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“負”動産・不要な不動産の処分方法
―いらない不動産の所有権を放棄できるのか?―
親から相続した田舎の土地など、自宅からは遠く、自分たちが住むわけでもないのに、毎年、固定資産税を払い続けている人が多くいます。売りたくても売れない場合が多くあります。不動産を処分したい場合には売却以外にどのような方法があるのでしょうか?また、最悪の場合、土地の所有権を放棄することはできるのでしょうか?マイナスしでしかない不動産を”負“動産と呼ぶ時代になってきました。それだけ構造的な問題になっています。お手持ちの不動産の処分に困っている方に向けて、“負”動産・不要な不動産の処分方法とあまり知られていない不動産の所有権の放棄ができるのかどうかについて説明します。
目次
1.不動産ならぬ”負”動産。いらない不動産は放棄できるのか?
2.不動産の寄付、無償譲渡による処分
3.相続放棄でいらない不動産だけを放棄できるのか?
4.売れない不動産の売却処分の追求
5.処分できない場合の当面の不動産活用の再検討
まとめ
1.不動産ならぬ”負”動産。いらない不動産は放棄できるのか?
不動産を所有しているだけでマイナスになり“負”動産と言われている問題が広がっています。不動産は所有しているだけで固定資産税を支払わなければならないなどの理由から、実家の不動産を相続しているが活用する予定もなく、処分できないかと考える方が多くいます。売れない物件がほとんどで買い手も付きにくい現状です。
(1) “負”動産とは?
所有している不動産がマイナス効果しかない場合に“負”動産と言います。マイナスの要素には次のような点があります。
①固定資産税の負担
不動産は、使っていなくても所有しているだけで固定資産税を支払う必要があります。田舎で土地の評価も低ければ固定資産税も安くなりますが、それでも土地が広い場合は税額もまとまってくる場合があります。建物が建っている場合や農地であれば税負担軽減の適用を受けられますが、通常の土地で建物が建っていない場合はその特例の適用も受けられず、農地であれば固定資産税の軽減税率の適用を受け続けるためには、継続して耕作続ける必要があります。また、空き家が建っている場合は適切な管理が行われていないと、行政から特定空き家と指定され特例の適用を受けられなくなる可能性もあります。
②管理の手間、費用
土地は毎年定期的に管理しなければ雑草が生え放置すれば伸び続け、また、ゴミの不法投棄の場所になってしまう場合が多くあります。周辺の住民からはクレームが出るのは必須です。空き家の場合はさらに放火の危険性や不審者の侵入の危険性もあります。これらのクレームが出ないようにするためには、自分で管理作業を行うか遠隔地の場合は近隣の業者に有料で依頼しなければなりません。自分で行えば手間と交通費がかかり、業者に依頼すれば費用がかかります。固定資産税以上に負担額はかかる場合が多くあります。
③事故が起きた場合の損害賠償リスク
地震で塀が倒れ通行人に被害が出た場合、がけ地などで崖崩れが起こり損害を生じさせた場合、放火などで火災が起き隣家に被害が発生した場合などは損害賠償責任を負うリスクがあります。傷害保険などの加入も必要になり、保険未加入の場合には損害賠償が多額になる危険性があります。
(2) 不動産の所有権放棄はできるのか?
不動産の所有権はいらないからといって放棄することはできるのでしょうか?
民法では、不動産の所有権について「所有者のない不動産は国庫に帰属する(民法第239条第2項)」としていますが、実際にはいらない土地などの不動産の所有権を放棄すれば国が引き取ることはありません。マイナスの要素を持つ不動産を国が引き取れば大きな税負担が増えてしまいます。
また、法律的に他の条文には土地の放棄について規定したものはありません。
不動産所有には登記が必要ですが、所有権放棄による不動産の所有権末梢登記の手続きが定められておらず権利を抹消できません。
不動産放棄については判例もなく、学説も分かれています。そのため現状では不動産所有権の放棄は法的にはできない現状です。
2.不動産の寄付、無償譲渡による処分
不要な不動産の処分では寄付、無償譲渡という方法があります。ただし、寄付、無償譲渡される側の同意が必要です。タダでも受け取ってくれるというわけではありません。
寄付、無償譲渡の相手先と方法としては次のようなものがあります。
(1) 地方自治体への寄付
寄付とは公共性の高い行政や団体へ無償で金品を与える行為のことです。寄付先として第1に市町村などの地方自治体が考えられます。しかし、実際には地方自治体は、使用する目的がなければ土地など不動産の寄付を受け付けません。寄付を受けた場合、その不動産を管理する手間と費用がかかります。そのため使用する目的がなければ財政負担が増え寄付を受け付けません。また、地方自治体にとって不動産の所有者に対して課税する固定資産税は大事な収入源であり、むやみに寄付を受け付けていては税収が減ってしまうからです。
