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売主としての買主の資力の情報収集とリスク管理
売主としての買主の資力の情報収集とリスク管理
不動産業者を介して買主の候補が出てきた場合、売主としては価格の条件と共に、買主に物件を買う資力があるかどうか、買主の信用度などについても関心があります。しかし、売主は、売主が依頼をした不動産会社を通じてしか、また、売主側不動産会社は、買主側の不動産会社としか接していません。売主が依頼をした不動産会社は、買主と接することなく、買主側不動産会社から買主の情報収集をするしかありません。その時点で分かる範囲の情報しか得られないのが実態です。売主としては早い時期から買主の情報を得るのは難しいとしても、買主との売買契約の交渉時点では買主と間接的でも交渉は可能であり一定の買主に対する情報収集は可能です。
目次
1. 買主の資力、リスクの把握
(1) 売主にとっての買主の資力、リスクの把握のニーズ
(2) 買主の資力、信用度の把握は誰がやるのか?
2. 不動産仲介業者の義務
3. 売主としての情報収集とリスク回避
(1) 情報収集
(2) リスク回避の方法
まとめ
1.買主の資力、リスクの把握
(1) 売主にとっての買主の資力、リスクの把握のニーズ
契約を締結したものの、買主に十分な売買代金の支払能力がなかったために、売買契約を解除せざるを得ないという場合があり得ます。また、買主が住宅ローンにて物件を購入する場合は、買主が住宅購入のためにローン申請をし、金融機関から融資が受けられなくなった場合は契約を解除するローン特約があります。これは売主にとってはリスクです。
また、売主が既存の物件を売却してその資金で物件を購入する時は、物件が売れなかった場合には契約解除になる危険性があります。
その他、買主が多額の証券を保有しその売却資金で物件を購入しようとしていた時、国際紛争などが起こって株価が急落し資金の目途が立たなくなる場合などがありえます。
買主が事業家の場合は、多様な資金のあてが狂ったりする可能性や、本業の資金繰りの影響が反映して購入が困難になる場合もありえます。
つまり、売主にとっては買主の資力が十分あるか、リスクが少ないことが求められます。
信用度では、経済的な資力が重要ではありますが、職業などの信用度もあるかもしれません。売主は金融機関が融資するのとは異なり、長い付き合いをするわけではないので、あくまでも入金が確実かどうか、リスクの確率が重要です。
(2) 買主の資力、信用度の把握は誰がやるのか?
買主の資力、信用度の把握と判断は、最終的には売主がやらなければならない分野です。
しかし、現実的には、企業間の取引における信用調査では帝国データバンクなどの調査会社もありますが、個人対象では専門会社はありません。金融機関も自社の取引顧客に関する情報はあってもそれ以上ではなく外部には漏らさないでしょう。つまり、個人対象の信用調査は、個人情報保護の壁があり取引に関するヒアリングの範囲にとどまらざるを得ない状況があります。
2.不動産仲介業者の義務
不動産仲介業者の義務は、不動産の専門業者として不動産仲介業務を行うにあたっての、売買目的物に関連する事項についての調査・説明義務についてあります。
そして、不動産仲介業者と依頼者との仲介契約は、委任契約に準ずる契約であると考えられています。委任契約においては、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」(民法第644条)と定められています。不動産仲介契約において、受任者というのは不動産仲介業者が該当します。
売買目的物に関連する事項については、次のようなものがあります。
・売主が物件の正当な権利者であるか否か
・売買目的物に設定されている権利の種類・内容・登記の有無等
・都市計画法や建築基準法等の法令による制限の有無及び内容
・私道負担や、電気・ガスや排水施設の整備状況
・売買目的物の瑕疵の有無及び内容等
売買目的物に関連する事項についての調査・説明義務は不動産仲介業者に課せられていますが、売買目的物の不動産以外の、例えば買主の人柄であるとか、買主の資力といった事項については、不動産仲介業者の本来の専門ではなく宅建業法上の義務ではありません。
ただし、不動産仲介業者も、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理しなければならない(民法第644条、同法第656条)ため、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないことを規定している(宅地建物取引業法第31条)ため依頼者の要望に可能な限り努力するのは当然です。
買主の資力調査とは異なりますが、不動産仲介業者が責任を問われるケースとして同時履行の抗弁権と言われる問題があります。同時履行とは、債権と債務の履行を同時に行い、リスクを避ける方法です。
リスクの例では、売主の義務である所有権移転登記を、買主の代金支払に先行して行うという内容の売買契約を締結させた場合において、売買目的物の登記は買主に移転したものの、実際には買主に代金を支払うだけの資力がなく売主に損害が発生するような場合です。
この場合は、不動産仲介会社が通常は所有権移転登記と売買代金の支払を同時履行とすべきところを、所有権移転登記を先履行としながら、買主に相当の担保を提供させるなどの配慮を怠っていたということが問題となるものです。
3.売主としての情報収集とリスク回避
(1) 情報収集
売主としては、依頼先の売主側の不動産仲介業者に対して、できる限り買主の資力に関する情報、購入の動機と背景、買主の職業などの情報を知らせて欲しいと要望するようにします。売主側の不動産仲介業者は、買主側の仲介業者にその要望を伝え、極力買主の情報を提供してもらうようにします。
特に、支払代金の調達法をヒアリングし、代金調達が確実かどうかを判断したいものです。
(2) リスク回避の方法
買主の物件の購入費がどのような資金かですが、すでに不動産などを売却して手持ち資金があれば安全です。不動産を売却中で売却できた資金で購入する予定の場合は、売買契約の交渉で売買契約時期を明確にすることが必要でしょう。
買主がローンで購入資金に充て、ローン特約が付いた場合は、手付金も返却せざるを得なく、解除の違約金を取れない形態に多くの場合になり基本的にはリスクがあります。ただし、契約は解除になり手付金返却以外の経済的損失はありません。
買主が経営者である場合、法人で買うのか個人で買うのかは聞いておいた方が良いでしょう。法人で買う場合は、居住用物件の場合は社長が実際には自宅に使用しますが会社の社宅扱いにする場合です。法人で購入する場合の問題は支払方法で、会社振り出しの通常小切手での支払いは不渡りのリスクがあるので断り、銀行振込、預金小切手(振出し銀行が支払いに責任を持つ小切手)、現金を要求します。
売買契約成立後に、買主が約定の代金を支払えなかった時は、約定による手付金の放棄あるいは違約による契約解除となり、売主は手付金額又は違約金額が受領できるようにしておくことが必要です。
売り主としては、売買交渉の時間のロスはありますが、金銭的損害が発生することはありません。
まとめ