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遺言者の遺志を代行する「遺言執行者」とは
遺言者の遺志を代行する「遺言執行者」とは
2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、同年7月13日に公布されました。民法のうち相続法に関するいくつかの改正が行われたのですが、その中で、遺言執行者の権限が明確化されました。今回はあまり知られていない遺言執行者とはどのようなものか、必要な時はどんな時か、その役割と権限とはなどの内容と民法の改正点を紹介します。
目次
1. 遺言執行者とは
2. 遺言執行者を選任する意味
3. 遺言執行者の選任が必要な場合
(1) 遺言執行者の選任が絶対に必要な場合
(2) 遺言執行者の選任があってもなくても良い場合
4. 遺言執行者を指定する方法
5. 遺言執行者の権限は?
6. 民法改正後、遺言執行者の権限はどう変わったのか
(1) 遺言執行者の任務の開始
(2) 遺言執行者の地位
(3) 遺言執行者の権限
(4) 改正点には含まれなかった遺言執行者を指定する際の注意点
まとめ
1.遺言執行者とは
遺言執行者(遺言執行人)とは、被相続人の遺言がある場合に、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことを言います。遺言者が死んだ後に遺言者の意思を実現して見届けてくれる人です。
遺言執行者は、相続財産目録の作成、各金融機関での預金解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。
2.遺言執行者を選任する意味
遺言書を作成する場合には、自分の思いの通りに遺言が実現されるかどうかについて不安に思うものです。特に、遺産を相続人以外に分割する場合や、家族・親族に知らせていない相続人がいる場合などがあります。
特に遺言執行者が必要となるケースとしては、第三者に相続不動産の遺贈をする場合です。この遺贈登記をするためには、相続人全員が登記義務者となり名義変更手続きをしなければなりませんが、遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者だけが義務者となることで足ります。
遺言執行者はいてもいなくても遺言書の効力に全く影響はありません。しかし、遺言を確実に執行してもらうという点から考えるとその役割は非常に大きいものです。
3.遺言執行者の選任が必要な場合
(1) 遺言執行者の選任が絶対に必要な場合
遺言執行者の選任が絶対に必要となるのは、遺言書に「相続廃除」や「認知」についての記載をする場合です。
➀相続廃除
相続廃除とは、推定相続人(相続する権利を有する人)の中に、遺言者に対して虐待・侮辱・著しい非行などを行った人がいる場合に、遺言者の意思によって、該当する推定相続人に対して遺産を渡さない、つまり、相続人としての権利を奪うことを言います。
遺言によって相続廃除を行う場合には、相続廃除の手続きを家庭裁判所で行う必要があるため、遺言執行者の選任が必要となります。
②認知
認知とは婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)を、自分の子であると認める行為のことです。
認知されると「子」として認められるため、相続人として遺産を受け取ることが可能になります。
遺言による認知の場合には、遺言執行者が認知届けなどの手続きを行う必要があります。
(2) 遺言執行者の選任があってもなくても良い場合
遺言執行者の選任があってもなくても良いのは、遺言書に「遺贈」「遺産分割方法の指定」「寄与分の指定」の記載をする場合です。
なお、遺言執行者の選任をしない場合は、相続人が遺言の内容を実行することとなります。
➀遺贈
遺贈とは、相続人ではない人に、被相続人の財産を譲り渡すことを言います。内縁の妻など、配偶者と子がいる場合の孫なども該当します。
②遺産分割方法の指定
遺産分割の指定とは、「誰」に「何」を「どれだけ相続(遺贈)させるのか」を指定することです。
③寄与分の指定
被相続人に対して何かしらの形で奉仕していた相続人がいる場合、その相続人の相続分を増やして相続させることができます。
この増やした相続分を「寄与分」といい、この寄与分を受け取ることができる行為を寄与行為といいます。
なお上記の場合、相続人の遺留分を侵害するような遺産分割は指定してはなりません。
4.遺言執行者を指定する方法
遺言執行者は「未成年者及び破産者」以外なら誰でも遺言執行者になることができ、相続人のうちの一人や第3者の弁護士・司法書士・行政書士などの士業の人なども含まれます。
また、遺言執行者は1人でも複数人でも構いません。
また、遺言執行者はいつでも誰でも選任できるわけではなく、次の3つの決まった指定方法で選任しなければなりません。
➀遺言書で指定する。
②第三者に遺言執行者を指定してもらうような遺言書を作成する。
③遺言者死亡後に家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう。
遺言執行者は、遺言執行者がいない・亡くなった、あるいは遺言執行者になることを拒絶する人がいた場合等に、相続発生後に家庭裁判所が選任する場合があります。
5.遺言執行者の権限は?
