利用できます。制度の概要と要件、メリット・デメリットを整理します。
(1) 相続税の配偶者控除の概要
相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
①1億6千万円
②配偶者の法定相続分相当額
仮に、正味財産額が4憶あり、配偶者の法定相続分が2分の1だとすると、配偶者が取得する正味財産額としては2憶円まで相続税はかかりません。また、正味財産額が2億円であり、配偶者の法定相続分が2分の1だとすると配偶者の取得財産は1億円であり、1億6千万円以下であり相続税はかかりません。なお、正味財産額とは、プラスの財産から債務や葬式費用など相続財産から除かれるマイナスの財産を差し引いた金額をいいます。
(2) 相続税の配偶者控除の要件
相続税の配偶者控除の要件では次の点があります。
①遺産分割が成立していること
②相続税の申告が必要なこと
相続税の配偶者控除は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
ただし、相続税の申告書または更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。
なお、相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4カ月以内に分割された時も税額軽減の対象になります。
(3) 相続税の配偶者控除のメリット
①1憶6千万円までの正味財産額までは相続税がかからないこと
配偶者に多めの財産を残せます。正味財産額は一般的には1憶6千万円以下の場合が多く配偶者には相続税がかからない場合がほとんどです。
②その他の税もほとんどかからないこと
課税は登録免許税(税率0.4%)のみです。
③相続では「小規模宅地等の特例」の控除が使えること
被相続人である配偶者が住んでいた土地(宅地)を配偶者が取得する場合、330㎡までの部分については土地の評価額を8割減額できる「小規模宅地等の特例」の控除が使えます。この場合、宅地の評価額は2割にしかならず、最低1憶6千万円までの正味財産額までは相続税がかかりません。
(4) 相続税の配偶者控除のデメリット
相続税の配偶者控除の要件で遺産分割が成立していることがあります。「争続」になり遺産分割協議がまとまらない場合は、基本的に相続税の配偶者控除は利用できません。生前に遺言書を作成するなどの対策が必要です。
まとめ