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遺贈と相続の相違
遺贈と相続の相違
被相続人が亡くなった場合、最初に確認するのが遺言書の有無です。遺言は法定相続に優先するものだからです。遺言は被相続人の意思として第1に優先されるものです。遺言による贈与を遺贈と言います。しかし、優先される遺贈にも法的な制限があります。また、遺贈にも種類があります。ここでは、遺贈と相続の違いや遺贈の形態、遺贈によるトラブル防止、遺贈と相続税、遺贈の手続きや注意点をまとめました。
目次
1. 遺贈とは
(1) 遺贈とは
(2) 遺贈執行者とは
(3) 遺贈の手順
2. 遺贈と相続との違い
3. 遺贈と贈与との違い
(1) 遺贈と生前贈与との違い
(2) 遺贈と死因贈与との違い
4. 遺贈の種類―包括遺贈と特定遺贈
(1) 包括遺贈とは
(2) 特定遺贈とは
5. 遺贈にかかる相続税、譲渡課税
(1) 基礎控除を超えると相続税が発生する。
(2) 相続税が2割増しになる場合もある。
(3) 現物寄付によるみなし譲渡課税
まとめ
1.遺贈とは
(1) 遺贈とは
遺贈とは、遺言によって相続人や相続人以外の人に財産を引き継がせることです。
遺言があれば、法定相続分に従う必要はありません。ただし、遺贈をするには遺言書の作成や、遺言の内容を忠実に執行する遺言執行者選任などの手続きが必要です。
(2) 遺贈執行者とは
遺贈執行者とは、遺贈を実行する人です。たとえば「自宅を長男に遺贈する」と遺言したとき、誰かが不動産の名義変更をしなければなりません。その名義変更を行うのが遺贈執行者です。
遺言書に遺言執行者を定めない場合、相続人が遺贈執行者となります。遺言執行者を定めると遺言執行者が遺贈の手続きを行います。
(3) 遺贈の手順
遺贈したい人は、遺言書を作成します。遺言書において財産を引き継がせたい人を対象に遺贈を記載します。
遺贈する財産は「AにB銀行の預金全額」などと特定することもできます。「遺産の3分の1を遺贈する」などの包括的な表現でも有効です。また遺贈の対象は法定相続人でも法定相続人以外の人でもかまいません。
2.遺贈と相続との違い
遺贈は、法定相続人以外の第三者にも財産を引き継がせることが可能です。
しかし、相続は、法律の規定に従って遺産が法定相続人(民法で定められた相続人)のみに引き継がれるものです。
3.遺贈と贈与との違い
(1) 遺贈と生前贈与との違い
遺贈は、単独行為なので受遺者(遺贈を受ける人)の合意は不要です。ただし受贈者が遺贈を放棄すると効果は発生しません。
また、遺贈は必ず要式を守った遺言書で行わねばなりません。
生前贈与は、生前に財産を誰かに無償で譲る契約です。契約なので、無償で財産を譲る相手の同意が必要となり、生前に効果が発生するため財産の所有権は生前に移転します。
また、生前贈与には厳格な要式がなく、口頭でも有効です。
(2) 遺贈と死因贈与との違い
遺贈は、遺言書によって行う厳格な要式行為であり、受遺者の合意は不要です。ただし、受遺者の遺贈の放棄は可能です。
死因贈与は、贈与者(遺産を贈与する被相続人)の死亡を条件として効果を発生させる贈与契約です。契約なので受贈者の合意が必要となります。
また、生前贈与と同様、厳格な要式は不要で、口頭でも成立させることができます。
4.遺贈の種類―包括遺贈と特定遺贈
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
(1) 包括遺贈とは
①包括遺贈とは
包括遺贈とは、財産内容を指定せずに行う遺贈です。
たとえば「全財産を相続人Aに遺贈する」「遺産のうち2分の1を妻Bに遺贈する」などとすると、包括遺贈となります。
包括遺贈の場合、プラスの資産もマイナスの負債もまとめて受遺者へ遺贈されます。
割合だけが指定されて具体的な財産が決まらないので、受遺者は相続人の遺産分割協議に参加し、具体的に「どの遺産をどれだけ相続するか」を決定しなければなりません。
②包括遺贈の注意点
包括遺贈には、以下の注意点があります。
a. 負債も引き継がれる。
