TOP > 不動産売却の基礎知識 > 民法 > 民法改正!高齢者の売買契約保護「意思能力制度の明文化」 PART1
民法改正!高齢者の売買契約保護「意思能力制度の明文化」 PART1
民法改正!高齢者の売買契約保護「意思能力制度の明文化」 PART1
判断能力が衰えた高齢者が、特殊詐欺の被害に合う事件が多発していますが、犯罪でなくとも通常の売買契約において、認知症の高齢者と高額のリフォーム工事契約を行う場合や、押し買いと言って高齢者の自宅を訪問し、高額な貴金属や着物を不当に安い価格で購入するなどの不正の疑いのある取引が多くあります。これらの売買契約はどうなるのかについて、従来法的対応は十分なものではありませんでした。そのため2020年4月1日施行の民法改正では、高齢者の意思能力制度についての規定が具体化、明文化され高齢者の売買契約保護が進展しました。高齢者の売買契約保護に関する「意思能力制度の明文化」の内容を紹介します。
目次
1. 意思能力及び意思表示とは
(1) 意思能力及び意思表示とは
(2) 意思能力制度と現状
(3) 改正法の内容
2. 心裡留保
(1) 心裡留保とは
(2) 新旧民法条文の相違
(3) 民法改正のポイント
3. 通謀虚偽表示
4. 詐欺、脅迫
(1) 詐欺、脅迫とは
(2) 新旧民法条文の相違
(3) 民法改正のポイント
5. 錯誤に関する見直し
(1) 要件の明確化
(2) 効果を「取消し」に変更
まとめ
1.意思能力及び意思表示とは
(1) 意思能力及び意思表示とは
意思能力とは、行為の結果を判断するに足りるだけの能力をいいます。
意思能力の存否は、一定の年齢を超えれば認められるというように一律に決まるものではなく、個別具体的に判断されます。認知症を患って行為の結果を判断することができない者は、意思能力を有しないと考えられます。
また、意思表示とは、契約の申込みのように、一定の法律効果を欲する意思を表示する行為をいいます。
(2) 意思能力制度と現状
意思能力制度とは、意思能力を有しない者がした法律行為は無効となることです。ただし、
判例・学説上はその法律行為は無効となることにつき異論なく認められ実際にも活用されていますが、民法に明文の規定がない点がありました。明文の規定がないため運用上の判断では不明確な場合もありました。
(3) 改正法の内容
民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から、「意思能力を有しない者がした法律行為は無効とする」ことが明文化されました。(改正法第3条の2)
併せて、意思能力を有しなかった者が、相手方にする原状回復義務の範囲は、「現に利益を受けている限度」にとどまる旨の規定が明記されました。(改正法第121条2Ⅲ)
*【改正法第3条の2】
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
また、意思能力の分野でその他問題となる点は次のようなものです。
2.心裡留保
(1) 心裡留保とは
心裡留保(しんりりゅうほ)とは、意思表示を行う者(表意者)が、自己の真意と意思表示の内容が食い違っていることを知りながら意思表示を行うことをいいます。
例えば、退職をする意思はなかったが、反省の意を強調する趣旨で、退職届を提出してしまったなどの場合です。
(2) 新旧民法条文の相違
新旧民法では条文において次のような相違があります。
【旧民法第93条】
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
【改正法第93条】
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(3) 民法改正のポイント
➀上記旧民法第93条1項の改正
旧民法下では、心裡留保による意思表示は原則として有効であり、意思表示を受けた相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができた場合に、意思表示が無効となると定められていました。
旧民法下で「真意を知り」と規定されていたことについて、相手方が表意者の真意の内容まで知る必要があるのか、真意の内容まで知らなくとも、真意と異なること自体を知り、又は知ることができたことで足りるのか、解釈が分かれていました。
改正法では、相手方の真意の内容まで知らなくとも、相手方が真意と異なる意思表示をしていること自体を知り、又は知り得たことで足りるとされました。
②上記民法第93条2項の新設
旧民法下では、意思表示の無効を知らない第三者(善意の第三者)を保護する規定がありませんでしたが、改正法では、善意の第三者に意思表示の無効が対抗できないことが明文化されました。
3.通謀虚偽表示
通謀虚偽表示とは、相手方と示しあわせて真意と異なる意思を表明した場合のことです。
財産を債権者から隠すために、土地について架空の売買契約をするなどです。
この部分は民法改正の対象にはなっていません。
(PART2へ続く)