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民法改正により「時効制度」が大きく変わったのを知っていますか?
民法改正により「時効制度」が大きく変わったのを知っていますか?
2020(令和2)年4月1日施行の債権関係の民法改正により、消滅時効の時効期間及び起算点、時効障害事由について、大きく制度が変わりました。なお、2020(令和2)年3月31日以前に成立している債権に関しては旧法が適用されます。この記事では、消滅時効を中心に時効制度の改正内容について紹介します。なお、改正前民法を旧法、改正後民法を改正法と表記しています。
目次
1. 消滅時効とは
2. 民法改正により、消滅時効期間が、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年に!
3. 民法改正により、損害賠償請求権などその他変わった点
(1) 損害賠償請求権の消滅時効期間
(2) 時効障害事由
(3) 時効の援用権者
(4) 短期消滅時効、商事時効の廃止
まとめ
1.消滅時効とは
消滅時効とは、法律で定められた時効期間が経過した後、債権者が権利を行使できる状態だったのに権利を行使しなかった結果、当事者等が消滅時効を「援用」することにより、債権者が権利を失うことを定めた制度です。
「援用」とは、債権者に対して消滅時効の制度を利用する旨の当事者等が意思表示を告げることです。
消滅時効は、期間の経過で自動的に成立するものではなく、「援用」によって初めて効力を生じます。
「債権」とは契約などに基づいて、相手に金銭などを請求できる権利のことで、売掛金も債権の一種です。
2.民法改正により、消滅時効期間が、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年に!
改正法における債権の消滅時効制度においては、消滅時効期間は、次のように変わりました。
(改正法第166条1項)。
・原則として主観的起算点(債権者が権利を行使することができることを知った時)から5年
・客観的起算点(権利を行使することができる時)から10年
のいずれか早い方とされました。
旧法では、単に権利を行使することができる時から10年とされていました。
改正法では、この期間が2本立てとなり、いずれか早い方とされたことで、結果的に消滅時効の完成が短期化されたことになります。
例えば、債権者が権利発生から9年後に権利発生を知った場合で、時効障害事由がないときは、それから5年後ではなく1年後の10年で時効が完成します。
3.民法改正により、損害賠償請求権などその他変わった点
(1) 損害賠償請求権の消滅時効期間
➀一般の損害賠償請求権の消滅時効期間
改正法では、不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、又は、不法行為の時から20年の経過により消滅時効が完成します。
*改正法第724条1号 主観的起算点(被害者等が損害及び加害者を知った時)から3年
改正法第724条2号 客観的起算点(不法行為時)から20年
旧法の20年という期間は、判例上、「除斥期間」と解釈されていましたが、改正法ではこれは(消滅)時効期間であると明文化されました。
「除斥期間」とは、一定の権利について、権利を行使しないまま一定の期間が経過することで、権利が消滅するという制度です。権利が行使されない状態、権利関係が確定しない状態を防ぎ、権利関係を短期間に確定する目的で定められています。
・除斥期間と消滅時効との相違点
除斥期間は、一定期間権利行使しないことで権利が消滅するという点で、消滅時効と共通する部分があります。
しかし、除斥期間が、期間の経過のみで権利が消滅するのに対し、消滅時効では、時効期間の経過と合わせて当事者による時効援用があって権利が消滅する点で異なります。
また、除斥期間は、権利を行使しない限り期間の進行を中断させることができないのに対し、消滅時効では、時効期間の進行を中断させることが出来る点で大きく異なります。
②生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の特則
生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権については、保護の必要性が高いこと、治療に要する期間等を考慮すると速やかな権利行使が難しいことを踏まえて、消滅時効を長期化する改正が行われました。
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての適用については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から「3年間」ではなく「5年間」とされます。(改正法第724条の2)
(2) 時効障害事由
➀時効の中断から時効の更新へ
時効は「権利を行使することができる時」から進行を始めますが、時効の進行を止めたりリセットしたりする方法があります。
たとえば、債務者が債務の「承認」をすると、時効の進行はリセットされ、ふりだしに戻ります。このことを旧法では、「時効の中断」といっていました。
この点を改正法では、わかりやすく「時効の更新」と改められました。
時効の更新とは、更新があった時点から、新たに時効が進行を始めるという制度です。
②合意による時効完成猶予
時効の完成猶予とは、ある事由が生じた場合に、その事由が終了するまで、時効が完成しないという制度です。
改正法では、協議を行う旨の書面での合意による時効の完成猶予制度が新たに定められました(改正法第151条)。これは、当事者間の協議によって円満な解決を図るという紛争解決手段を促進する目的に基づき創設された規定です。
旧法下では、当事者間で友好的に話し合いをしていても、時効完成が近づいてくると、債権者としては、時効完成を阻止するために訴え提起等の手段をとるしかありませんでした。
改正法では、債権者債務者間で、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、1年間時効の完成が猶予されることになります(再度の合意があれば、最長5年間猶予されます)。
(3) 時効の援用権者
旧法下では、消滅時効を援用することができる者の範囲が明示されておらず、裁判例の積み重ねに委ねられていましたが、改正法では、第145条において、「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」が援用権者であることが規定されました。
(4) 短期消滅時効、商事時効の廃止
旧法では、下記の通り職業別に短期の消滅時効を定めていましたが(旧法第170条ないし第174条)、改正法はこれらを廃止しました。
① 医師、助産師、薬剤師らの診療、助産、調剤報酬債権
② 工事の設計、施工、監理に関する報酬債権
③ 弁護士、公証人の書類返還債務
―以上3年
④ 弁護士、公証人の報酬債権
⑤ 生産者、卸売商人、小売商人の売買代金債権
⑥ 職人らの手間賃債権
⑦ 学校や塾の授業料債権
―以上2年
⑧ 大工、左官、俳優、歌手、芸人らの賃金債権
⑨ 運送料金債権
⑩ ホテル、旅館、飲食店の宿泊料、飲食代金債権
⑪ 動産の貸借料
―以上1年
また、商事時効という、会社との取引によって生じた債権には、5年の短期時効が設けられていました。しかし、民法改正に合わせて、民法の規定に統一されることになり、商事時効は廃止されました。
まとめ
・消滅時効とは、法律で定められた時効期間が経過した後、債権者が権利を行使できる状態だったのに権利を行使しなかった結果、当事者等が消滅時効を「援用」することにより、債権者が権利を失うことを定めた制度です。
・民法改正により、消滅時効期間が、下記のいずれか早い方とされました。
➀原則として主観的起算点(債権者が権利を行使することができることを知った時)から5年
②客観的起算点(権利を行使することができる時)から10年
旧法の10年から、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年の規定で短縮化されました。