なお、地方自治体へ寄付する場合、その手順は自治体によって異なりますが、次のような点があります。
・担当窓口で寄付について相談する。
・担当者による不動産物件調査
・調査後、審査OKなら必要書類の提出や各種手続きをする。
また、相続では相続税の納入で金銭ではなく国への不動産の物納の制度がありますが寄付とは異なります。また、国も物件により物納を認めない場合があります。
(2) 個人への無償譲渡
譲渡とは無償でも有償でも権利、財産、法律上の地位などを他人に譲り渡すことです。個人では親しい知人や親族がありますが、どう活用してよいかわからない不動産を欲しがる人はそうはいないと考えた方が自然でしょう。
可能性としては、隣地の所有者に対して譲渡することがあります。隣地の所有者であれば、自分の土地とまとめてひとつの土地とすることができます。
また、知人でも不動産を持ちたいという夢のある人がいれば持つだけで魅力があることも考えられます。
なお、個人への無償譲渡では贈与とみなされ、不動産の評価額により譲渡を受けた側に贈与税がかかる場合があります。
(3) 法人へ寄付、無償譲渡
地方自治体以外の民間の各種法人への寄付、無償譲渡の方法もあります。法人であれば事業目的などでの利用も考えられるため、受け入れる所もありえます。法人であれば諸費用も経費扱いとすることができます。
寄付、無償譲渡先の可能性としては、寄付では社会福祉法人、公益法人、NPO法人など、無償譲渡先では一般企業などがあります。
また、寄付を受けた側には贈与税、譲渡した側には見なし譲渡所得税が課される場合もあります。
その他、手続きでは所有権移転登記費用がかかります。寄付や無償譲渡の場合には費用をどちらが負担するのか協議します。
3.相続放棄でいらない不動産だけを放棄できるのか?
一般的な不動産所有権の放棄は現状ではできませんが、相続について特別の規定があります。相続放棄は相続の手続きの際に手続き開始前であれば可能です。
しかし、相続放棄は特定の遺産、例えば不要な個別の不動産だけを放棄することはできず、遺産のすべてを一括して放棄しなければなりません。
4.売れない不動産の売却処分の追求
市場価値の乏しい不動産でも相手により活用の方法がある場合が考えられます。また、先述したように不動産自体を持ったことがないために、不動産を持つのが夢のある人も考えられます。無償ではなく低価格での売却について更に追求してみる価値はあります。方法としては次のようなものがあります。
(1) 物件の地元不動産会社への相談
市場性の薄い土地でも、たとえ家の建たない市街化調整区域の土地でも、地元の不動産会社では地域の法人ニーズなどを把握しており、住宅ではなく建築資材置き場や物流のスペースなどに活用できる場合があります。
(2) 大幅低価格での設定
極めて安い価格であれば関心を持つ人がいるかもしれません。投資目的で買う人もいるかもしれませんし、セカンドハウス目的で使い人もいるかもしれません。コロナによるリモートワークの拡大で市場は拡大しています。
(3) インターネットオークションなどインターネットを活用した売主の自主販売
余りにも安い物件では不動産会社が対応しませんから、売主自身がインターネットオークションなどインターネットを活用して販売する方法などがあります。対象地域が広がり、不動産自体を持つのが夢の人や、空き家でも一定の使用可能な物であれば場所により旅行の宿泊先にする場合や、リゾート性があり家が建たない場所でも最近はキャンプ用に土地を買う場合もあります。
なお、個人間同士でも売却手続きで不動産会社の協力をえる場合の費用や、登記で司法書士の費用がかかることは想定しておかなければなりません。
(4) 空き家バンクへの登録
地域により物件により、空き家バンクという自治体などが運営するサイトに物件が登録できます。空き家バンクのサイトは、基本的に移住希望者しか閲覧しないため、一般の不動産を求めている人とは別の層の閲覧者が物件の情報を見ることになり潜在的な買い手の対象が拡大します。
5.処分できない場合の当面の不動産活用の再検討
当面処分できなくても将来的に処分することを前提に、土地活用を考えてみるのもひとつの方法です。田舎の土地でも、太陽光発電であれば立地に関係なく活用することができます。また、場所によりアクセスにこだわらない老人ホームなどの高齢者施設なども考えられます。関連事業者に相談してみる価値はあります。
まとめ
・“負”動産の要素には、①固定資産税の負担 ②管理の手間、費用 ③事故が起きた場合の損害賠償リスクの3点があります。
・不動産の所有権放棄は、判例もなく学説も分かれており、所有権放棄による所有権の抹消登記の規定がなく、現状ではできません。
・不動産の処分方法には、寄付・無償譲渡、売却があります。
・相続放棄では、特定不動産だけの放棄はできず、遺産すべての放棄が必要です。