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空き地の有効活用 -素人でも可能な福祉・介護施設の一括借り上げ-
活用しきれてない遊休地を活用したい、アパートやマンションでの以外の賃貸活用をしたい、田や畑の再開予定のない休耕地を活用したい、青空駐車場を経営しているがもっと利回りをよくしたい、空き地の固定資産税ばかり払っていて何とかしたい、などの土地オーナーのニーズがあります。オーナーにとってより安定した、もしくは、より収益性の高い土地の有効活用はないかは切実な課題です。土地の有効活用の方法の中で、安定性、収益性などの観点から、公的補助金も一部にある福祉・介護施設の活用を紹介します。
1.福祉・介護施設への土地の一括借り上げ
(1) 福祉・介護施設による土地の一括借り上げとは?
福祉・介護施設による土地の一括借り上げとは、高齢者や障害者、子供などの施設で、福祉・介護サービス事業者に土地だけ、もしくは、事業者の希望する仕様の建物を土地オーナーが建築し、事業者に一括して賃貸する形式です。
期間は長期間となります。
土地活用にあたっては、土地オーナーが自分で福祉・介護サービス事業を運営するわけではなく、運用するのは専門の福祉・介護サービス事業者で、オーナーは事業者に土地、もしくは、土地と建物を貸し出す賃貸事業形態になります。
福祉・介護施設には様々な種類があるので、100坪以内の土地でも建てられるものもあり、また、400~500坪以上の敷地が必要とされる大規模な施設もあります。
(2) 福祉・介護施設の種類と概要
福祉・介護分野の施設の種類では、高齢者介護分野では、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、老人介護保険施設、サービス付き高齢者住宅、ショートステイ、デイサービス、グループホームなどがあり、保育分野では、保育園などがあり、障害者分野では、デイサービス、グループホーム、就労支援施設などがあります。
ここでは高齢者分野に絞り、高齢者介護施設の種類と概要を紹介します。、高齢者介護施設は住居系介護施設、住居系以外の介護施設、公的介護施設の3つに分かれます。
〇住居系の介護施設
{1} 介護付き有料老人ホーム
スタッフが24時間常駐し、利用者はホームによる介護サービスを受けながら生活できる住居型の施設です。要介護度では重い人までを対象としています。一時入居金が必要な場合が多く高額な場合もあります。ただし、最近では一時入居金がゼロや低額の場合もあります。
{2} 住宅型有料老人ホーム
介護度の軽い人や、自立した生活を送れる高齢者のための住居型の老人ホームです。介護が必要になった場合には外部の専門介護サービスを受けることができます。ただし、訪問介護、デイサービス、福祉用具レンタルなどの会社と別途個別に契約が必要となります。専門介護サービスの会社を系列に持ち、介護付き有料老人ホームと同様のサービスを提供している施設もあります。
{3} 健康型有料老人ホーム
介護の必要のない自立した生活を送れる高齢者のための施設です。要介護状態になったら退去しなければならない規定や要介護度が重くなると移転しなければなりません。一時入居気が高額な場合もあります。
{4} サービス付高齢者向け住宅(略称・サ高住)
バリアフリー対応で、安否確認や生活相談サービスなどを受けることができ、高齢者が安心して自立した生活を送ることができる住宅です。介護が必要になれば外部の介護会社を利用することになります。賃貸型の契約方式となります。
建設費補助では、工事費の10%まで(1戸あたりの限度額あり)、固定資産税については5年間、市町村が条例で定める割合で軽減されます。制度が変わる場合もあるので区市町村で確認する必要があります。
所得税に関しては、1戸あたりの床面積が25㎡(専用部分のみ)以上で、戸数が10戸以上の建物であれば、減価償却を5年間にわたって、40%(耐用年数35年未満の建物は、割増償却28%)割増償却できます。また、土地の固定資産税に関しては「住宅用地の課税標準の特例措置」により「課税標準額」が3分の1に軽減されます。
{5} グループホーム
介護保険の適用事業で、主に軽度認知症の高齢者が、日常生活についてスタッフのサポートを受けながら少人数で共同生活を送る施設です。人数としては1ユニット9名としています。
〇住居系以外の介護施設
{1} デイサービス
介護保険適用事業で、要介護者などが日帰りで通って、食事・入浴・レクリエーションなどを提供する施設です。
{2} デイケア
介護保険適用事業で、主に日帰りでリハビリサービスを提供する施設です。
{3} ショートステイ
介護保険適用事業で、要介護の高齢者が短期間宿泊する施設です。
これらは在宅介護をサポートするサービスを提供する施設で、比較的小さな土地でも運営でき、利用者を車で送迎するので、郊外のやや不便な場所でも開設されています。
〇公的介護施設
{1} 特別養護老人ホーム(特養)
