TOP > 不動産売却の基礎知識 > 不動産売買 > 「現状有姿」の特約があれば、売主は契約不適合責任を負わないのか?
「現状有姿」の特約があれば、売主は契約不適合責任を負わないのか?
「現状有姿」の特約があれば、売主は契約不適合責任を負わないのか?
中古の建物の売買で、売買契約書に「現状有姿」で引き渡す旨の特約がある場合、売主は契約不適合責任を負わないのかの問題です。年数の経った中古の建物の場合、どうしても年数による劣化による補修をすればキリがないなどの問題があるため、このような特約を付けるケースが多くあります。しかし、実際には買主の想定していなかった瑕疵が後日見つかった場合トラブルになることがあります。「現状有姿」の特約がある場合の売主の契約不適合責任は、法的にはどうなのかについて説明します。
目次
1. 「現状有姿」の売買の意味と契約不適合責任との関係
(1) 「現状有姿」の売買とは
(2) 契約不適合責任との関係
(3) 契約不適合責任を免除する旨の規定
(4) 売主が宅地建物取引業者である場合
2. 「現状有姿」特約の解釈について参考となる裁判例
(1) 裁判例1
(2) 裁判例2
まとめ
1.「現状有姿」の売買の意味と契約不適合責任との関係
(1) 「現状有姿」の売買とは
「現状有姿」の売買とは、目的物に契約不適合があったとしても、売主は特に修繕等をすることなく、現状のまま引き渡せばよいという内容の売買契約です。その場合はその旨を記載した特約を付けるのが一般的です。
(2) 契約不適合責任との関係
しかし、「現状有姿」の特約があったとしても、売主の契約不適合責任を免除するとの規定が置かれていない限り、買主は売主に対し、下記のように契約不適合責任を問うことができます。
(3) 契約不適合責任を免除する旨の規定
改正民法においては、買主が売主に対し、契約不適合責任を追及する期間について、買主が契約不適合を知った時から1年以内と規定されています(改正民法第566条)。
買主は契約不適合責任を知ったときから1年以内に、売主に対し通知をすれば、代金の減額請求、損害賠償請求等を行うことができます。
ただし、同条は「強行規定」ではないため、当事者間で協議が調えば、売主が契約不適合責任を一切負わない旨の規定を置くことができます。
「強行規定」とは、当事者が合意したとしても、当該規定に違反する契約をすることができない法律の規定をいいます。強行規定に違反した契約は無効となります。
(4) 売主が宅地建物取引業者である場合
売主が宅地建物取引業者である場合には、売主の契約不適合責任を免除する規定を置くことはできません。契約不適合責任を免責する旨の特約を付けても、それは無効となります。
宅地建物取引業法には、「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。」と規定されています(宅地建物取引業法第40条1項)。
2.「現状有姿」特約の解釈について参考となる裁判例
現状有姿特約があれば瑕疵担保責任免除まで合意しているといえるのでしょうか?
