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負動産も相続するのか?
負動産も相続するのか?相続の単純承認、限定承認、相続放棄とは―
親などが亡くなり自分が相続人になった時、必ずしも相続しなければならないわけではありません。被相続人に個人的な借金がある場合や被相続人が経営者であった会社が倒産している場合の債務の存在が絡むなどからです。相続はプラスの財産も引き継ぎますが借金などのマイナスの財産も引き継がなければならないからです。相続するかしないかは相続人が判断できます。負動産も含めた相続財産についての、相続の単純承認、限定承認、相続放棄とはどのようなものかを紹介します。
1.相続の対象にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれる。
相続の対象はプラスの財産としては、金融資産である、現金、預貯金、有価証券などがあり、」不動産の資産があります。また、その他の債権、権利もあります。逆に、マイナスの財産では、債務があります。債務は、被相続人が支払わなければならなかったものすべてで、相続開始の際に確実に存在するものに限り債務控除の対象になります。具体的には、借入金、ローン、未払いの税金・公共料金・医療費、買掛金、未払金、敷金などの預り金などです。
抵当に入っている不動産では借入金がマイナスの財産になります。ただし、不動産の価値=実勢価格は一般的には借入金の設定以上にはなると思われます。
2.負動産を相続するとは
(1) 負動産とは
負動産とは、地方にある古家や山林・農地、法的に問題があり再建築不可の物件、自然災害の危険性のある土地、公害の恐れもある土地、隣地に廃棄物処理場・ゴミ焼却場・ゴミ屋敷・悪臭発生工場・騒音施設などの嫌悪施設がある土地、擁壁工事が必要ながけ地、耐震補強工事が必要なビル、樹木がうっそうと立っていて売るには伐採に多大な費用がかかる土地、
老朽大型コンクリート施設などで解体費用が多額にかかる土地、原野商法で買わされた将来上昇の見込みのない地方の土地、バブル期に買った地方のリゾートマンションなどがあります。
(2) 負動産を相続するとは
負動産も基本的にはプラスの財産として相続の対象となります。相続を承認(後述)する場合には相続人の誰かが相続することになります。
3.相続するかしないかは相続人が判断できる。
相続はマイナスの財産も引き継ぐことを検討しなければなりません。財産の額が少ない場合では、「争族はしたくない」、「父の介護を永年やってきた母に全額渡したい」、「親の経営してきた会社に負債があり借金をかぶりたくない」など相続を辞退する人もいるかもしれません。相続には家族の様々な事情が絡むため、相続人は相続するかしないかを自分で判断することができます。
4.相続するかどうかを決める期間は?
相続するかどうかを決めるには、「相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」です。これを熟慮期間と言います。通常近親者であれば被相続人の死亡について知ることができます。しかし、長期間海外に行っていて連絡先が分からない場合や、付き合いがなくなり音信不通の場合、親子絶縁状態で連絡をお互いに取らない場合など、相続人が被相続人の死を知らない場合があります。そのため単純に相続があった日ではなく、「相続の開始があったことを知った日」としています。
5.遺産相続には3つの選択肢がある。
相続の方法には3つあります。単純承認、限定承認、相続放棄の3つです。
{1} 単純承認
プラスの財産もマイナスの財産もすべて無条件で引き継ぐことです。何も手続きをせずに3カ月が過ぎれば自動的に承認したことになります。これを単純承認と言います。3カ月以内に財産の一部を売却しても自動的に単純承認したことになります。ほかの相続人との合意は不要で単独で行えます。
注意しなければならないのはマイナスの財産の把握です。分かりにくいのは連帯保証などの保証行為です。被相続人が他人の連帯保証人になっていた場合、本人の経営していた会社が倒産し、債権者である金融機関などが連帯保証人に多額の金額を請求してきた場合などです。とかく連帯保証契約をしているかどうかなどは不明な時が多く、相続では知らない間に債務も引き継いでしまうこともありうるのです。
連帯保証については本人に生前に聞き出しておくべき事項です。すでに遺産分割協議も終え、取得した財産の処分も終えていたら相続の放棄もできません。連帯保証債務を背負うことになってしまいます。
{2} 限定承認
プラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐというものです。プラスの財産額とマイナス財産額のどちらが多いか分からない場合にこの方法が考えられます。しかし、限定承認の適用は条件が厳しくなっています。条件は次のようなものです。
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相続人全員の合意
相続人に反対者がいれば実行できません。
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限定承認申立書と財産目録の家庭裁判所への提出
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相続の開始または相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に上記手続きを行うこと
上記の手続きが面倒なため実際に適用されることは少ないのが実情です。
{3} 相続放棄
相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がない方法です。故人に借金などが多い場合に行います。また相続人自身が多額の借金があり相続を受けても債権者にすべて持っていかれてしまうため辞退する場合や自己破産している場合も考えられます。
