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認知症と疑われる人の遺言書は有効か?

認知症と疑われる人の遺言書は有効か?

 

親と兄弟姉妹の1人が同居していて、親の死後その同居していた兄弟姉妹に有利な遺言書が出された場合、他の兄弟姉妹から、親は遺言書を書いたときには認定証であり、同居していた兄弟姉妹の1人から遺言書を書かされたのではないか、という疑いが出される時が多くあると思われます。その場合、認知症と疑われる親の遺言書が有効なのかが問われます。認知症と疑われる人の遺言書の有効性について、どう考え対処したら良いかを考えます。

目次

1.認知症と遺言能力

2.遺言が有効となるには遺言者の意思能力が必要

(1) 遺言の内容が複雑か否か

(2) 長谷川式認知症スケールの点数

(3) 医療記録や介護記録からの確認

(4) その他の事情の考慮

3.遺言書が無効になるケース

(1) 最低限の意思能力すらない場合

(2) 遺言の内容が公序良俗に反する場合

(3) 要素の錯誤があった場合

(4) 遺言書を偽造・変造した人がいる場合、代筆による場合

(5) 遺言書としての形式を満たしていない場合

(6) 詐欺や強迫により無理やり作成された場合

4.遺言書の無効を争う方法

(1) 弁護士による交渉

(2) 遺言無効の調停を利用する。

(3) 遺言無効の裁判を起こす。

(4) 遺言無効確認訴訟の審理

(5) 遺言無効確認の判決

まとめ

 

1.認知症と遺言能力

 

遺言が有効なものとして認められるには様々な要件がありますが、認知症に関連するものとしては「遺言能力」というものがあります。

すなわち、遺言をするには、遺言の内容を理解し、遺言の結果を理解できる「意思能力」が必要となります。

 

法律上、年齢の基準として、満15歳以上であれば、基本的に遺言能力があるとされています(民法第961条)。

しかし、遺言をするには意思能力が必要とされていますので、15歳以上であっても、意思能力の無い者により書かれた遺言は無効となります。

したがって、認知症の人が書いた遺言は、この要件を欠いており、無効となる可能性があります。

 

2.遺言が有効となるには遺言者の意思能力が必要

 

認知症だった人の遺言について、その有効性が相続人の間で争いがある場合には、遺言を遺した当時、本人に意思能力があったかどうかを検討します。主に以下のような事情を総合的に考慮して意思能力の有無が判断されます。

 

(1) 遺言の内容が複雑か否か

 

「全財産を○○に相続させる」など遺言内容が簡単な内容であれば意思能力があったと判断されやすくなります。

反対に、多数の財産があって、複数人に割合を指定して財産を割り当てる場合など、遺言内容が複雑になるほど意思能力があったと判断されにくくなるでしょう。

 

(2) 長谷川式認知症スケールの点数

 

長谷川式認知症スケールとは、認知機能のレベルを推定するために行われる簡易的な知能検査のことであり、30点満点中20点以下の場合は認知症の疑いがあるとされています。

また、その中でも10点以下であれば意思能力がないと判断される可能性がかなり高くなります。

 

もっとも、遺言の内容が簡単であるなどの事情があれば10点以下でも意思能力が認められた裁判例もあります。逆に、10点以上であっても会話が困難であったことなどを理由に、意思能力が否定された裁判例もあります。

よって、一概に長谷川式認知症スケールの点数だけで意思能力の有無が決まるとは言えません。

 

なお、公証役場で公証人の立会いの下で作成した公正証書遺言は、一般的に自筆証書遺言より遺言が有効と判断されやすいですが、長谷川式認知症スケールが10点以下の場合は、公正証書遺言であっても無効と判断される場合があります。

 

(3) 医療記録や看護・介護記録からの確認

 

医師による診断書や介護記録などから、遺言作成当時に遺言者は意思疎通が可能であったか、金銭管理は出来ていたかなどが確認できることがあります。

また、看護・介護記録に遺言者の当時の様子が記録されている場合があるので、そのような事情も考慮されます。

 

(4) その他の事情の考慮

 

遺言作成の動機、遺言内容の合理性、本人との意思疎通の状況、書面の筆跡の乱れなどの事情も考慮されます。

 

3.遺言書が無効になるケース

 

遺言書を作成しても、遺言者に遺言能力がない場合、あるいは遺言能力があってもその作成の過程や内容に問題があって無効になる場合があります。

 

遺言書が無効になるケースは次のようなものです。

 

(1) 最低限の意思能力すらない場合

 

最低限の意思能力を欠くような状態にある場合は、遺言能力がないものとされ、その遺言書は無効となります。

裁判例では、通常人としての正常な判断力、理解力及び表現力を備え、遺言内容について十分な理解を有していたと言えるか否かを基準に遺言能力を判断しています。

 

(2) 遺言の内容が公序良俗に反する場合

 

公序良俗に反するとは、法律に違反する場合、あるいは法令には違反しなくても社会通念上著しく不相当である場合をいいます。不倫関係の相手への遺贈などは、公序良俗に反するため無効とされる場合があります。

