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相続における遺産分割協議が無効になる場合は?
相続における遺産分割協議が無効になる場合は?
相続における遺産分割は、遺産分割協議や調停によって成立します。しかし、一定の場合には、遺産分割協議が無効や取消しとなることがあります。いったん成立したはずの遺産分割が無効や取消しとなる場合にはどのようなケースがあるかを紹介します。
目次
1. 遺産分割協議に相続人の一部が欠けていた場合
2. 遺産分割の意思表示に錯誤があった場合
3. 詐欺や強迫により遺産分割がなされた場合
4. 遺産分割協議書が偽造されたものであった場合
(1)刑事上の責任追及
(2)民事上の責任追及
まとめ
1.遺産分割協議に相続人の一部が欠けていた場合
遺産分割協議や調停は、相続人全員による合意があって初めて有効に成立します。そのため、遺産分割協議や調停において、共同相続人が一人でも欠けていたときは、その遺産分割は無効となります。遺産分割に際し、他に相続人がいることを知っていたかどうかは関係ありません。例えば、行方不明となっていた被相続人の長男を除いて、妻と次男だけで遺産分割の合意をしたような場合です。
この場合、欠けていた相続人を交え、再度、遺産分割をする必要があります。
ただし、被相続人の死亡後に認知請求がなされたことにより(いわゆる死後認知)、被相続人の子が新たに相続人となったという事案では、すでに遺産分割が終了している場合には金銭のみによる調整となります。
*民法第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」
2.遺産分割の意思表示に錯誤があった場合
相続人が合意によって遺産分割が成立した場合であっても、その合意内容等について大きな誤解をしていた相続人がいるときには、その遺産分割が無効となる可能性があります。
これは、民法が、意思表示について法律行為の要素に錯誤があったときは、これを無効とすると規定しているからです。この規定は遺産分割の意思表示にも適用されますので、遺産分割の要素に錯誤があれば、錯誤に陥っていた相続人は、原則として、その遺産分割が無効であると主張することができます。
*民法第95条(錯誤)
「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」
なお、「要素」の錯誤があったというためには、いかなる誤解・思い違いでもよいわけではなく、当該錯誤がなければ遺産分割には応じなかったといえる程度の事情が必要となります。また、「要素」の錯誤があった場合でも、その錯誤が当人の単なる不注意に基づくような場合には、当人に重大な過失があったものと評価され、無効の主張が制限される可能性があります。
3. 詐欺や強迫により遺産分割がなされた場合
相続人のひとりが、他の相続人からだまされたり、脅されたことによって遺産分割の意思表示を行った場合には、その遺産分割は取り消し得る可能性があります。
これは、民法が、詐欺や強迫による意思表示は、取り消すことができると規定しているためです。この規定は遺産分割の意思表示にも適用され、詐欺や強迫を受けた相続人は、その遺産分割を取り消すことができます。
*民法第96条(詐欺又は強迫)
「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。」
なお、詐欺や強迫による意思表示の取り消しは、錯誤の場合のように当然に無効とされるのではなく、取消権を行使して初めて無効となります。
4. 遺産分割協議書が偽造されたものであった場合
遺産分割協議書の署名押印が、相続人本人の意思に基づかず他人によって偽造されたものである場合には、当該遺産分割協議は無効となります。
例えば、共同相続人の中に、意識がなく寝たきりの状態の相続人がいるときに、他の共同相続人が遺産分割協議書を利用して不動産の登記を行うため、寝たきりの相続人の署名押印を本人の合意なく勝手にしてしまう場合などです。
このような事例では、遺産分割の効力が発生しないことはもちろん、偽造行為を行った相続人について、私文書偽造などの犯罪行為に該当するとして刑事責任を追及される可能性もあります。
(1)刑事上の責任追及
刑事上では、まず、遺産分割協議書を偽造する行為は、私文書偽造罪(刑法第159条1項)に該当する可能性があります。
また、偽造した遺産分割協議書を用いて不動産の登記申請手続きをした場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法第157条1項)に該当する可能性があります。
また、遺産分割協議書を偽造した者が自己の名義であることを利用して第三者に遺産の売却などをした場合には、横領罪(刑法第252条1項)が成立する可能性があります(なお,親族間の特例がある点に注意が必要です。)。
(2)民事上の責任追及
民事上では、損害賠償請求や登記を原状に回復させる請求ができる可能性があります。
例えば、相続人の一人が遺産分割協議書を偽造して唯一の相続財産である不動産を自分の名義にして売却してしまった場合には、他の相続人は当該相続人に対して被った損害について損害賠償請求をすることができます。
また、遺言書を偽造した場合には相続の欠格事由に該当し、相続人たる資格を失う可能性もあります(民法第891条5号)。
遺産分割協議書の偽造の場合は、遺産分割協議自体が成立しておらず、遺産分割協議を正式に行わなければなりません。相続人間の関係が悪化している場合は、家庭裁判所において第三者である調停委員会が入っておこなう遺産分割調停が考えられます。
まとめ