標準的に要介護3以上の高齢者向け住居型の介護施設です。行政による公的管理で入居者が決められます。要介護度3以上で住宅に困っていることなどが条件で、入居に関する判定委員会などで入居者が選ばれます。費用も所得に応じて設定され、民間の有料老人ホームよりも安いため人気があり待機者が多くいます。
{2} 介護老人保健施設(老健)
病院を退院後、在宅復帰を目指すために一時的に入居する施設です。医療ケアやリハビリなどが受けられます。
これらの公的施設は基本的に、社会福祉法人や自治体でないと建築できません。そのため、社会福祉法人などに土地を貸して建築してもらう方法がメインとなります。
土地だけ貸す場合は、建物を建てて貸す場合に比べると、土地貸しの収益性は低くなります。ただし、規制緩和により、都市部では、土地オーナーが建物を建てて、特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人に貸し出す方式が可能な場合があります。経営基盤の確かな社会福祉法人へ賃貸することと、特別養護老人ホーム(特養)などの公的介護事業のため長期安定的な利用が見込めます。
2.空き地における高齢者介護施設の意義とメリット
空き地の高齢者介護施設の意義とメリットには次のようなものがあります。
(1) 全国様々な立地で運営可能
介護施設は全国様々なエリアで必要とされています。交通の便の良い場所の介護施設は、家族が面会に来る際の利便性が高く需要があります。また、多少交通の便が悪い場所でも、車を利用して面会に来る家族も多くあり十分に経営可能です。老人ホ-ムでは風光明媚なリゾート地に建っている場合もあります。
老人ホーム利用者は外出することが少なく、通勤通学者を対象としたアパート経営に向いていない土地の活用の選択肢としても考えられます。
(2) 長期一括借りで安定収益が得られる。
オーナーが建てた建物は、長期契約、一括借り方式で、介護事業者に貸し出すのが一般的です。場合によっては、専門会社が一括借り上げした上で、介護事業者に転貸する形式(サブリース)をとる場合もあります。アパート経営のように空室の心配がなく、長期安定収入が得られるのが魅力です。
(3) 固定資産税、相続税の節税
介護施設の中でも、住居系の施設の場合には、固定資産税や相続税の節税効果が大きいのがメリットです。住宅の敷地は、建物が建っていない更地と比べて、特例で固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1になります。また、賃貸用の住宅の敷地の相続税評価額は、マイホーム等の敷地よりも約20%程度減額される場合が多くあります。
(4) 高齢化社会のため成長性、安定性がある。
団塊の世代の後期高齢者化を迎え日本の高齢者人口の割合は、今後も上昇し続けることが予測されています。介護施設経営は今後も大きな需要が見込めるため、成長性、安定性のある土地活用方法です。
(5) 社会貢献性が高い。
介護施設経営は地域コミュニティのニーズに応える事業です。土地活用として収益を得るだけでなく、地域社会に貢献することで、満足度が感じられる意義があります。
(6) 種類によっては、建築費の補助や各種の税制優遇がある。
介護施設の不足解消のため、国や地方自治体が様々な優遇制度を設けています。介護施設の種類にもよりますが、建築費の補助が受けられたり、各種の税制優遇が受けられたりする利点があります。
ただし、介護施設の数が増えるにしたがって、これらの補助金等の制度が縮小、終了する可能性もあるので、これらの利用を考える場合には早めに検討することが必要です。
3.空き地における高齢者介護施設の問題点とデメリット
空き地における高齢者介護施設の問題点とデメリットには次のようなものがあります。
(1) 建物が特殊なため転用しにくい場合が多い。
介護施設の種類によっても異なりますが、介護施設は間取りや設備が特殊です。万が一、借主の介護事業者が廃業して撤退してしまうと、他の用途に施設を転用するのは簡単ではなく同業者にしか貸せません。このため、賃貸借契約を結ぶ際には、なるべく長期契約とし、中途解約の際の違約金などのペナルティ条項を定めておくことが重要です。
(2) 介護事業者を探す必要がある。
介護施設建設の場合は、計画段階で介護サービス事業者を探し、事業者が望む設備を考慮して設計する必要があります。そのため、介護施設による土地活用は、介護サービス事業者とネットワークを持ち、介護施設に関する高いノウハウを持ち、運営事業者を紹介してくれる不動産会社を含めた専門会社に依頼することが重要です。
(3) 行政の政策の「総量規制」がありうること。
介護施設の中には、都道府県や市区町村が建設を制限しているものがあり、この制限を総量規制といいます。総量規制の対象となる介護施設は、自治体が募集しているタイミングで応募して選ばれなければ建設することができません。
総量規制があるのは、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム、小規模デイサービス、グループホームなどです。
