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申告期限までに「遺産分割協議」がまとまらなかった場合の問題点

申告期限までに「遺産分割協議」がまとまらなかった場合の問題点

 

遺産分割自体には期限がなくいつでも行うことができます。しかし、相続の手続きとして必ず行わなくてはならないのが「遺産分割協議」です。話し合いがなかなかまとまらないケースもあるでしょう。相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合には、どのような問題が発生するのでしょうか?問題点を明らかにし、そのデメリットを知ります。また、申告期限に間に合わなかった時の対策を説明します。

目次

1. 相続税の申告期限

2. 遺産分割協議とは

3. 遺産分割協議がまとまらない場合の、未分割遺産の管理の問題点

(1) 未分割遺産の管理

(2) 未分割遺産の処分

(3) 未分割遺産の使用

4. 遺産分割協議がまとまらない場合の、税制優遇が受けられない問題点

(1) 配偶者控除が適用されない。

(2) 小規模宅地等の特例を利用できない。

(3) 相続税の物納が認められない。

(4) 非上場株式等の相続税猶予制度が適用されない。

(5) 農地等の納税猶予が適用されない。

(6) 相続税の取得費加算の特例との関連

5. 遺産分割未了が長期に渡る場合は、相続人が増え相続が複雑化する問題点

6. 期限内の遺産相続が未了な場合の対策は?

まとめ

 

1.相続税の申告期限

 

相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から、10カ月以内に行わなくてはなりません。協議がまとまらない場合には、未分割のまま、いったん法定相続分により申告・納税を行うことになります。

 

2.遺産分割協議とは

 

亡くなった被相続人の相続財産に対して複数の相続人がいる場合、その財産を相続人の間で配分することが必要です。これを「遺産分割」といいます。遺言書があれば、その内容に従って相続財産を分けることになりますが、遺言書がなければ相続人同士の話し合いで分割方法を決めるのが一般的です。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

 

遺産分割が行われるまで、相続財産は相続人全員で共有している状態になります。協議が成立すれば遺産は分割されますが、全員の合意が必要です。多数決は認められません。

 

兄弟姉妹などの相続人間で不公平感が強い場合などは、協議がなかなかまとまらないことが少なくありません。

 

遺産分割が未了であることの問題点は、未分割遺産の管理、税制優遇が受けられない、長期に渡る場合は相続人が増え相続が複雑化するなどがあり、以下説明していきます。

 

3.遺産分割協議がまとまらない場合の、未分割遺産の管理の問題点

 

遺産分割協議がまとまらない場合は、未分割遺産の管理、処分、有効活用に支障があります。

 

遺産分割協議がまとまらず誰のものかを確定していない不動産や大きな資産は、相続人全員の共有財産となります(民法第898条)。

遺産分割前の共有財産を管理、処分する場合には、民法上の決まりにより、他の相続人全員の同意などが必要な場合があります。

 

(1) 未分割遺産の管理

 

共有財産の管理は、各相続人が単独でできる「保存行為」があります。保存行為とは家の雨漏り修繕や草刈りなど、遺産の現状を維持・向上させるための行為です。

保存行為は、各共有者が単独で行うことができます。保存行為に分類される行為とは、物理的な現状を維持し、かつ、他の共有者に不利益が及ばない行為です。

 

また、相続人による多数決で決める「管理行為」があります。管理行為とは共有財産を利用または改良することです。

狭義の管理行為の意思決定には、共有持分の価格の過半数を有する共有者の同意が必要です。

不動産の場合、誰かに貸したりするためには相続人の法定相続分に応じた持ち分価格の過半数の同意が必要となります。

 

(2) 未分割遺産の処分

 

共有財産を処分する行為は、民法上は「変更行為」となり、相続人全員の同意が必要です(民法第251条)。

 

不動産を売却する場合には、相続人全員の同意を得なければなりません。

 

(3) 未分割遺産の使用

 

共有財産を自分の持ち分を超えて使用する場合は、超えた部分の使用対価を他の相続人に支払う義務があります(民法第249条)。

 

たとえば亡くなった父名義の住宅に相続人である長男が住んでいる場合、長男は他の兄弟姉妹などの相続人に対して持ち分に応じた対価を支払う義務があります(最高裁判例)。

 

4.遺産分割協議がまとまらない場合の、税制優遇が受けられない問題点

 

遺産分割協議がまとまらない場合は、次のような税制優遇が受けられない問題点があります。

 

(1) 配偶者控除が適用されない。

 

配偶者控除は、配偶者が相続する財産が法定相続分、または、1億6,000万円までであれば相続税がかからない制度です。相続財産が多額であっても、配偶者控除制度があれば配偶者は相続税がかからないのが一般的です。制度が適用されるためには、相続税申告書の提出期限を迎えるまでに、配偶者が相続財産を取得していなければなりません。

 

もし配偶者控除制度が利用できなければ、相続税額が多額になる危険性があります。

 

(2) 小規模宅地等の特例を利用できない。

 

