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現金化の必要性に迫られた場合の相続不動産の売却

現金化の必要性に迫られた場合の相続不動産の売却

相続人が兄弟姉妹など複数名いる場合は遺産分割の問題が深刻です。相続不動産が住宅で1つしかなく、他に現金預金が少ない場合があります。かつ、相続人も納税資金が不足している場合も多くあります。また、長男や被相続人と同居していた兄弟姉妹がいる場合、どのように分割するかが問題になります。自宅を相続したい人に不動産に変わる現金預金が無ければ金銭による解決は難しくなり、不動産の売却が必要になってきます。相続した不動産の売却については一般の売却に関する要素とともに、その特殊性について知っておく必要があります。

目次

1. 相続した不動産の分割方法

2. 相続物件の名義確認と名義変更・相続登記

3. 相続した不動産の売却時にかかる譲渡所得税

(1) 譲渡所得税の税率

(2) 譲渡所得税の計算方法

4. 相続不動産を売却する際の節税ポイント

(1) 相続税の取得費加算の特例

(2) 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特別控除の特例

(3) 居住用不動産の3,000万円の特別控除

(4) 所有期間が長期の自宅を売却した場合の軽減税率の特例

(5) 居住用不動産の買換特例

5. 売却した際の確定申告の必要性

まとめ

 

1.相続した不動産の分割方法

 

兄弟姉妹など相続人が複数いる場合は遺産分割に関する方法が問題となります。遺産分割の方法については次の3つがあります。

 

①換価分割

不動産を売却して現金化して分割する方法です。現金化が迫られた場合に該当します。

 

②代償分割

不動産相続人のうちの1人が相続し、他の相続人に対して現金で、一括もしくは分割で遺産分割額を払う方法です。ただし、不動産を相続する相続人にとっては代償金が多額になり支払えるかどうかの問題があります。相続税は各人が各人の相続税額に従い支払う必要があります。

 

③共有分割

不動産を共有化し登記する方法です。共有は実際にはその不動産を使用する者は限定され、他の共有者にとっては不満があります。その時点では問題が先送りされ、将来に分割問題が先延ばされる点があり、争族化する危険性が内包されています。

 

2.相続物件の名義確認と名義変更・相続登記

 

相続不動産が親の名義だと思っていたものが、実際には亡くなった祖父の名義のままだったなどはよくあることです。相続の登記が未了の場合でも、現状では相続登記はいつまでにしなければならないという期限が定められていないためです。その場合は名義変更と相続登記をしなければなりません。

相続の名義変更と相続登記をしない危険性には次のような点があります。

・単独で売却、担保設定ができません(売却先や担保設定する金融機関などから名義変更と相続登記を要求されます)。

・他の相続人がいる場合、単独で勝手に売却、抵当権設定などをする危険性があります。

 

3. 相続した不動産の売却時にかかる譲渡所得税

 

(1) 譲渡所得税の税率

 

相続した不動産の売却時にかかる税金の中心に譲渡所得税があります。譲渡所得税は不動産を売却して利益が発生した場合にかかる税金で売却後に算定されます。

 

譲渡所得税には、国税である所得税と地方税である住民税があります。税率は次の通りです。

 

①所得税

長期譲渡所得(所有が5年を超える場合) 15%

短期譲渡所得(所有が5年以内の場合)   30%

 

その他復興特別所得税 2.1% が加わります。

長期譲渡所得税+復興特別所得税=15+(15×0.021)=15.315%

短期譲渡所得+復興特別所得税= 30+(30×0.021)=30.63%

 

②住民税

長期譲渡所得(所有が5年を超える場合)  5%

短期譲渡所得(所有が5年以内の場合)   9%

 

③所得税+復興特別所得税+住民税の合計

長期譲渡所得(所有が5年を超える場合) 20.315%

短期譲渡所得(所有が5年以内の場合)   39.63%

 

(2) 譲渡所得税の計算方法

 

譲渡所得税の計算方法は下記のようになります。

 

・譲渡所得額=売却価格―(取得費+譲渡費用)
・譲渡所得税=譲渡所得額―譲渡所得の特別控除額

 

①売却価格

不動産の売値

 

②取得費

相続特有の要素として、被相続人が所有した時期と価格が相続人に引き継がれます。取得費に含まれるものとして次のようなものがあります。

・土地購入代金
・建物取得費(建物取得費=取得価格―原価償却費相当額)