 

(3) 要素の錯誤があった場合

 

遺言を行う際に、事実とは異なる認識があったためにそのような遺言を行ったと考えられ、もし事実を正しく認識していればそのような意思表示をしていなかっただろうと考えられる場合、その遺言が無効とされることがあります。

 

(4) 遺言書を偽造・変造した人がいる場合、代筆による場合

 

遺言者本人が有効な遺言書を作成していても、その親族などが遺言書を書き換えたり加筆したりした場合には、その後の遺言書は無効となります。また、本人が遺言書を作成していないのに、周りの人が勝手に本人名義で遺言書を作成した場合も当然無効となります。

 

特に問題になるのが、本人が認知症などになっているため、自分で遺言書を書くことができない場合です。同居している家族でも、代筆により作成された遺言書は無効となります。

 

(5) 遺言書としての形式を満たしていない場合

 

遺言書を作成したつもりでも、その形式が法律の要求を満たしていない場合には、遺言書として有効に成立しないことがあります。

例えば、自筆証書遺言のうち財産目録はパソコンなどを使って作成できますが、それ以外の部分は自筆しなければならないこととされています。しかし、遺言書全体をパソコンで作った場合その遺言書は無効とされます。

 

(6) 詐欺や強迫により無理やり作成された場合

 

相続人やその関係者に詐欺や強迫により、本人の意思に反する遺言書が作成される場合があります。その場合詐欺や脅迫により遺言書が作成されたことを証明して、遺言書を取り消し、その遺言の内容が実行されないようにすることができます。

 

4.遺言書の無効を争う方法

 

認知症を理由として、遺言書の無効を争う場合、弁護士による交渉のほか、遺言無効確認の調停や裁判が考えられます。

 

(1) 弁護士による交渉

 

裁判所の手続きは、一般的に解決まで長年月を要します。そのため、いきなり裁判所の手続きを利用するのではなく、相手の相続人との協議を弁護士に依頼し、代わりに交渉してもらうという方法です。相続人同士の協議は、感情的な対立などから冷静に話し合うことができない場合があり、間に専門家に入ってもらい、交渉してもらうことで早期に解決できる可能性があります。

 

(2) 遺言無効の調停を利用する。

 

弁護士の交渉でまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることも可能です。

遺言書の有効・無効を争う場合、まずは関係者どうしで話し合いを行うことが求められており、その話し合いが不調に終わった場合に初めて、訴訟を提起することとされています。

このことを調停前置主義といいます。

 

相続人どうしの話し合いで、遺言を無効とすることに相手方が納得すれば、その段階で遺言が無効であることが確認されます。

 

(3) 遺言無効の裁判を起こす。

 

調停でも解決が難しい場合、裁判(遺言無効確認訴訟といいます)についても検討せざるを得ないでしょう。

 

・遺言無効確認訴訟の提起

遺言が無効であると主張する人は、無効であることを裁判所に確認してもらうための訴訟を提起します。調停は家庭裁判所で行いますが、訴訟は地方裁判所で行うこととなります。

遺言が無効であると主張する人はそのような事実があったことを明らかにし、無効であることを立証しなければなりません。

 

(4) 遺言無効確認訴訟の審理

 

遺言無効確認訴訟の審理の場においては、遺言が無効であることを主張する人と有効であることを主張する人の双方が、互いに自分の主張を行うこととなります。

 

遺言能力について争いがある場合には、その当時遺言能力があったかを判断するため、診断書やカルテ、その人を知る証人の証言などにより、無効となるか有効となるかの判断を行います。また、遺言書が偽造された可能性がある場合には、筆跡鑑定が行われる場合があります。客観的な事実からその遺言書が有効か無効かを判断します。

 

(5) 遺言無効確認の判決

 

双方が互いに自分の主張を行い、あるいは立証を行って審理が尽くされたら、裁判所が判決を下します。判決により遺言が無効と確認されれば、その遺言書はないのと同じ状態になります。この場合、判決の後に相続人どうしで遺産分割協議を行い、相続財産を分割することとなります。判決により遺言書が無効とされたとしても、そこで相続財産の分割方法まで裁判所が決めるわけではなく、遺産分割協議を行う際も、再び相続人どうしで揉める可能性があります。

 

まとめ

 

・遺言をするには、遺言の内容を理解し、遺言の結果を理解できる意思能力が必要となり、認知症の人は意思能力が無い疑いがあります。

・遺言が有効となるには遺言者の意思能力が必要であり、その証明が必要となってきます。

・遺言書が無効になるケースでは次のようなものがあります。

①最低限の意思能力すらない場合

②遺言の内容が公序良俗に反する場合

③要素の錯誤があった場合

④遺言書を偽造・変造した人がいる場合、代筆による場合

⑤遺言書としての形式を満たしていない場合

⑥詐欺や強迫により無理やり作成された場合

・認知症を理由として、遺言書の無効を争う場合、弁護士による交渉のほか、遺言無効確認の調停や裁判が考えられます。

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