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相続登記の義務化決定!所有者不明土地問題
相続登記の義務化決定!所有者不明土地問題
不動産の相続登記は現状では義務ではなく罰則もないために、多くの場合に登記がなされておらず、空き地・空き家問題の発生にも関係しています。相続手続きがされずに時間がたつと相続関係が複雑になり、相続人も増えその存在すら分からなくなってきて、相続自体の処理も困難になってきます。相続登記が行われていないために所有者が分からない土地が増え、災害時の対応にも土地所有者に連絡が取れず対応ができない問題も発生しており、所有者不明土地の解決は緊急性があります。そのため、相続登記の義務化を決定する民法改正と不動産登記法改正がされたので紹介します。
目次
1. 相続登記の義務化の法改正と現状
2. 相続登記がされないこと等による所有者不明土地の現状
3. なぜ相続登記が行われていなかったのか?
4. 相続登記の義務化の関連措置
(1) 「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」(「国庫帰属制度」という)
(2) 相続登記登録免許税の免税措置の延長
(3) 相続登記の義務化と違反した場合の罰則設定
(4) 住所変更登記の義務化と罰則設定
(5) 「相続人申告登記」の創設による登記申請の負担軽減化
5. 相続登記に関するメリット、デメリット
(1) 相続登記を行うメリット
(2) 相続登記を放置するデメリット
まとめ
1.相続登記の義務化の民法改正と現状
従来相続登記の法律上の義務がありませんでしたが、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する「民法等の一部を改正する法律」が令和3年4月21日に成立し、相続登記の義務化については令和6年4月1日より施行されることとなりました。また、関連分野は複数にまたがります。
この民法改正に基づき、長期間にわたって相続登記が行われていない土地の登記名義人(所有者)の法定相続人を探索し、その探索によって判明した法定相続人の人に宛てて、必要な登記手続を促す通知文書「長期間相続登記等がされていないことの通知」が法務局から法定相続人の1名に送られています。通知文書が届いた法定相続人の人に必要な登記手続を行うことについての案内です。
全国の法務局で法務局が管理する不動産登記簿の情報から長期間にわたって相続登記等が行われていない土地を調査し、その土地の登記名義人(所有者)の法定相続人を探索する作業(長期相続登記等未了土地解消作業)を実施しているためです。
2.相続登記がされないこと等による所有者不明土地の現状
所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない又は判明しても所有者に連絡がつかない土地のことです。
不動産登記簿における相続登記未了土地調査(平成29年法務省調査)では、最後の登記から50年以上経過している土地の割合が大都市では約6.6%、中小都市・中山間地域では約26.6%です。
また、地籍調査における土地所有者等に関する調査(平成30年版土地白書)では、不動産登記簿のみでは所有者の所在が確認できない土地の割合が約20.1%です。
相続登記がされないため、所有者の探索に多大な時間と費用を要するなど土地の円滑・適正な利用に支障が生まれています。今後相続が繰り返される中で空き地空き家問題がより深刻化し、所有者不明土地問題の解決は喫緊の課題となっています。
3.なぜ相続登記が行われていなかったのか?
