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遺留分と民法改正による「遺留分侵害額請求」とは
遺留分と民法改正による「遺留分侵害額請求」とは
遺贈に関連した問題に、法定相続人に最低保証された遺留分があります。この遺留分については相続法に関連する民法改正があり、約40年ぶりに制度が変わりました。2019年7月1日より施行された遺留分減殺請求に変わる遺留分侵害額請求という制度があります。複雑な遺留分及びその割合についての説明と遺留分侵害額請求の制度について説明します。
目次
1. 遺留分とは
2. 遺留分の帰属先及びその割合
(1) 遺留分の帰属先
(2) 遺留分の割合
3. 基礎財産の計算方法
4. 現行法の遺留分侵害額請求と旧法の遺留分減殺請求の相違
(1) 清算方法が「お金」のみになった。
(2) 生前贈与の期間が10年間に限定された。
(3) 遺留分侵害額請求の適用時期は2019年7月1日以降に発生した相続
5. 遺留分侵害額(減殺)請求ができる人は
6. 遺留分侵害額(減殺)請求には時効と期限がある。
まとめ
1.遺留分とは
遺留分とは、相続の上で兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の権利とその割合のことです。
遺留分は、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人に認められていて、相続人の遺留分は法定相続分として一定の割合が定められています。
遺産を受け取れなくなったり減らされたりした法定相続人は、受遺者へ「遺留分侵害額請求」ができます。
遺留分という制度のある理由は、遺言者の意思は遺贈によりできるだけ実現させるが、残された法定相続人である家族にも財産を受け取る最低の権利があると考えられているからです。
2.遺留分の帰属先及びその割合
(1) 遺留分の帰属先
①配偶者
②子、孫
③親だけの場合
なお兄弟姉妹には遺留分はありません。
(2) 遺留分の割合
①配偶者 法定相続分の2分の1
②子供、孫など 法定相続分の2分の1
③親だけの場合 法定相続分の3分の1
*民法(1042条)「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。」
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
上記のように、直系尊属だけが相続人の場合には相続財産の1/3が遺留分となり、それ以外の場合には相続財産の1/2が遺留分権利者全員の遺留分として確保されることになります。
例えば、妻と子1人を残して夫が死んだ場合、
・法定相続分では、妻が2分の1、子が2分の1となります。
・このときの遺留分は、妻が4分の1、子が4分の1となります。
*遺留分のあるケース
①相続人が配偶者のみの場合
②相続人が配偶者+子の場合
③相続人が子のみの場合
④配偶者と父母が相続人となる場合
⑤父母のみが相続人となる場合
⑥配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合
*遺留分と法定相続分の割合表一部(相続財産全体を1とする)
相続人のケース | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者のみ | 1 | 1/2 |
配偶者+子 (配偶者)
(子) |
1/2
1/2÷人数 |
1/2×1/2
1/2×1/2÷人数 |
配偶者+直系尊属 (配偶者)
(直系尊属) |
2/3
1/3÷人数 |
2/3×1/2
1/3×1/2÷人数 |
配偶者+兄弟姉妹 (配偶者)
(兄弟姉妹) |
3/4
1/4÷人数 |
1/2
なし |
子のみ | 1÷人数 | 1/2÷人数 |
3.基礎財産の計算方法
遺留分算定の基礎となる財産(基礎財産)は、相続開始時に被相続人が有していたプラスの財産のほか、相続開始前1年間になされた贈与の価額、特別受益に該当する贈与、遺留分権利者を害することを知ってなされた贈与など、一定の生前贈与財産を加え、そこから相続債務や葬儀費用などを控除して算出することになります。
*遺留分算定の基礎財産=相続開始時において被相続人が有していた積極財産+贈与財産の価額-相続開始時において被相続人が負っていた相続債務