包括遺贈の場合、受遺者には負債も引き継がれます。たとえば「2分の1」の遺産を包括遺贈されると、負債の2分の1も引き継ぐため、債権者から支払い請求を受ける可能性があります。
包括遺贈を放棄するには、原則的に「相続があったことを知ってから3カ月以内」に家庭裁判所で「遺贈の放棄の申し述べ」をしなければなりません。
b. 遺産分割トラブルが発生する可能性がある。
受遺者は他の相続人の遺産分割協議に参加する必要があるため、他の相続人との間でトラブルが発生することが考えられます。他の相続人にとっては自分たちの相続分が減らされたとの感情があるためです。
(2) 特定遺贈とは
①特定遺贈とは
特定遺贈とは、財産を指定して行う遺贈です。
たとえば「A銀行の預貯金100万円を孫であるBに遺贈する」と遺言すると、特定遺贈となります。
特定遺贈の受遺者が法定相続人でない場合、遺産分割協議に参加する必要がなく、すぐに遺産を受け取れます。また、負債を相続する必要もありません。
特定遺贈も「放棄」ができますが、包括遺贈と違って期限はありません。家庭裁判所に申し述べする必要もなく、他の相続人に「遺贈を放棄します」と告げれば財産を引き継がずに済みます。
②特定遺贈の注意点
特定遺贈にも以下の注意点があります。
a. 不動産取得税がかかる可能性がある。
法定相続人が不動産を相続したり遺贈を受けたりしても、不動産取得税はかかりません。
一方、法定相続人以外の人が不動産の特定遺贈を受けると不動産取得税がかかる可能性があります。
b. 遺産が失われる可能性がある。
特定遺贈を行っても、被相続人が死亡するまでに時間が経ち、遺産の内容によっては特定した財産が失われる可能性があります。その場合、特定遺贈は無効になってしまいます。
c. 遺留分トラブルが発生する可能性がある。
特定遺贈の対象となった財産価値が高い場合、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。その場合、他の相続人から受遺者へ「遺留分侵害額請求」が行われてトラブルになるケースがあります。遺留分および遺留分侵害額請求については、他の項目で詳しく説明します。
5.遺贈にかかる相続税、譲渡課税
(1) 基礎控除を超えると相続税が発生する。
遺贈すると相続税がかかる可能性があります。相続税が発生するのは基礎控除を超える場合です。基礎控除は「3000万円+法定相続人数×600万円」です。
遺産評価額が基礎控除額を超えると、受遺者も遺贈財産の評価額に応じて相続税を払わなければなりません。
(2) 相続税が2割増しになる場合もある。
配偶者や一等親の血族、孫など以外の人に遺贈すると、相続税が2割増しで加算されます。たとえば以下のような人は、相続税を2割増しで払わねばならないので注意しましょう。
・兄弟姉妹、甥姪、いとこなどの親族
・代襲相続人でない孫
・姻族(婚姻により出来た親戚)
・親族ではない第三者
(3) 現物寄付によるみなし譲渡課税
不動産や株式など現物寄付する財産に、含み益がある場合には、みなし譲渡課税が発生することになります。
みなし譲渡課税は、相続人が負担することになりますが、寄付されて全く手に入らない現物のために相続人が税金を支払う矛盾が生じることになります。
さらに、不動産のような現物の場合には、地方の物件などで実際には売ることができないようなケースも出てきます。寄付される側も、売ることができない不動産を寄付されては困るため、公益団体でも不動産の現物寄付は基本的に受け付けない場合が多くあります。
まとめ
・遺贈とは、遺言によって相続人や相続人以外の人に財産を引き継がせることです。遺言があれば、法定相続分に従う必要もありません。
・相続は、法律の規定に従って遺産が法定相続人(民法で定められた相続人)のみに引き継がれるものです。
・生前贈与は、生前に財産を誰かに無償で譲る契約です。契約なので、無償で財産を譲る相手の同意が必要となります。
・死因贈与は、贈与者(遺産を贈与する被相続人)の死亡を条件として効果を発生させる贈与契約です。契約なので受贈者の合意が必要となります。
・包括遺贈とは、財産内容を指定せずに行う遺贈です。
・特定遺贈とは、財産を指定して行う遺贈です。