「現状有姿」特約の解釈について参考となる裁判例がありますので、以下紹介します。
(1) 裁判例1
・東京地裁 平成28年1月20日判決
【事案の概要】
土地・建物を買い受けた原告が、建物に瑕疵があった等と主張し、売主たる被告に対し、損害賠償請求等を行いました。
なお、売買契約書においては、「売主は、後記売買土地上または地中に存するブロック塀、ネットフェンス、コンクリート敷、ゴミ置場施設・・・に付帯する電気、ガス、給排水設備、銃器・備品等一切を、引渡し時の現状有姿のまま買主に引き渡す。」旨の現状有姿特約が規定されていました。
被告の売主は、この現状有姿特約は、本件建物を引渡し時の状態でそのまま引き渡すという意味であり、少なくとも現状から知り又は知り得る現状については、売主は瑕疵担保責任を負わないという意味であると反論しました。
【判決の概要】
「一般に現状有姿売買とは、契約後引渡しまでに目的物の状況に変動があったとしても、売主は引渡し時の状況のまま引き渡す債務を負担しているにすぎないという売買であると解される」と判示しています。
つまり、現状有姿特約とは、物件の引渡債務の内容として、「目的物に隠れた瑕疵があってもそのまま引き渡せば売買契約に基づく引渡債務を履行したことにします」という内容の合意に過ぎません。
隠れた瑕疵についてまで、責任を免除する合意までは認定できないのです。
これは、改正民法での契約不適合責任でも同様です。
そのため、契約不適合責任を免除するのであれば、現状有姿特約だけでは足りず、それとは別途、契約不適合責任を免除する旨の特約が必要です。
本件でも同様に、現状有姿で引き渡す旨の特約があるからと言って、それのみで売主の担保責任が免除されるというわけではなく、買主は「契約の内容に適合しない場合」にあたるとして売主に対する契約不適合責任を追及することが可能です。
(2) 裁判例2
・神戸地裁 平成11年7月30日判決
【事案の概要】
戸建て建物の売買契約において、引渡し後、屋根裏に多数の蝙蝠(こうもり)が棲息(せいそく)していることが判明しました。
しかし、この売買契約には、「売買対象物件が平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震の震災区域内にあることを相互に確認し、本物件は現状有姿にての引渡しとする。本物件について万一、将来兵庫県南部地震を起因とする損傷が発見、発生したとしても買主は売主に対していかなる一切の苦情等を申し述べないこととする」との特約が定められていました。
被告の売主は、この現状有姿特約は、本件建物を引渡し時の状態でそのまま引き渡すという意味であり、少なくとも現状から知り又は知り得る現状については、売主は瑕疵担保責任を負わないという意味であると反論しました。
【判決の概要】
裁判所は、まず、「居住用建物は、人がそこで起居することを目的するものであり、人が生活する建物については一定の生物が棲息することは通常不可避であるし、生物が棲息したからといって当然にそこでの起居に支障を来す訳ではない、しかしながら、住居は、単に雨露をしのげればよいというものではなく、休息や団だんらん欒など人間らしい生活を送るための基本となる場としての側面があり、かつ、それが居住用建物の価値の重要な部分を占めているといえる。その意味で、その建物としてのグレードや価格に応じた程度に快適に(清潔さ、美徳など)起居することができるということもその備えるべき性状として考慮すべきである。」としました。
そして、「巣くった生物の特性や棲息する個体数によっては、一般人の立場からしても、通常甘受すべき限度を超え、そのグレードや価格に応じた快適さを欠き、そこでの起居自体に支障を来すこともあるから、そのような場合には、かかる生物の棲息自体が建物としての瑕疵となり得るというべきである」として、多数の蝙蝠の棲息していることを瑕疵であると認定しました。
続いて、「売主は、売買契約において、売主は現状有姿のまま引き渡せば責任を負わない旨の約定があり、蝙蝠の棲息が瑕疵にあたるとしても責任を負わない旨主張するが、本件売買契約における売主免責の特約は、兵庫県南部地震に起因する損傷についてのものであり、建物に蝙蝠が巣くったことが兵庫県南部地震に由来することの主張・立証はないから、右主張は理由がない」として、現状有姿によって引渡しを行う売買だからといって、瑕疵担保責任は否定されないとして、売主の責任を認めました。
瑕疵担保責任を負わない特約を意味するものとして、現状有姿という文言を使うケースは、少なくありません。しかし、現状有姿という文言には、必ずしも瑕疵担保責任を負わないとする意味が含まれているとは限らないのです。
【その他】
なお、この事件では、買主は、別途仲介業者に対して、蝙蝠の棲息についての調査義務を果たしていなかったとして損害賠償を求めていました。
しかし、仲介業者に対する責任については、「一般的に中古住宅においては、通常の居住の妨げにならない程度で一定の生物が棲息していることは売買当事者として当然予想し、特段の注文をしない限り受忍すべき事柄であってそれ自体直ちには建物の瑕疵とはいえないのであり、不動産仲介業者が、業務上、取引関係者に対して一般的注意義務を負うとしても、一見明らかにこれを疑うべき特段の事情のない限り、居住の妨げとなるほど多数の蝙蝙が棲息しているかどうかを確認するために天井裏等まで調査すべきとはいえない。」として、その責任を否定しました。
まとめ