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親の財産を特定の相続人に使い込まれた場合の相続は?
親の財産を特定の相続人に使い込まれた場合の相続は?
親と同居している兄弟姉妹などがいる場合、親が高齢になればどうしても介護や看護が必要となってきます。その苦労を他の相続人はまず理解し感謝することが必要です。しかし、親の財産や財布を預かるようになるとどうしても親の財布と自分の財布の混同が生まれがちです。特に親が認知症になり金銭管理ができなくなると自分自身の世話代などを多額に求める場合やルーズな金銭管理となり、自分の出金と混同が生まれがちです。積み重ねるとかなりの金額になり他の相続人から見れば使い込みと見なされる場合があります。そのような場合について説明します。
目次
1. 特定の相続人の不正な使い込みがあるのかどうか?
(1) 亡くなった親の預金などの確認
(2) 特定の相続人の出金説明、資料などの確認
(3) 遺産分割協議
(4) 遺産分割調停や遺産分割審判
(5) 裁判による不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」
2. 不正な使い込みとされない場合
(1) 被相続人の依頼で生活費などを引き出していた場合
(2) 贈与されたものである場合
(3) 看護、介護などの貢献による寄与分である場合
まとめ
1.特定の相続人の不正な使い込みがあるのかどうか?
特定の相続人とは多くの場合親と同居している家族です。長男や娘の家族などとの同居が考えられます。どうしても被相続人の親の看護や介護があれば費用がかかります。その費用は親が払っていると思われますが、その際の世話代として適切な金額であれば家族に支払うのは適正です。使い込みとは、理由が明らかでない親の財産からの金銭の流出です。
兄弟姉妹など他の相続人が同居していない場合は、親の家計などについては知りません。そのため不信感を持った場合はどのようにしたら良いでしょうか?
(1) 亡くなった親の預金などの確認
亡くなった親などの被相続人が亡くなった後に多額の預金が引き出されているか確認したいのが他の相続人の気持ちです。まず、同居し被相続人の財産を管理している特定の相続人がそれを認めるかどうかです。
認めた場合は、銀行などの預金通帳、その他金融資産の証書などを見せてもらいます。キャッシュカードによる出金もあるため通帳記帳は最新のものとします。
預金では、年金などの入金記録、その他の出金記録を確認します。特に出金内容について疑問がある場合は、特定相続人の説明や資料の提供を受けます。
被相続人が亡くなった時に、相続人がトラブルを防ぐために銀行へ連絡した場合は、銀行口座が凍結されます。銀行口座の凍結により、口座での取引は原則不可能となります。法定相続人による当面の資金の引き出しが一部認められていますが、銀行への書類提出が必要となり、キャッシュカードで相続財産を勝手に引き出し使い込むということはできなくなります。凍結された口座については、相続がまとまった後に、遺言書、遺産分割協議書、家庭裁判所の調停調書などの相続書類を提出し、払い戻しの手続きを行うこととなります。
また、相続人から被相続人が亡くなった事実を銀行に伝えない場合は、銀行口座は凍結されず生きています。
(2) 特定の相続人の出金説明、資料などの確認
・出金に関する実費については領収書などで確認します。
・領収書のない部分については説明を受けます。
・特に世話代などでは計算根拠を確認します。
・特に使途不明金があれば指摘し詳細の説明を求めます。
・購入物については、親が必要であったものか、親は必要ではなく同居家族が必要なものではないかの確認をします。
・親の生活費だったとして、妥当な額かどうかを確認します。
・預金ではすべての金融口座かどうか、定期預金はないかを確認します。
・投資信託、株式などの有価証券はないかを確認します。
・被相続人のかけていた生命保険証書を確認し受取人を確認します。
・年金額など入金額を確認します。
上記を通して相続財産が実質的に特定の相続人の私的目的に使われていると思われる場合は金額を双方で確認し、その後の相続人同士の遺産分割協議での話し合いで検討します。
(3) 遺産分割協議
特定の相続人が、使い込みを認め、使い込み分を戻して相続財産を分割することになれば問題はありません。
しかし、使い込みを認めない場合は、話し合いが平行線となってしまいます。
遺産分割協議がまとまらないと被相続人の銀行口座の相続人への移行や不動産の相続登記もできないことになります。お金が使えないと困ることも出てきます。
(4) 遺産分割調停や遺産分割審判
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所による遺産分割調停や遺産分割審判に移行しますが、調停、審判に不正な使い込みかどうかを決定する権限はありませんので、妥協が図れない場合で、特に不正が大きいと思われる時は裁判に移行する場合もあります。
(5) 裁判による「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」
裁判にて、相続財産を不正に使い込まれてしまった側は、「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」を行い、相続財産の返還を求めることになります。
「不法行為に基づく損害賠償請求」よりも「不当利得返還請求」の方が、時効が長いため「不当利得返還請求」が行われるケースの方が多いかと思われます。
以下、「不当利得返還請求」、「不法行為に基づく損害賠償請求」について説明します。
①不当利得返還請求
民法により、法律上の正当な理由なく、他人の財産または労務により利益を得て、それと引き換えに他人に損失を及ぼした者は、その利益を返還しなければなりません。そのため、相続財産を使い込まれた場合、自分の法定相続分の範囲で返還を請求する権利があります。
不当利得返還請求の時効は、権利を行使できることを知ったときから5年となります。
②不法行為にもとづく損害賠償請求
不法行為により損害を受けた場合は、加害者に損害賠償を請求することができます。
損害賠償請求の時効は、損害および加害者を知った時から3年となります。
2.不正な使い込みとされない場合
不正な使い込みではない場合には、以下などがあります。
(1) 被相続人の依頼で生活費などを引き出していた場合
被相続人の依頼で、生活、介護などのために預金を引き出していたということであれば、不正な使い込みではありません。金額の妥当性の問題になります。参考価格となる業者に依頼した場合の金額や訪問介護費用の相場などが参考になります。
(2) 贈与されたものである場合
特定の相続人に対する生前贈与、または遺言書による遺贈である場合は、特別受益と呼ばれ、相続分の一部が先に渡されたという扱いになります。
相続人の間での公平を図るために、その分特定の相続人の相続の割り当てを減らすこととなります。
その他少額の現金による贈与はありえ、使途不明金も含めて贈与に相当すると考えられます。
(3) 看護、介護などの貢献による寄与分である場合
妥当な額であれば不正ではなく、民法第904条の2により、寄与分を相続財産から控除したものを基礎として各相続人の相続分を算定することになります。
まとめ
・特定の相続人の不正な使い込みがあるのかどうかでは次の確認が必要です。
①亡くなった親の預金などの確認
②特定の相続人の出金説明、資料などの確認
これらの資料を特定の相続人が示さない場合は疑われも仕方ないと考えられます。