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相続で長男の配分が多くなるのか?あるとすればどのような場合か?
相続で長男の配分が多くなるのか?あるとすればどのような場合か?
相続においては、一家の財産を、家督を引き継ぐ長男が相続すると定めた家督制度の歴史があり、そのような意識が遺産分割の中に持ち込まれることもあります。また、親がそのような意識を反映して、長男に家という不動産を引き継ぐ考えを持っている場合もあります。遺産分割協議において長男が多くの配分を要求してきた場合、他の兄弟姉妹はどう判断するのか?長男というだけでなく同居する親への貢献をしてきたという主張がある場合には、他の兄弟姉妹はどのように判断したら良いかにつき説明します。
目次
1. 法的には兄弟姉妹の相続分は平等
(1) 法的には兄弟姉妹の相続分は平等
(2) 親が長男に相続で多く配分したい場合には?
2. 長男が優遇される場合の根拠とは?
(1) 寄与、寄与分
(2) 寄与分の要件とは
(3) 寄与行為の態様
3. 寄与として認められる場合
(1) 長男が家業を継ぐ場合
(2) 親の看護、介護をしていた場合
(3) 寄与分の認定
まとめ
1.法的には兄弟姉妹の相続分は平等
(1) 法的には兄弟姉妹の相続分は平等
現在の民法上は当然、長男に特別の配分はあるわけではなく平等であり、優遇されることはありません。
(2) 親が長男に相続で多く配分したい場合には?
親が長男に多く配分したい場合には、遺言書を作成することが必要です。したがって、生前に親が長男に多くの財産を承継させる意思を持っていたというだけでは、家や土地を相続することにはなりません(死因贈与の可能性は残ります)。
相続ではなく、生前贈与の形で親の生前に長男に資金を贈与することは可能です。
暦年贈与で年間110万円までは基礎控除されて贈与税の対象とならずに自由に贈与できます。
ただし、相続開始の3年前までの贈与は相続に含まれ計算し、今後その期間が7年までに延長されることが検討されています。
2.長男が優遇される場合の根拠とは?
長男家族が親と同居し、介護負担をしたため大変だった場合や、長男が親の事業を手伝って事業維持に貢献してきた場合などがあれば、長男が相続において優遇される理由があります。
(1) 寄与、寄与分
相続につき貢献が認められることを「寄与分を受ける」と言います。寄与分を受ける資格がある者(「寄与分権者」といいます。)について、民法は、原則として「相続人」と規定しています(民法第904条の2第1項)。
民法第904条の2
「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」
(2) 寄与分の要件とは
寄与分を主張するための要件については次の点があります。
①特別の寄与があること
寄与分が認められるのは、前掲の民法第904条の2第1項によれば、「特別の寄与」があることが必要です。
「特別の寄与」といえるためには、被相続人と相続人の身分関係に基づいて、「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要があると考えられています。
したがって、妻が被相続人である夫のために一般的な家事労働を行っていたとしても、妻である以上、夫婦間の協力扶助義務(民法第752条)があるため、特別の寄与には該当しないと考えられます。
また、子供が高齢の親と同居して、家事の援助を行っている場合も、親族間の扶養義務・互助義務(民法第877条1項)の範囲内の行為として、特別の寄与には該当しないと考えられます。
②相続財産が維持又は増加したこと
「特別の寄与」により、相続財産の減少や負債の増加が阻止され、又は、相続財産の増加や負債の減少がもたらされたといえることが必要です。
この点は、単なる精神的な援助ではなく、経済的な観点からの相続財産の維持又は増加が必要です。
(3) 寄与行為の態様
民法は、寄与の内容について、「相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」と規定しています(民法第904条の2第1項)。
寄与と認められる分野は次の項目で説明します。
3.寄与として認められる場合
(1) 長男が家業を継ぐ場合
長男が家業を継ぐことが明らかな場合被相続人は、生前贈与によってあらかじめ必要な財産を贈与したり、しっかりとした遺言書を作成しておく必要があります。
相続人が被相続人の経営する家業を手伝ったり、跡を継いだような場合は、相続において「当別寄与」が認められます。「特別な寄与」が認められるには次のような要素が必要です。
① 家業の手伝いを無償や正当な報酬を得ることなく行っていたこと
② 相当な長期間にわたって手伝ったこと
③ 継続的に手伝い続けていたこと
④ 相続人が家業に専従することを余儀なくされたこと
⑤ 寄与行為により被相続人の財産の維持または増加があったと認められること
このような場合は、現実に得ていた低廉な給与と、従業員の立場であれば本来得られたであろう給与との差額が寄与分として認定される場合が多くあります。
なお、被相続人の事業のための運転資金として、相続人が金銭を提供したような場合であれば、比較的「寄与」の認定は容易となります。
(2) 親の看護、介護をしていた場合
寄与分が認められるためには,特別の寄与にあたらないといけません。
寄与分が認められるためには、被相続人の方が「要介護度2」以上の状態にあることが一つの目安になると考えられています。
完全介護の病院に入院していた場合に、寄与分が認められるためには,被相続人が「療養看護を必要とする病状であったこと」に加えて「近親者による療養看護を必要としていたこと」が必要です。
したがって病状が重篤であっても、完全看護の病院に入院しているような場合には基本的には寄与分は認められません。
・寄与分の算定方法について
療養看護の寄与分は、実際に第三者に療養看護に当たらせた場合、被相続人が負担するべき費用の支出を免れていることの観点から算定するのが合理的です。
療養看護による場合の寄与分の算定方法は実務上次のようなものがあります。
*療養看護型の寄与分=報酬相当額(職業介護人の日当額)×療養看護日数×裁量割合
※裁量割合とは?
相続人は介護のプロではなく、第三者たる職業介護人が介護をした場合と同額とするのは妥当ではありません。
したがって、職業介護人の場合の日当額(報酬相当額)×療養看護日数に裁量割合を乗じることで調整をします。裁量割合は、通常は0.5から0.8程度の間で適宜修正されており、0.7あたりが平均的な数値といえます。
・民法改正と特別寄与者について
従前、寄与分権者となり得るのは相続人に限定されていました。
しかし、相続権がない場合でも、被相続人の療養看護に貢献するケースは多く(長男の嫁など)、そのような場合に、直接的に金銭を請求できない不公平な結果になっていました。
この問題に対応するため、相続人以外の被相続人の親族について、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)が創設されました(2019年7月1日施行)。これによって、被相続人の親族についても、特別寄与料の支払いを請求できることになりました。
(3) 寄与分の認定
寄与分の認定の方法は、寄与した人は他の相続人に寄与分につき説明し、相続人間で協議し決定します。協議がまとまらない場合は調停などに進まざるをえなくなります。
①相続人同士による話し合いによる方法
寄与分については、相続人間の遺産分割協議で話し合うことになります。
相続人が合意できない場合には次の段階に進まざるを得なくなります。
②寄与分を定める調停
寄与分を定める調停とは、家庭裁判所(調停委員会)に間に入ってもらい、調停委員会が当事者双方から事情を聴き提出された資料をもとに、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし合意を目指した話合いが進められます。
③寄与分の審判
寄与分を定める調停において話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、審判手続が開始されます。審判手続は、調停のように話し合いによる解決を目指すものではなく、最終的には決定という形で裁判所の判断が示されます。
まとめ