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融資資金による不動産投資の危険性
融資資金による不動産投資の危険性
マンションやその他の不動産物件への投資を誘う広告が多くあります。サラリーマンでも可能なものとしてローンでの投資も呼びかけられています。しかし、融資資金による不動産投資では賃貸不動産の場合リスクがともないます。賃貸物件のリスクは、空室の発生、建物の経年劣化による家賃相場の下落とリフォーム・修繕の必要性などです。それらが投資の事業計画に入っているかどうかです。多くの場合、投資回収のシミュレーションは、投資物件を販売する会社の都合の良い甘い計画となっている可能性があります。不動産投資での融資資金による場合は特に慎重を期すべきでしょう。近年のシェアハウス投資事件などを参考に融資資金による不動産投資の危険性について説明します。
目次
1. シェアハウス投資とスルガ銀行不正融資事件
(1) シェアハウス投資運営会社スマートデイズの経営破綻
(2) スルガ銀行の不正融資
2. 不動産投資ローンの返済に失敗する危険性
(1) 空室リスク
(2) 家賃下落リスク
(3) 家賃滞納リスク
(4) 修繕費リスク
(5) 金利上昇リスク
(6) 家賃収入や管理維持費用などの想定の甘さ
3. サブリース契約による家賃保証への過信の危険性
まとめ
1.シェアハウス投資とスルガ銀行不正融資事件
2018年前半、不動産投資業界に大きな事件がありました。スマートデイズという運営会社によるシェアハウス投資で、スルガ銀行が過剰な融資をしていたため問題になった事件です。
(1) シェアハウス投資運営会社スマートデイズの経営破綻
運営会社のスマートデイズは東京・銀座に本社を置く不動産会社で設立は2012年です。年間売上高は、シェアハウスの「かぼちゃの家」という商品で、2017年3月期には316億円に急伸しました。運営会社のスマートデイズは投資オーナーから投資資金を集め、物件を建設しユーザーに賃貸し、投資オーナーに対して家賃保証をするサブリース契約をするというシステムでした。
ところが、2017年10月、運営会社よりオーナーに対して毎月払うサブリース賃料の減額が突然通知されました。同社は「サブリース契約で35年の家賃保証」をうたっていたため、家賃が減額されることは、オーナーにとっては投資計画が狂う大問題です。そして、2018年1月以降、オーナーへの賃料支払いがストップし、融資で投資資金を調達したオーナーが多額の借金返済に窮する事態が続出し社会問題化しました。
その後スマートデイズは2018年4月9日に経営破綻しました。当時の負債総額は60億3,523万円でした。
➀相場よりも高い賃料設定の計画
シェアハウスの事業計画では物件は23区内の好立地とされ、賃料は共益費込みで5〜7万円で設定されていましたが、実際には立地上周辺相場に比べて平均1~2万円ほど高い賃料設定がされていたため、競争力がなく入居率は著しく低いものでした。
②相場より高い値段の建物と土地
さらに、スマートデイズは相場より高い値段で建物と土地をオーナーに購入させていました。素人をだます商法です。
③「家賃35年保証」というサブリース契約
運営会社による「家賃35年保証」というサブリース賃料保証がありましたが、賃料は入居者が支払う家賃より実際には高く設定されており、ありえない想定になっていました。仕組みは、スマートデイズが下請けの建築会社からコンサル料という名目で高額のキックバック(紹介料)を受け取り、このキックバックと入居者からの賃料を原資にして、オーナーに家賃を保証するというものでした。しかし、実際には運営は甘いスキームのため当初より自転車操業的な経営だったと考えられます。
④運営事業者によるオーナーへの賃料の一方的値下げ
加えて、サブリース契約では契約書に「賃料の見直し」という項目があり、2年毎に見直しできる権利で契約を締結する場合がほとんどです。運営会社であるサブリースを行う業者側が家賃の減額請求ができる権利を持っている形になっており、途中で家賃を下げるケースがあるということです。
(2) スルガ銀行の不正融資
