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「空家対策特別措置法」施行の現状と効果
「空家対策特別措置法」施行の現状と効果
近年問題になっている空き家に対して、2015(平成27)年に「空家対策特別措置法」が施行されましたが、その後の適用状況はどうなっているのでしょうか?その効果はどうでしょうか?そして、法施行5年後の見直しによって基本方針とガイドラインの改正が行われました。特定空家の適用を中心に空き家対策の現状をご紹介します。なお、用語の表記については、法律条文にて「空家」と表現されているため、一般的な「空き家」は使用せず、「空家」に統一しました。
目次
1. 空家等対策の推進に関する特別措置法について
(1) 空家等対策の推進に関する特別措置法の成立と施行
(2) 空家、特定空家の定義
2. 空家法の施行状況等について
3. 今後の空家対策
(1) 空家対策総合支援事業
(2) モデル事業
4. 空家法基本方針、特定空家等ガイドラインを改正
(1) 空家法基本方針改正
(2) 特定空家等ガイドラインを改正
5. 残る課題
まとめ
1.空家等対策の推進に関する特別措置法について
(1) 空家等対策の推進に関する特別措置法の成立と施行
公布は2014(平成26)年11月27日で、施行は2015(平成27)年2月26日(※特定空家等に対する措置の規定は5月26日施行)です。
背景としては、2013年時点での空家は全国約820万戸と増加の一途であり、多くの自治体が空家条例を制定するなど、空家対策が全国的な課題となっていたことがあります。
そのため、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家法)では、「適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全、空家等の活用のため対応が必要」としています。(空家法第1条)
(2) 空家、特定空家の定義
➀空家等とは
空家法では、「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの、及び、その敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)を言います。
ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。(空家法第2条1項)とされています。
②特定空家等とは、
空家法では、「特定空家等」とは、
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
にある空家等とされています。(空家法第2条2項)
2.空家法の施行状況等について
2021(令和3)年3月31日時点、国土交通省・総務省調査「市区町村の取組による管理不全の空き家の除却等の状況」(調査対象:1,741市区町村)では次のようになっています。
・所有者特定事務が完了:38.0万物件
・所有者を特定:33.9万物件
・管理不全の空き家(特定空家等を除く):77,921 物件
・市区町村の取組により除却等がなされた特定空家等: 11,887 物件
(助言・指導に至る前:4,941 物件)
(助言・指導後、勧告に至る前:6,281 物件)
(勧告後、命令に至る前:358 物件)
(命令後、行政代執行に至る前:47 物件)
(代執行<行政代執行+略式代執行>:260 物件)
・現存する特定空家等(市区町村が把握している物件数):17,636 物件
3.今後の空家対策
(1) 空家対策総合支援事業
空家法を積極的に活用して、空家・不良住宅の除却、空家の活用、関連事業など総合的な空家対策に取り組む市町村に対し支援を行うとされています。
➀補助対象の事業
補助対象の事業としては次のようなものがあります。
・空家の除却
例:特定空家等の除却 ポケットパークとして跡地を利用する空家を解体
・空家の活用
例:空家を地域活性化のための地域交流施設に活用
・空家等対策計画の策定等に必要な空き家の実態把握
・空家の所有者の特定
・関連する事業等
例:周辺建物の外観整備、残置動産の撤去費等
②補助対象者 法定の協議会など、民間事業者等と連携して事業を推進
③事業期間
事業期間を5年間延長し、令和7年度までとなっています。
(2) モデル事業
モデル事業として、全国における空家対策を加速化するため、空家対策の執行体制の整備が必要な自治体における専門家等と連携した相談窓口の整備等を行う取組、民間事業者が空家の発生防止等の抜本的対策に取組むモデル的な取組について支援を行い、その成果の全国への展開を図るとされています。
➀空家に関する相談窓口等の民間連携支援
相談窓口等の空き家対策の執行体制の整備が必要な自治体を対象として、空家相談のための人材育成、法務・不動産・建築等の多様な専門家と連携した相談体制を構築する取組を支援するものです。
②住宅市場を活用した空家に係る課題の解決
空家に係る全国共通の各種課題に対して、住宅市場を活用した空家対策に関する新たなビジネスの構築等のモデル的な取組に対して支援するものです。
<想定される取組例>
*シェアリング・サブスクリプション等を活用したビジネス化・産業を展開し、空家の潜在的需要を喚起する取組
*コロナ禍後の新生活様式のためのテレワークやサテライトオフィス等に活用するための空家を転用する取組
*国土交通省「空き家対策の現状について」(令和3年)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001429587.pdf
4.空家法基本方針、特定空家等ガイドラインを改正
国土交通省は見直しを経て、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」(以下、基本方針)と「特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」(以下、ガイドライン)を改正、公開しました。法律施行後の取り組み状況と地方公共団体からの要望を踏まえ、空家対策をさらに強力に推進するための措置です。
(1) 空家法基本方針改正
基本方針では、特定空家等の対象には「将来著しく保安上危険又は著しく衛生上有害な状態になることが予見される」空家等も含まれる旨が記載されました。
(2) 特定空家等ガイドラインを改正
ガイドラインには、所有者等の所在を特定できない場合等については、「民法上の財産管理制度を活用するために、市町村長が不在者財産管理人又は相続財産管理人の選任の申立てを行なうことが考えられる」と記載されました。
また、地域の空家等対策に取り組むNPO等の団体について協議会の構成員の例に追加され、専門的な相談について連携して対応することも記載されました。
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
5.残る課題
現状では規模が大きい自治体ほど空家対策が進んでいる傾向です。
空家対策を行うためには、まず自治体が空家対策特別措置法に基づき空家を認定する必要があります。特に、倒壊の恐れや衛生上問題がある「特定空家」の認定の必要性がありますが、多くの自治体では特定空家の認定に慎重な傾向があります。消極的な自治体では対策がいっこうに進まないケースもあります。
今後ガイドラインの改正が行われた後、認定が進むのかどうかが課題です。
自治体で空き家対策に消極的な理由では、金銭的あるいは事務的な負担を理由に実施を躊躇している自治体も少なくありません。国の一層の後押しが必要であるとも言えます。
まとめ
・空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)の成立・施行は、空家が増加の一途であり、多くの自治体が空家条例を制定するなど、空家対策が全国的な課題となっていたことが背景となっています。
・地方自治体行政が具体的対策を取るのは特定空家等です。空家法では、「特定空家等」とは次のようなものです。(空家法第2条2項)
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
・2021(令和3)年3月31日時点、国土交通省・総務省調査「市区町村の取組による管理不全の空き家の除却等の状況」(調査対象:1,741市区町村)では、市区町村により除却等がなされた特定空家等は11,887 物件となっています。
・現状では規模が大きい自治体ほど空家対策が進んでいますが、全体的には不十分です。特に処置の具体化では、倒壊の恐れや衛生上問題がある「特定空家」の認定の必要性がありますが、多くの自治体では特定空家の認定に慎重な傾向があります。