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高すぎた「法定利率」の改正
高すぎた「法定利率」の改正
法定利率は、明治期における民法・商法の制定以来設定されてはいますが見直しがされていませんでした。そこで、2020年4月1日に施行された民法の「法定利率」の改正があり、市場金利とかけ離れていた法定利率が変更されることになりました。法定利率は、近年では市中金利を大きく上回る状態が続いていました。そのため、社会的には利息や遅延損害金の額が著しく多額となる傾向があり問題となっていました。通常は意識しない法定利率の制度と改正の内容について紹介します。
目次
1. 法定利率とは?
(1) 利息に関する定め
(2) 法定利率と約定利率(やくじょうりりつ)
2. 法定利率の改正による変更点
(1)民法の法定利率が5%から3%になった。
(2) 商法の法定利率は廃止になった。
(3) 法定利率が3年に1度の変動制になった。
(4) 法定利率の適用時期(基準時)が明文化された。
(5) 中間利息控除にも法定利率が適用
3. 法定利率の変更による影響
(1) 遅延損害金に関する影響
(2) 中間利息控除が少なくなる影響
まとめ
1.法定利率とは?
(1) 利息に関する定め
民法上借りたお金はそのまま返せばよいとされており(消費貸借、民法第587条)、利息を支払う約束をしていなければ、利息を払わなくても構いません。逆にいえば、利息を受け取るには別途契約において利息に関する定めを置かなければなりません。
(2) 法定利率と約定利率(やくじょうりりつ)
契約時、具体的にどのような割合で利息が発生するかをあらかじめ決めておくこともできますし、特に約束をしなくても民法に則った割合で利息が発生します。この割合のことを利率と言います。利率には法定利率と約定利率があります。法定利率とは、法律で決められている利率のことであり、約定利率とは、当事者が自由に決める利率のことです。
単に「利息を付けて返す」と約束すると法定利率が適用されます。改正前の旧民法は法定利率を年5%としていましたので、利息の割合を決めずに利息を支払うことだけ約束すると年5%の利息がかかっていました。
約定利率を定めた場合には、法定利率よりも約定利率が優先します。約定利率は、当事者間の合意によって自由に定めることができますが、利息制限法の上限を超えることはできません。
利息制限法で定められている利率の上限は次のとおりです(利息制限法第1条1項)。
・10万円未満20%
・10万~100万円未満18%
・100万円以上15%
法定利率とよく似た言葉に「法定利息」という用語があります。これは契約ではなく法律に基づき発生する利息のことです。過払い金請求のように悪意の受益者に不当利得返還請求をする場合には、法定利息が発生します(民法第704条)。法定利息は法定利率に基づいて計算します。
2.法定利率の改正による変更点
法定利率は、次の点で改正・変更されました。
(1)民法の法定利率が5%から3%になった。
民放の法定利率は年5%から3パーセントに変更されました。(民法第404条2項)
つまり、単に「利息を付けて返す」との約束で100万円を1年間借りた場合、3万円の利息を支払う義務が生じます。
(2) 商法の法定利率は廃止になった。
従来、民法と商法では異なる利率が定められていました。
民法では5%であったのに対し、企業間の取引等商行為によって生じた債務に関しては商法では年6%の利率が定められていたのです。2020年4月の改正施行により、商法の法定利率は廃止され、3%に統一されました。
(3) 法定利率が3年に1度の変動制になった。
市場金利と大きくかけ離れたことが今回の法定利率改正のきっかけなので、今後は3年に1度法定利率が見直されることになりました(民法第404条3項)。
*民法第404条3項
「前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。」
見直しの仕方は、3年ごとに日銀が公表する短期貸付金利の過去5年間の平均が1%以上変動すれば1%刻みで変動します(民法第404条)。
(4) 法定利率の適用時期(基準時)が明文化された。
当事者が特に取り決めをしていない限り、利息が生じた最初の時点の法定利率が適用されることになりました(民法第404条1項)。
「利息が生じた最初の時点」は、契約の性質などから具体的に判断し、たとえばお金の貸し借りであればお金を貸したときからにあたります。
(5) 中間利息控除にも法定利率が適用
中間利息控除とは、損害賠償請求権の損害額を算定するにあたり、逸失利益等を現在価値に換算するために、損害額算定の基準時から逸失利益等を得られたであろう時までの利息相当額(中間利息)を控除することをいいます。
不法行為による損害賠償請求においては、将来受け取るはずのお金を先に受け取ります。中間利息控除は、お金の受取時期を早めることによる当事者間の不公平をなくすために調整をするものです。
改正前の民法には中間利息控除に関する規定がありませんでしたが、民法改正により中間利息控除に法定利率が適用されることが明文化されました(民法第417条の2、第722条1項)。そのため3%の利率が適用されます。
*民法第417条の2
「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。」
3.法定利率の変更による影響
民法改正により、法定利率は次のケースで適用されることになりました。
(1) 遅延損害金に関する影響
遅延損害金(遅延利息)とは、金銭債務について、債務者が履行を遅滞したときに、損害を賠償するために支払われる金銭をいいます。遅延損害金は、通常、金銭債務の額に対して、一定の料率に基づいて、遅滞した期間に比例する方法で計算されます。
企業間の取引では、一般的に利息に関して約定利率の定めを置くでしょう。一方、遅延損害金については約定利率の定めを置いていないケースも珍しくありません。その場合は、法定利率が下げられたことにより、遅延損害金の金額は少なくなります。
また、企業間では取引基本契約を締結した後、個別取引契約を交わすケースが多くあります。もし取引基本契約と個別取引契約のいずれでも遅延損害金を定めていない場合には、どちらの契約日を基準として遅延損害金の利率を定めるのか争いが生じる可能性があります。
このようなトラブルを避けるため、遅延損害金の利率に関する規定をあらかじめ契約書に明記しておく必要があります。
(2) 中間利息控除が少なくなる影響
典型的な例は、労働災害や安全配慮義務違反を理由とした逸失利益を請求する場合です。
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたであろう収入や利益のことをいいます。
被害者が請求できる逸失利益の金額が大きくなるのは、中間利息控除に適用される法定利率が5%から3%に下がることになったからです。
改正前民法では、中間利息控除に適用される法定利率が5%と高かったため、逸失利益の請求額が不当に低額に算出されているとの批判もあり、今回の法定利率の改正はこうした批判に対応した面もあります。反対に安全配慮義務違反があったとして請求を受ける企業にとっては、従前より多額になります。
まとめ