シェアハウスの投資額は一棟1億円ほどの高額で、銀行融資を受けなければ借りられないものです。販売するスマートデイズ側は、サラリーマンなどのオーナーの収入不足を偽り、積極的に給料証明や銀行残高の書類を偽造するなどの不正を働きました。
これに加え、通常はこれだけの金額の融資を受けるには、借り手の属性(年収、勤務先、資産状況など)をふまえて銀行の厳格な審査を通過しなければ融資を受けられません。普通の銀行であれば、支店ではなく本店決済となり慎重に審査をする形になります。しかし、スルガ銀行では各支店長が決済権を持っており積極的な融資を一任されていました。そのため、支店の売り上げを上げるための過剰融資が行われていました。
2018年8月に第三者委員会が調べた結果として、スルガ銀行の不正融資の総額は1兆円以上になるという発表がありました。
事件の結果として、運営会社スマートデイズは経営破綻し、2018年11月12日スルガ銀行が銀行の前会長ら9名に35億円の損害賠償を提訴し旧経営陣らへの責任追及を本格化し、その後被害者団体との和解も成立しました。
2.不動産投資ローンの返済に失敗する危険性
(1) 空室リスク
空室リスクとは、所有している物件に借り手がつかず空室が発生し、賃料収入が0になるリスクです。不動産投資の最大のリスクといえます。
不動産投資は、金額が大きくなれば不動産投資ローンによって融資を受けて行う場合がほとんどです。投資不動産から得られる家賃収入が当初の予定より悪化した場合、不動産投資ローンの返済額や入退去に伴う修繕などの諸経費を差し引くと月々のキャッシュフロー(資金の流れ)がマイナスになってしまう危険性があります。
不動産投資のキャッシュフローがマイナスになった場合でも、毎月のローン返済額は一定のため、手持ち資金に余裕がないと破綻する危険性があります。
(2) 家賃下落リスク
建物は経年劣化するにつれて家賃が下落していきます。
築3年〜築10年の下落幅が大きくなると言われており、賃料の下落はすぐやってきます。顧客はより新しい物件へと流れてしまいます。競争力維持のため家賃の値下げが出てきます。
(3) 家賃滞納リスク
家賃滞納リスクとは、入居者が家賃を滞納するリスクです。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が出している賃貸住宅市場景況感調査によると、2020年下半期のデータでは、滞納率は全国平均では5.0%で、これは20人に1人が滞納をしているというデータです。
(4) 修繕費リスク
修繕は必須で想定外に早くやってくる場合もあり、また、想定より高額になる場合もあります。
(5) 金利上昇リスク
金利上昇リスクとは、不動産投資ローンの金利が上がり、支払総額が上がってしまうことです。現状では低金利のため、金利が低いままの計算をしがちですが、変動金利制を取っている場合が多く金利上昇はリスクに直結します。
(6) 家賃収入や管理維持費用などの想定の甘さ
購入当初の、キャッシュフローのシミュレーションにおいて、収入には多く、支出に対しては少ないなど事業計画の想定が甘く投資ローンの返済が回らなくなる危険性があります。
3.サブリース契約による家賃保証への過信の危険性
現在増えている賃貸関係のトラブルに、サブリース契約を原因とするものがあります。サブリース契約とは、物件の借り上げと家賃保証を条件に、物件の建築から運用、修繕などを不動産会社が一手に行うものです。
このサブリース契約は、入居者の有無にかかわらず満室賃料の10~20%ほどの手数料を支払えば、一定の収入がオーナーに入ってくるシステムですが、入居者がいない状態で、一定の家賃がずっと得られるわけはありません。
家賃保証とは言っても、契約上サブリース会社側に家賃を減額できる権利があり、賃料が見直され、オーナー側は大幅に収入が低下する危険性があります。また、契約上オーナー側の修繕費負担条項があれば、オーナーの不動産投資事業は破綻し、結局建物を手放さざるを得なくなる場合もあります。
オーナーはサブリース契約で家賃保証があるといって安心するのではなく、建築費や修繕費は適切か、本当に何年も安定した収入が得られる立地なのか、家賃減額の規定の有無によるリスクを考えて契約を行わないといけません。
まとめ