募集の頻度や条件については、地方自治体によって判断が分かれています。自治体が総量規制を行う理由は、経営悪化による施設の撤退を防ぐためと、自治体が負担する介護報酬の増加を制限するためです。
総量規制のある施設は、自由に建築できないためハードルが高く、デメリットの面もありますが、逆にいえば、ライバルの増加が制限されており、経営が安定するので高めの賃料が設定しやすいなどメリットの面もあります。
4.東京都における特別養護老人ホーム(以下、特養)整備に関する主な補助金
東京都保健福祉局「特別養護老人ホーム等整備費補助制度の概要令和2年3月6日」などでガイドラインが示されています。参考までに紹介します。
(1) 特養整備に関する主な補助金
{1} 施設整備費補助
定員30人以上の特養を整備する場合に、建物の整備に要する経費に対して補助金を交付します。
{2} 定期借地権の一時金に対する補助
用地確保(都有地を除く)のための定期借地権契約を行い、土地所有者に対して支払われた一時金(賃料の前払いとして授受されたものに限る)に対して補助金を交付します。
{3} 借地を活用した特養整備に関する補助
国有地又は民有地において特養を整備するにあたり、土地所有者に対して支出した賃料に対して補助金を交付します。
(2) 補助対象施設
いずれの施設も、併設ショートステイの整備が補助対象に含まれます。
{1} 特別養護老人ホーム
{2} 介護専用型ケアハウス
{3} 養護老人ホーム(特定施設入居者生活介護の指定を受けること、大規模改修を除く)
(3) 補助対象経費
{1} 工事費及び工事請負費
{2} 工事事務費(設計監理料)
補助対象経費となる工事事務費は、工事費及び工事請負費の2.6%を限度とします。
同等と認められる委託費、分担金及び適当と認められる購入費を含みます。(備品購入費は含めないこと。)
(4) 補助対象外経費
{1} 土地の買収、整地(緑化・外構・土地造成・擁壁等)に要する費用
{2} 既存建物の買収に要する費用(買取補助の対象事業及びPFI事業を除く。)
{3} 既存建物の解体撤去及び仮設建物に要する費用(増改築で補助対象と認められたものを除く。)
{4} 職員宿舎
{5} その他整備費として適当と認められない費用
(5) 特養整備の二つの手法
{1} 事業者整備型
施設を運営する社会福祉法人等が、土地所有者から土地の提供(売買又は賃貸)を受けて施設を建設⇒運営主体が都に補助協議を行い、都は運営主体に補助金を交付します。
{2} オーナー型
・借地権を設定
- 土地所有者が自分の土地に建物を整備
- 土地所有者から土地の貸与を受けて建設会社等が建物を整備
- 運営事業者は、土地所有者等から建物の貸与を受け、事業を実施
・権利設定なし
⇒土地所有者等が都に補助協議を行い、都は土地所有者等に補助金を交付します。
などのケースが想定されます。
(6) 対象事業 整備区分
定員30人以上の広域型施設である特別養護老人ホーム及びこれに併設するショートステイの整備
(7) 特養補助基準額
{1} ユニット型(定員1人当たり)
創設する場合 5,000,000円
{2} 従来型個室(定員1人当たり)
創設する場合 4,500,000円
(8) 関連事業の加算の上限
特養の定員が100人を超える場合、100人を超える分の基準単価に対しては、加算を行いません。(加算額は別途設定されます)
【例】定員110人(併設ショートを含む。)の特養に看護小規模多機能型居宅介護事業所(加算額35万円)を併設する場合の補助基準額(促進係数1.5の場合)
- 定員100人までの部分 (500万円+35万円)×100人×1.5=8億250万円①
- 定員100人を超える部分 500万円×10人×1.5=7,500万円②
補助基準額・・・①+②=8億7,750万円
(促進係数など詳細な規定がありますのでここでは割愛します)
まとめ
・福祉施設、介護施設による土地の一括借り上げとは、高齢者や障害者、子供などの施設で、福祉・介護サービス事業者に土地だけ、もしくは、事業者の希望する仕様の建物を建築し、事業者に一括して賃貸する形式です。
・高齢者介護施設の種類には次のようなものがあります。
〇住居系 {1} 介護付き有料老人ホーム {2} 住宅型有料老人ホーム {3} 健康型有料老人ホーム {4} サービス付高齢者向け住宅(略称・サ高住) {5} グループホーム
〇住居系以外の介護施設 {1} デイサービス {2} デイケア {3} ショートステイ
〇公的介護施設 {1} 特別養護老人ホーム(特養) {2} 介護老人保健施設(老健)
・空き地における高齢者介護施設の意義とメリットでは、全国様々な立地で運営可能、長期一括貸しで安定収益が得られる、固定資産税・相続税の節税、高齢化社会のため成長性・安定性がある、社会貢献性が高い、種類によっては、建築費の補助や各種の税制優遇がある、などがあります。
・空き地における高齢者介護施設の問題点とデメリットには、建物が特殊なため転用しにくい場合が多い、介護事業者を探す必要がある、行政の政策の「総量規制」がありうること、などがあります。