相続放棄をすると最初から相続人にならなかったと見なされ、同順位の相続人がいればその人の相続分が増えます。例えば兄弟姉妹が3人いて、うち1人が相続放棄したならば他の2人の相続分が増えることになります。同順位の相続人がいなければ次の順位のものが繰り上がります。
相続放棄の場合、相続権は代襲相続しません。代襲相続とは相続放棄した人に子供がいる場合に子供、孫が代わって相続することです。相続放棄者の子供や孫には相続権がありません。
一方借金については1人が相続放棄すればその借金の返済義務は他の相続人に移ります。プラスの財産もマイナスの財産も相続放棄した以外の人に移転します。
相続放棄で相続の権利義務はすべて失いますが、相続財産とみなされない形見分け品、仏壇・仏具・墓の権利などの祭祀財産、遺族年金、死亡退職金、受取人が被相続人以外の生命保険金などは受け取れます。
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相続放棄の条件
相続放棄の条件は次のようなものです。
ア. 相続放棄は単独で行えます。
イ. 相続放棄申請書の家庭裁判所への提出
ウ. 相続の開始または相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に上記手続きを行うこと
エ. 相続放棄は一度手続きをしたら取り消し不可
取り消しが認められるのは脅迫やだまされることによって相続放棄をしてしまった場合などです。また未成年が単独でした場合です。
その他相続放棄で注意しなければならない点では、
ア. 被相続人名義の土地建物に相続放棄者が住んでいた場合
被相続人と同居していた場合、また別の家でも、被相続人名義の物件であれば基本的にはその土地建物を手放すことになります。
イ. 被相続人名義の車に乗っていた場合
同様に基本的にはそのものを手放すことになります。
- 不動産の相続放棄を決めた場合の方法
不動産の相続放棄の方法を紹介します。
ア. 相続放棄の期限は相続を知った時から3カ月以内
相続には期限はありませんが、相続放棄には期限があります。
相続放棄をするためには、被相続人が亡くなり相続する遺産があると知ってから3カ月以内に家庭裁判所へ申立をする必要があります。
イ. 相続放棄申述書の提出
不動産の相続放棄をするには「相続放棄申述書」を作成し、必要書類を添えて家庭裁判所への提出が必要です。
申述書の様式は裁判所のホームページからダウンロードが可能です。
必要書類と費用は次の通りです。
・相続放棄申述書
・申述人の戸籍謄本
・被相続人の除籍謄本
・被相続人の住民票の除票
・収入印紙800円
提出先:被相続人の住所管轄の家庭裁判所
ウ. 裁判所からの照会書に記入、返送する。
相続放棄申述書を提出すると、相続放棄に関して裁判所から照会書が届きますので、回答した上で返送します。
照会される内容は、被相続人との関係や相続開始日の確認、すでに処分してしまった相続財産はないかなどです。
エ. 裁判所から受理通知書が届く
照会書を返信し、問題がなければ相続放棄の申述が受理され、受理通知書が郵送で届きます。
申立から受理までは、申述書や照会書の内容に不備や問題点がなくスムーズに進んだ場合で1~2カ月程度かかります。
もし相続放棄の申述が受理されなかった場合は、相続放棄不受理通知書が届きます。
不受理に納得がいかない場合は、2週間以内に高等裁判所へ即時抗告をすることができます。
相続放棄の申立は相続人自身で行うほか、司法書士や弁護士にも代行を依頼することができます。
- 相続人全員が相続放棄したらどうなるか?
相続人全員が相続放棄したらどうなるのかです。被相続人の借金が多額と思われる場合などです。相続人全員が相続放棄すると相続人不存在になります。
裁判所が財産管理人を定めて債権者などを確認し、残余財産があれば弁済しますが、なければ債権者へ弁済することはできないため債権者は債権を回収できないことになります。
6.負動産の相続をどうするか
明らかに相続放棄したほうが良い場合は亡くなった親が会社経営をして多額の負債がある場合です。連帯保証が新たに見つかるリスクもあり、相続には危険性があると言えます。
また、被相続人に金融資産がなく負動産しかない場合は、負動産の内容の検討、評価額の検討、リスクの分析をし、相続するか相続放棄するかを判断します。
(1) 負動産も含めて単純承認が多い。
多くの場合、負動産はあっても総合的にはプラスの財産が多い場合が多く単純承認となります。
(2) 相続人の誰が負動産を相続するか?
負動産も相続人の誰かが相続しなければなりません。
相続人が複数いれば、遺産分割協議をし、どの財産は誰のものにするかを決めなければなりません。
負動産について自分が引き受けなければならないならば、不動産の評価額、固定資産額、維持管理費、売却の可能性・市場性、賃貸の可能性、有効活用の可能性などを調べ、プラスの資産価値からリスク費用を差し引き相続としての引受額相当額を計算し、分割協議の際の価格として提案し合意をえます。
まとめ
・相続の対象にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれること。
・負動産とは、地方にある古家や山林・農地、法的に問題があり再建築不可の物件、自然災害の危険性のある土地、公害の恐れもある土地、隣地に廃棄物処理場・ゴミ焼却場・ゴミ屋敷・悪臭発生工場・騒音施設などの嫌悪施設がある土地、擁壁工事が必要ながけ地、耐震補強工事が必要なビル、樹木がうっそうと立っていて売るには伐採に多大な費用がかかる土地、老朽大型コンクリート施設などで解体費用が多額にかかる土地、原野商法で買わされた将来上昇の見込みのない地方の土地、バブル期に買った地方のリゾートマンションなどのことです。
・相続するかしないかは相続人が判断できること。
・相続の方法には単純承認、限定承認、相続放棄の3つがあること。
・相続するかどうかを決める期間は、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内です。