相続登記の法的な義務はないこと、および、地方の物件などでは相続登記をしても売却することもできず、固定資産税、名義変更の登録免許税、司法書士への費用などがかかり、登記のメリットがないと考えられるためです。
また、時間が経つと数次相続が発生しているために、現時点での相続人が把握できないほど広範囲にわたり、専門家へ依頼するにも費用は高額になり、手続きを進められない状況になっているケースも多くあります。
4.相続登記の義務化の関連措置
相続登記を進めサポートするために次のように関連措置が決まりました。
(1) 「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」(「国庫帰属制度」という)の成立
令和3年4月に国会で成立し、同月28日に公布された、「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」により一定の条件のもとに相続等により取得した不要な土地を国庫に帰属させることができるようなりました。施行は2023年(令和5年)4月27日です。なお、詳細は別記事で紹介します。
(2) 相続登記登録免許税の免税措置の延長
令和3年度税制改正により、相続の登録免許税の免税措置について、適用期限が令和4年3月31日まで1年延長されました。その後についての免税措置が検討されています。
なお、詳細は別記事で紹介します。
(3) 相続登記の義務化と違反した場合の罰則設定
要点は下記の通りです。
・相続登記自体の義務化
・相続登記時期は、相続人であること、および、遺産に不動産があることを知ってから3年以内
・相続登記の義務に違反し正当な理由のない申請漏れは10万円以下の過料
その他、登記を促進する制度が新設されます。
(4) 住所変更登記の義務化と罰則設定
相続登記の義務化と合わせて、登記上の住所変更登記も義務化されます。
所有者不明の不動産となっているもう一つの原因のためです。市役所等での住所変更と登記上の住所とが連動していなかったためです。住民基本台帳ネットワークシステムを活用して、法務局で市役所での住所変更の情報を把握すると、登記上の住所変更を法務局が行うことができるようになります。要点は下記の通りです。
・住所変更登記の時期は、住所変更してから2年以内
・住所変更登記の義務化に違反した場合、5万円以下の過料
・登記官が職権的に住所変更登記等をする新制度の導入
(5) 「相続人申告登記」の創設による登記申請の負担軽減化
相続関係の手続きが煩雑なため簡易な義務履行手段として相続人申告制度の新設をします。相続人申告登記では、遺産分割協議が3年以内にまとまらない場合、最終的な相続登記は改めて申請することにして、ひとまず相続人が登記官に「登記名義人(所有者)に相続が発生したこと」、「自らが登記名義人の相続人」であることの申出を行い、登記官がその旨を登記するという制度で、相続登記の義務を履行したものとみなすとしています。なお、詳細は別記事で紹介します。
5.相続登記に関するメリット、デメリット
(1) 相続登記を行うメリット
①相続人にとって権利関係が明確になること
相続登記を行うことで権利関係が明確となることから、法定相続人間の争いの発生を未然に防止でき、また、不動産の売却や担保としての活用が円滑にできるようになります。
②空き地空き家問題の解消に役立つこと
空き地空き家問題では所有者不明の問題がありました。所有者が明確になることで責任の所在が明確になり、空き地空き家問題の解消の1歩につながることが予想されます。
(2) 相続登記を放置するデメリット
①相続関係が複雑になる可能性がある。
相続登記をしない間に他の相続人が亡くなった場合、手続きが複雑になる可能性があります。相続人のうちの誰かが亡くなった場合、その相続人が持っていた権利は妻や子供などに移り権利人の数が増えます。数時の相続を経ると極めて多くの人数となってしまいます。
相続登記するまでは、相続人全員が法定相続分に応じて不動産を共有している状態となります。
遺産分割協議で相続登記をする場合には、相続人全員の同意が必要であり、相続人が増えるほど同意を得て協議をまとめるのが難しくなります。
②不動産を売却・担保にできない。
相続した不動産を売却したい、担保にしたいという場合は、所有権について登記していないといけません。
③共有不動産を差し押さえられる可能性がある。
共有不動産では、相続人のなかに借金がある人がいて支払いが滞っている場合、債権者に不動産の相続持分を差し押さえられてしまう可能性があります。
不動産は遺産分割協議が終わるまで、共同相続人が法定相続割合に応じて共有している状態です。債権者は借金がある相続人の法定相続分を差し押さえることができます。
相続登記を済ませていなければ、差押えをした債権者に不動産が自分のものだと主張することはできません。民法909条で遺産分割の効力は第三者の権利を侵害できないと定められているからです。
まとめ
・「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が令和3年4月21日に成立し、相続登記の義務化については令和6年4月1日に施行されることとなりました。
・相続登記の義務化の関連措置では、次のような民法改正、新法が成立しています。
①「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」(「国庫帰属制度」という)の成立
②相続登記登録免許税の免税措置の延長
③相続登記の義務化と違反した場合の罰則設定
④住所変更登記の義務化と罰則設定
⑤「相続人申告登記」の創設による登記申請の負担軽減化