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遺言書と異なる遺産分割協議をすることはできるのか?
遺言書と異なる遺産分割協議をすることはできるのか?
遺言書がある場合、原則として遺産はその遺言書に従って分配されます。しかし、時として遺言書に従った遺産分割をすると、被相続人の亡き後も生きていかねばならない相続人にとっては不都合なことがあります。そのような場合、遺言書と異なる遺産分割協議をすることは可能なのでしょうか?また、可能な場合の条件はどのようなものかなどについて紹介します。
目次
1. 遺言書と異なる遺産分割協議は条件により可能
(1) 被相続人が遺言と異なる遺産分割を禁じていないこと
(2) 相続人全員の同意があること
(3) 相続人以外の受遺者が同意していること
(4) 遺言執行者がいる場合、遺言執行者の遺言執行を妨げないか同意があること
2. 遺言書と異なる遺産分割協議をした場合の遺言内容の影響
(1) 「遺産分割方法の指定」をしている遺言書の場合
(2) 「相続分の指定」をしている遺言書の場合
3. 遺言書と異なる遺産分割協議と登記
(1) 「遺産分割の指定」をしている遺言書の場合
(2) 「相続分の指定」をしている遺言書の場合
4. 遺言書と異なる遺産分割協議の場合の税金
まとめ
1.遺言書と異なる遺産分割協議は条件により可能
遺言書は被相続人の最後の意思表示であり、相続では優先的な効力があります。相続人は遺言書を最大限尊重しなければなりません。しかし、相続人が著しく遺言内容に問題があるとする場合には、条件により遺産分割協議が可能です。遺言と異なる遺産分割協議が可能となるには、下記の条件があります。
・被相続人が遺産分割を禁じていないこと
・相続人全員が、遺言の内容を知った上で、これと違う分割を行うことについて同意していること
・相続人以外の人が受遺者である場合には、その受遺者が同意していること
・遺言執行者がいる場合には、遺言執行を妨げないか、もしくは、遺言執行者の同意があること
(1) 被相続人が遺言と異なる遺産分割を禁じていないこと
民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等)において、「共同相続人は、次条(908条)の規定により被相続人が遺言書で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。」としています。次条(908条)の規定とは、「遺言者は、5年を超えない範囲で遺産分割を禁止することができる。」というものです。つまり、被相続人の遺言が5年以内の指定期間の遺産分割協議はできないということです。被相続人が遺言と異なる遺産分割を禁じていないか、指定期間を超えれば可能ということです。
(2) 相続人全員の同意があること
遺産分割協議を行った場合には、相続人全員の合意が必要だというのが実務上の扱いとなっています。遺産分割協議も相続人全員が参加していなければ無効となります。
(3) 相続人以外の受遺者が同意していること
相続人以外の受遺者(=遺言書によって財産をもらった人)がいる場合、相続人全員が遺言と異なる遺産分割協議をすることに合意していたとしても、原則として認められません。受遺者の権利を相続人が一方的に奪うことはできないからです。
しかし、逆に言えば、受遺者自身が遺言書と異なる遺産分割協議をすることを同意していれば、遺産分割協議は可能となります。具体的には受遺者が「遺贈を放棄する」などです。
受贈者が遺贈の放棄をすれば、財産は遡って相続人のものとなるので、遺言書と異なる遺産分割協議をすることが可能となります。
注意が必要なのは、「包括遺贈」の場合です。包括遺贈とは、相続分の指定と同様に、遺贈する財産の割合を遺言の内容としていることです。
包括受遺者の遺贈の放棄は、相続放棄と同様に、自己のために相続開始があったことを知った時から3カ月以内に包括遺贈の放棄の申述を家庭裁判所にしなければなりません。
(4) 遺言執行者がいる場合、遺言執行者の遺言執行を妨げないか同意があること
遺言執行者とは、遺言者の死後に遺言書の内容を実現する手続きを行う役割を持った人です。遺言執行者には、遺言書の内容に記載されたことを実現する権利と義務があります(民法第1012条1項)。そのため、遺言執行者がいる場合に遺言と異なる遺産分割協議をするには、遺言執行者の遺言執行を妨げないか、もしくは、遺言執行者の同意が必要です。
民法には、以下の規定があります。
*民法第1012条1項(遺言執行者の権利義務)
「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」
*民法第1013条1項(遺言の執行の妨害行為の禁止)
「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」
遺言執行者は、遺言書の執行に関する行為について権利義務を有しており、相続人はその執行を妨げる行為はできません。または、相続人は、遺言執行者に遺産分割協議の趣旨を説明し、同意を得ておく必要があります。
2.遺言書と異なる遺産分割協議をした場合の遺言内容の影響
遺言はその内容によって、遺産分割方法の指定をする方法や相続分の指定をすることができます。
遺言書の内容によって、遺言と異なる遺産分割協議をしたときに影響があるのかどうか確認してみましょう。
(1) 「遺産分割方法の指定」をしている遺言書の場合
「遺産分割の方法の指定」とは、特定の財産(自宅不動産など)を特定の相続人(長男など)などが取得できるように指示するものが代表的なものです。
本来は、遺産分割の方法の指定をしている遺言書は、被相続人が死亡したときから効力を持ち、被相続人が亡くなった瞬間から、特定の財産を特定の相続人のものとなります。特定の財産(自宅不動産など)については遺産分割で分け方を話し合うという必要がなく、遺産分割協議の中で遺言に反する話し合いをするという余地がないことになります。
しかし、この場合でも、一旦、遺贈を受けたものを相続人間で贈与ないし交換的譲渡したと考えることはでき、そのような遺産分割協議も有効とされます。
(2) 「相続分の指定」をしている遺言書の場合
「相続分の指定」とは、被相続人が、法定相続分とは異なった「相続分の割合」を決めている場合です。
この遺言の場合は、遺産分割協議によって、具体的に遺産の分割方法を協議する必要があります。
遺産分割協議の中で、遺言と異なる内容が決められても、それが、上記1の(1)~(4)の条件を満たしていれば有効な遺産分割協議となります。
3.遺言書と異なる遺産分割協議と登記
遺言と異なる遺産分割をした場合、遺言の効力の違いは、不動産の登記に明確に表れます。この効力の違いが、登録免許税などについても影響を及ぼすので注意が必要です。
(1) 「遺産分割の指定」をしている遺言書の場合
遺言内容と異なる相続人間の協議による遺産分割となり、相続人間の「贈与」もしくは「交換」と解釈されます。
そのため、登記をするには、まず、遺産分割の指定をされた人に「相続」を原因とする所有権移転登記を行い、その後、別の相続人に「交換」または「贈与」を原因とする所有権移転登記をするという二段階の登記手続きが必要になります。
登録免許税についても、二段階分の納付が必要です。
(2) 「相続分の指定」をしている遺言書の場合
この場合には、遺言と異なる遺産分割協議書によって、被相続人から不動産を取得した相続人への相続を原因とする所有権移転登記を直接行うことができます。
4.遺言書と異なる遺産分割協議の場合の税金
相続人間で、遺言と異なる遺産分割協議を行った場合の相続税は、相続税の計算においては、遺言書と異なる遺産分割協議を行った場合でも、贈与や交換であると考える必要はなく、基本的には、通常の遺産分割協議を行った際の相続税の計算と同じとされています。
例外として、相続人ではない特定受遺者がいる場合には注意が必要です。
相続人ではない特定受遺者は、遺産分割協議に参加する権利がないため、遺贈を受けた後に、「交換」したと扱わざるを得ないとされているようです。「交換」の場合は、譲渡益に所得税が課税されます。
まとめ