土地・建物の取得費が分からない場合などは、譲渡価額の5%を概算取得費として計算することができます。

・取得時の登録免許税
・不動産取得税
・売買契約書、建築請負契約書の印紙代
・購入時の不動産仲介手数料
・整地、埋め立て、盛り土、下水道費用など
・建物のリフォーム費用、改築費用、給湯設備の設置費など
・住宅ローンの事務手数料
・借主がいた場合の立退き費用
・土地造成費用
・土地購入のための土地測量費
・土地購入のための建物取壊費用

その他

 

③譲渡費用

不動産を売却するために支出した費用をいいます。譲渡費用には次のようなものがあります。

・売却時の不動産仲介手数料
・不動産登記費用
・土地売却のための土地測量費
・売買契約書印紙代
・売却時に借家人などに支払った立退き料
・建物を取り壊して土地を売る場合の建物解体費用
・売却のための土地造成費用

その他

 

④譲渡所得の特別控除額

譲渡所得から差し引くことができる特例や控除があります。居住用不動産の売却の場合の、居住用不動産の3,000万円控除などがあります。

 

4.相続不動産を売却する際の節税ポイント

 

相続不動産を売却する際の節税ポイントには、税金の特例、特別控除の活用があります。

 

(1) 相続税の取得費加算の特例

 

相続した不動産物件の売却は一定期間以内(3年10カ月以内)に行えば取得費に相続税の一部を加算できます。加算できる相続税額は土地・建物にかかったものです。

・取得費加算額=支払った相続税×売却した不動産の相続税評価額÷その者が取得した相続財産総額

 

この特例を受けるための要件は以下の3つです。

①相続によって財産を取得した者が売却したこと
②その財産を取得した者が相続税を支払ったこと
③相続開始日から3年10カ月以内に売却したこと

 

国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm

 

(2) 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特別控除の特例

 

相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。

 

国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

 

(3) 居住用不動産の3,000万円の特別控除

 

自らの住んでいる自宅を売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。譲渡所得税の計算式の譲渡所得税=譲渡所得額―譲渡所得の特別控除額での特別控除額に該当するものに3,000万円を上限として含めることができます。

 

国税庁「マイホームを売ったときの特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

 

(4) 所有期間が長期の自宅を売却した場合の軽減税率の特例

所有期間が10年を超えている自宅を売却した場合で、かつ譲渡所得が3,000万円を超えている場合にその超えている部分(6,000万円まで)に課税される税率が軽減される特例です。先述の3,000万円の特例との併用が可能です。

 

国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2015/taxanswer/joto/3305.htm

 

譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地や建物を売ったときの税額の計算

国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2015/taxanswer/joto/3208.htm

 

(5) 居住用不動産の買換特例

 

特定の居住用財産の買換えの特例とは、特定のマイホーム(居住用財産)を代わりのマイホームに買い換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます。特例の適用を受けた場合、売却した年分で譲渡益への課税は行われず、買い換えたマイホームを将来譲渡したときまで譲渡益に対する課税が繰り延べられます。(譲渡益が非課税となるわけではありません)

 

国税庁「特定のマイホームを買い換えたときの特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2015/taxanswer/joto/3355.htm

 

これらの基本的な特例、特別控除は、法改正も多く適用期間の変更もあり注意が必要です。

 

5.売却した際の確定申告の必要性

 

不動産の売却に関する税は分離課税ですので確定申告が必要となります。被相続人が購入した時よりも土地価格が下落したり、物件の老朽化により価格が下落した場合などで、損失になった時は、確定申告は不要になる場合があります。

 

まとめ

 

・兄弟姉妹など相続人が複数いる場合は遺産分割に関する方法が問題となります。遺産分割の方法については、①換価分割②代償分割③共有分割の3つがあります。売却に関するのは換価分割の場合です。

・相続物件の名義確認をし、名義が変わっていない場合は名義変更・相続登記が必要となります。

・相続した不動産の売却時にかかる税金の中心に譲渡所得税があります。譲渡所得税には、国税である所得税と地方税である住民税があります。税率は、長期譲渡所得(所有が5年を超える場合)15%、短期譲渡所得(所有が5年以内の場合)30%です。

・譲渡所得税の計算方法は下記のようになります。

譲渡所得税=譲渡所得額{売却価格―(取得費+譲渡費用)}―譲渡所得の特別控除額

・相続不動産を売却する際の節税ポイントには、各種の特例、特別控除の活用があります。

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