4.現行法の遺留分侵害額請求と旧法の遺留分減殺請求の相違
遺留分侵害額請求は2019年7月1日に施行された改正民法により導入された新しい制度です。それまでは「遺留分減殺請求」という制度が適用されていました。
2019年6月30日以前に発生した相続・・・遺留分減殺請求
2019年7月1日以降に発生した相続 ・・・遺留分侵害額請求
重要な変更点は3つです
(1) 清算方法が「お金」のみになった。
もっとも重要な変更点は、清算の方法です。遺留分減殺請求の頃は「現物返還」が原則だったので、遺留分減殺請求をすると「不動産」や「株式」「預金」などの「遺産そのもの」が返還されていました。そのため、不動産などの分けられないものは「共有」状態となってしまいました。
しかし、多くの場合、遺留分権利者も侵害者も「共有状態」を望みません。そこで遺留分侵害額請求では、お金での清算が原則とされました。権利が行使されると侵害者は請求者へお金を払うことにより共有になることを避けられます。
(2) 生前贈与の期間が10年間に限定された。
遺留分減殺請求では、法定相続人への生前贈与は時期を問わず「すべて対象」になっていました。そのため、相当期間の古い生前贈与が持ち出され、遺留分額の算定方法について、トラブルが大きくなる傾向があったため、遺留分侵害額請求では「死亡前10年間に行われた生前贈与」に限定されました。
(3) 遺留分侵害額請求の適用時期は2019年7月1日以降に発生した相続
遺留分侵害額請求が適用されるのは、改正民法の施行された2019年7月1日以降に発生した相続です。2019年6月30日までに発生した相続には旧法の「遺留分減殺請求」が適用されます。
遺留分侵害額請求(現行)と遺留分減殺請求(旧法)の相違まとめ
・清算方法
遺留分侵害額請求(現行)お金で精算
遺留分減殺請求 (旧法)現物返還
・支払い猶予
遺留分侵害額請求(現行)可能
遺留分減殺請求 (旧法)即時返還
・請求後の効果
遺留分侵害額請求(現行)お金が返ってくる
遺留分減殺請求 (旧法)物が返ってくる、そのため共有になる可能性が高い。
・生前贈与の時期
遺留分侵害額請求(現行)法定相続人への生前贈与は死亡前10年間
遺留分減殺請求 (旧法)法定相続人への生前贈与はすべて含む
・適用時期
遺留分侵害額請求(現行)2019年7月1日以降の相続
遺留分減殺請求 (旧法)2019年6月30日までの相続
5.遺留分侵害額(減殺)請求ができる人は
民法上、遺留分侵害額(減殺)請求ができる人は明確に決められており、その相続において法定相続人になる兄弟姉妹以外の人となっています(民法1042条)。
つまり、「配偶者」「子およびその代襲相続人」「直系尊属」の3者だけに遺留分権が認められており、これらの人であっても法定相続人にならない場合(相続権を剥奪されている場合や上位の法定相続人がいる場合)には、遺留分権はありません。
6.遺留分侵害額(減殺)請求には時効と期限がある。
遺留分の請求期限は、相続が発生したこと及び遺留分が侵害されたことを知った日から1年、もしくは相続が発生した日から10年です。
遺留分侵害額(減殺)請求ができる期間は法律で定められており、遺留分侵害の事実を知った日から1年間がこの期限とされています。すなわち、贈与などによって遺留分が侵害され、なおかつ侵害額(減殺)請求の対象になることを認識した日から1年間に権利行使しなければ、その後の遺留分侵害額(減殺)請求はできないことになります。
また、相続開始から10年間を過ぎている場合には、請求権が消滅してしまい遺留分侵害額(減殺)請求ができません。
まとめ
・遺留分とは、相続の上で兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の権利とその割合のことです。
・遺留分の帰属は、
①配偶者
②子、孫
③親だけの場合
なお兄弟姉妹には遺留分はありません。
・遺留分の割合は、
①配偶者 法定相続分の2分の1
②子供、孫など 法定相続分の2分の1
③親だけの場合 法定相続分の3分の1
・現行法の遺留分侵害額請求と旧法の遺留分減殺請求の相違
①清算方法が「お金」のみになった。
②生前贈与の期間が10年間に限定された。
③遺留分侵害額請求の適用時期は2019年7月1日以降に発生した相続
・遺留分の請求期限は、相続が発生したこと及び遺留分が侵害されたことを知った日から1年、もしくは相続が発生した日から10年です。