小規模宅地等の特例で特定居住用宅地等の場合では、330平方メートルまでの面積につきの範囲で不動産の評価額が8割削減される制度です。相続財産に不動産がある場合には大きなメリットとなります。

小規模宅地等の特例が利用できない場合、不動産の評価額もそのままで計算されるため、多額の相続税がかかる問題点があります。

 

(3) 相続税の物納が認められない。

 

相続税は金銭で納付することが原則ですが、現金で納付することが難しい場合には、不動産等を金銭の代わりに納付できる物納という制度が設けられています。

 

被相続人が所有していた財産については、遺産分割協議がまとまるまではすべての相続人の共有となります。そのため、物納しようと考えたときには、相続人全員の申請が必要であり、遺産分割ができないときは、結果的に物納も利用できないこととなります。

 

(4) 非上場株式等の相続税猶予制度が適用されない。

 

被相続人の事業を受け継ぐ相続人が、非上場会社の株式を相続により取得して事業を続けていく場合に、一定の条件下で相続税の納付が猶予や免除される制度のことを非上場株式等の猶予制度といいます。

 

中小企業の事業を承継していくなかで、自社株式については換金が難しいうえに、評価額によっては、遺産分割協議がまとまらない場合は制度が適用されず多額の相続税を現金で支払わなければいけない事態が起きることも考えられます。

 

(5) 農地等の納税猶予が適用されない。

 

被相続人が農地を所有して農業を営んでいた場合、その農地を取得して引き続き農業を営む相続人に対して、一定の条件下で相続税が猶予される制度が農地等の納税猶予です。被相続人が農地を所有して農業を営んでいれば、条件を満たせば相続税額が抑えられます。

 

農地等の納税猶予を利用できない場合は該当する農地も相続税の課税対象となります。

 

(6) 相続税の取得費加算の特例との関連

 

相続により取得した財産を、第三者に譲渡して対価を得ることがあります。例えば、不動産を相続して、第三者に売却する場合です。この場合、土地を売った相続人には、相続税とは別に、譲渡所得税が発生します。しかし、これでは二重に課税されることになります。そこで、譲渡所得の計算上、相続時に負担した相続税のうち一定の金額を考慮することができ、結果として譲渡所得税の負担を減らせる制度があります。これが、相続税の取得費加算の特例です。

 

この制度は、相続税の申告期限の翌日から3年以内に相続財産を譲渡した場合に適用されます。ただし、相続財産を売却した年の所得税の納税義務の成立時(通常は、その年の12月31日)に相続税額が確定していなければなりません。つまり、それまでに原則として遺産分割を終えて、相続税の申告も済ませておく必要があります。

 

5.遺産分割未了が長期に渡る場合は、相続人が増え相続が複雑化する問題点

 

被相続人が亡くなったあと、遺産分割がされない間に相続人が亡くなり新たに相続が発生することを、数次相続といいます。父母など、夫婦であれば年齢が近いため、数年遺産分割を行わず放置していると起きやすくなるものです。数次相続によって世代が変わり相続人が増え、かつ、疎遠な人が出てくると、遺産分割はさらに難しい状態になります。

 

6.期限内の遺産相続が未了な場合の対策は?

 

期限内の遺産相続が未了な場合の対策は次のものです。

 

・「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する。

 

相続税の申告は、相続開始後10カ月以内に必ず行わなければなりません。申告期限の時点で遺産分割が完了していなかった場合には、相続税申告書を提出するときに「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出し、申告期限後3年以内に遺産分割されたタイミングであれば、遺産分割が確定してから4カ月以内に税務署に対して更正の請求を行えば、配偶者控除や小規模宅地等の特例の利用が可能になります。

 

・申告期限から3年が過ぎても遺産分割が確定しない場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する。

 

申告期限から3年が過ぎても遺産分割が確定しない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出が必要です。「やむを得ない事由」の例として、相続人の間で裁判になっている場合や未成年の相続人がいる場合などがあります。

 

この承認申請書は、申告開始から3年が経過した日の翌日から2カ月以内に、所轄税務署に提出しなければなりません。

税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定の日などやむを得ない事由がおさまった日の翌日から4カ月以内に遺産が分割されたタイミングで、特例の利用が可能になります。なお、この場合も、分割が行われた日の翌日から4カ月以内に税務署に更正の請求を行う必要があります。

 

まとめ

 

・相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から、10カ月以内に行わなくてはなりません。
・遺産分割が行われるまで、相続財産は相続人全員で共有している状態になります。
・遺産分割前の共有財産を管理、処分する場合には、民法上の決まりにより、他の相続人全員の同意などが必要な場合もあります。
・遺産分割協議がまとまらない場合の、税制優遇が受けられない問題点では次のような問題点があります。
①配偶者控除が適用されない。
②小規模宅地等の特例を利用できない。
③相続税の物納が認められない。
④非上場株式等の相続税猶予制度が適用されない。
⑤農地等の納税猶予が適用されない。
⑥相続税の取得費加算の特例との関連
・遺産分割未了が長期に渡る場合は、相続人が増え相続が複雑化する問題点があります。
・期限内の遺産相続が未了な場合の対策では、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することがあります。
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