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民法改正!高齢者の売買契約保護「意思能力制度の明文化」 PART2
民法改正!高齢者の売買契約保護「意思能力制度の明文化」 PART2
(PART1より)
目次
1. 意思能力及び意思表示とは
(1) 意思能力及び意思表示とは
(2) 意思能力制度と現状
(3) 改正法の内容
2. 心裡留保
(1) 心裡留保とは
(2) 新旧民法条文の相違
(3) 民法改正のポイント
3. 通謀虚偽表示
4. 詐欺、脅迫
(1) 詐欺、脅迫とは
(2) 新旧民法条文の相違
(3) 民法改正のポイント
5. 錯誤に関する見直し
(1) 要件の明確化
(2) 効果を「取消し」に変更
まとめ
4.詐欺、脅迫
(1) 詐欺、脅迫とは
詐欺とは、だまされて、意思を表明した場合のことです。
例えば、だまされて、二束三文の値段の壺を高値で買わされた場合です。
強迫とは、脅されて、意思を表明した場合のことです。
例えば、脅かされて、不必要な土地を買わされた場合です。
(2) 新旧民法条文の相違
新旧民法条文では次のような相違があります。
【旧民法第96条】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 第2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
【改正法第96条】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 第2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
(3) 民法改正のポイント
➀上記第96条2項の改正
旧民法下では、例えば、A(第三者)がB(表意者)に詐欺を働いたために、BがC(相手方)と契約を行った場合には、Cが詐欺の事実を知っていたときに限り、Bの意思表示を取り消すことができるとされていました。
改正法では、Cが詐欺の事実を知っていたときに限らず、知ることができたときにも、意思表示を取り消すことができるとされ、旧民法下に比べ、Bが厚く保護されることとなりました。
②上記第96条3項の改正
旧民法下では、詐欺による意思表示を知らない第三者(善意の第三者)には、意思表示の取消しを主張できないとされていましたが、改正法では、詐欺による意思表示を知らないことに加え、知らないことが過失に基づかないことも要求されることとなりました。
民法の改正により、第三者が詐欺を働いた場合に、表意者は、相手方が詐欺の事実を知っていたか、知らなかったことに過失があることについての主張の立証が必要となります。
また、表意者は、第三者の保護を否定するためには、その第三者が詐欺の事実を知っていたか、知らないことに過失があることについて主張の立証が必要となります。
いずれの場合においても、改正法では、過失の有無の争点が明文で加わったことになります。
5.錯誤に関する見直し
(1) 要件の明確化
➀問題の所在
旧民法第95条は「法律行為の要素」に錯誤があることが必要であると規定し、判例はこの要件について、次のように判断していました。
a. 表意者が錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められることが必要(主観的因果性)
b. 通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められることが必要(客観的重要性)
c. 間違って真意と異なる意思を表明した場合(表示の錯誤)と真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合(動機の錯誤)とを区別し、動機の錯誤については、上記a、bの要件に加えて、その動機が意思表示の内容として表示されていることが必要
上記は、旧民法第95条の文言と判例の考えは必ずしも一致しないこと、意思表示の効力を否定する要件を明確化することが必要ではないかとの指摘がありました。
②改正法の内容
a. 意思表示が錯誤に基づくものであること(上記①のaの要件に対応)
b. 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(上記➀のbの要件に対応)
c. 動機の錯誤については、動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること(上記➀のcの要件に対応)
【旧民法第95条】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
【改正法第95条】
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
(2) 効果を「取消し」に変更
改正法では、法律行為の要素又は動機に錯誤があった場合に、その法律行為を無効とするのではなく、取消すことができるものと変更されました。
旧民法の第95条は、錯誤による意思表示は無効としています。そして、民法の一般的理解では、
①無効は誰でも主張することができる。
②無効を主張することができる期間に制限はない。
とされています。
これに対して、取消しは、
➀取消しできる者は、誤解した者(相手方は不可)
②取消しができる期間は5年
としています。
【旧民法第120条】「取消権者・略」
2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことが できる。
【旧民法第126条】「取消権の期間の制限」
取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
詐欺があった場合は、意思表示の効力を否定することができるのは5年間とされ、錯誤があった場合に期間制限を設けないのはバランスを欠く点がありました。
まとめ
・意思能力とは、行為の結果を判断するに足りるだけの能力をいいます。認知症を患って行為の結果を判断することができない者は、意思能力を有しないと考えられます。
・【改正法第3条の2】
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
・【改正法第93条】
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。(新設)
・【改正法第95条】
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