「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」という強い権限を持っています。
また、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(改正民法第1015条)とされています。
なお、遺言執行者は相続発生後、自身が遺言執行者であることと合わせて、遺言書の内容を相続人・受遺者に通知した後に執行者としての任務を行います。
具体的な権限には次のようなものがあります。
遺言書の内容が自分にとって不利な内容となっている相続人が、勝手に財産を処分(売却・預貯金の引き出し等)した場合、遺言執行者はその行為を無効にすることができ、遺言書の内容どおりの相続を実現することができます。
預貯金の相続手続き等の際に、遺言執行者がいない場合には相続人全員の署名・捺印や印鑑証明書や遺産分割協議書の提出を求められ多くの労力がかかり、また、遺言書の内容に反対する相続人がいた場合には手続き自体がストップしてしまうこともありますが、遺言執行者がいる場合には手続きを単独で行うことができ、スムーズに手続きを行うことができます。
6.民法改正後、遺言執行者の権限はどう変わったのか
民法改正後、遺言執行者の権限がどう変わったのか、ポイントは次のようなものです。
(1) 遺言執行者の任務の開始
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(改正民法第1007条)。
旧法では、遺言執行者がその任務を開始したことや遺言書の内容を相続人に通知すべきということが法律上明文化されていませんでした。そのため、例えば遺言書の内容がある特定の相続人にとって不利益な内容だった場合に、その相続人に遺言執行者になったことや遺言書の内容を伝えないまま手続き等が行われ、後にトラブルとなっているケースがありました。
遺言の執行は中立・公正に行うべきという観点から、改正で明文化されることになりました。
(2) 遺言執行者の地位
遺言執行者は、遺言作成者である被相続人の遺言の内容を実現するための執行者ですから、相続人ではなく被相続人側の立場にあるべきです。
遺言執行者は相続人の利益のためではなく、遺言者の遺志を実現するために任務を行うことが明文化されました。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(改正民法第1015条)。
(3) 遺言執行者の権限
旧法では「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条)」とされてはいましたが、権限の範囲があいまいとなっていました。
そのため民法改正では、より権限を明確にするために「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」とし、遺言の内容を実現するための権限を持っていることが明文化されました。
(4) 改正点には含まれなかった遺言執行者を指定する際の注意点
このように改正後は遺言執行者の権限・立場が明確となりました。中立・公正に、遺言者の遺志や遺言の内容を実現するために権限を行使することが、遺言執行者の任務となります。このため、遺言者が生前に遺言執行者を指定する場合には注意が必要となります。
改正後も相続人・受遺者が遺言執行者となることは可能です。ただし財産を多く受け取った相続人や受遺者は、それ以外の相続人との間に利益相反が生じ、遺言執行者として適しているのかという問題点があります。
まとめ
・遺言執行者(遺言執行人)とは、被相続人の遺言がある場合に、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことを言います。
・遺言執行者は、いてもいなくても遺言書の効力に全く影響はありません。
・遺言執行者の選任が絶対に必要となるのは、遺言書に「相続廃除」や「認知」についての記載をする場合です。
・遺言執行者の選任があってもなくても良いのは、遺言書に「遺贈」「遺産分割方法の指定」「寄与分の指定」の記載をする場合です。
・遺言執行者は「未成年者及び破産者」以外なら誰でも遺言執行者になることができ、相続人のうちの一人や第3者の弁護士・司法書士・行政書士などの士業の人なども含まれます。
・「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」という強い権限を持っています。また、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(改正民法第1015条)とされています。
・遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(改正民法第1007条)。