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私道負担のある土地の通行権
私道負担のある土地の通行権
私道負担のある土地を売却する場合が多くあります。中でも注意すべき点では私道負担のある土地では通行権の問題があります。私道の通行権が権利的にどのようなものかを売主として明確に認識し、売却の際には買い手に正確に伝える必要があります。重要事項の説明として法的に義務があるのは不動産仲介会社にあり、売主は売却を依頼する不動産会社に私道負担の内容について伝えておく必要があります。私道の基本と権利について確認しておきましょう。
目次
1. 私道について
(1) 私道とは
(2) 私道負担とは
(3) 私道の所有形態
2. 宅建業法の重要事項の説明における「私道に関する負担等に関する事項」の義務付け
3. 私道負担のある土地売却の注意点としての通行権
(1) 法的な通行権
(2) 車の通行権を含むのか
4. 私道の通行に関わるその他のトラブル
まとめ
1.私道について
(1) 私道とは
私道とは、団体・個人が所有する道路を指します。
私道は私有地であるので他人がその土地を通ることはできませんが、道路位置指定といわれる手続きを済ませると、建築基準法上の道路となり、私道の通行ができることになります。
また、建築基準法によって接道義務が定められ、幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していない土地には、建物を建てられないとされています。火災や地震などの災害時に道路が狭くて緊急車両が入れないと、被害が拡大してしまうおそれがあるためです。
(2) 私道負担とは
私道負担とは、売買する土地の一部に私道が含まれていることを表します。
私道負担付きの土地にはケースが大きく分けて2つあります。隣接する道路が全て私道のケースと土地接道義務を満たすため道路の一部が私道のケースです。
①隣接する道路が全て私道のケース
土地に隣接する道路が、全て私道になっている場合で、向かいや隣の家、周りの家などと私道を共有することになります。
②接道義務を満たすため道路の一部が私道のケース
土地の前に公道が通っていても幅員4mより狭い土地の場合は、セットバックが必要となります。セットバックとは、公道が幅員4mとなるように、敷地の一部を道路として提供することです。
(3) 私道の所有形態
私道の持分の態様には、道路全体で比率として持分があるのか、道路の中の特定の部分について所有権があるのかにより差異があります。
①持分割合での共有型
開発業者が築造した位置指定道路だと持分割合での負担となることが多くあります。
②持ち分の分筆型
所有地を分筆登記し、持分割合とはせず、特定の区画を軒先から離れたところに所有するという場合や、自宅の軒先を持ち出す形で特定の区画に対して所有権がある場合もあります。
③完全単独所有型
完全に単独の人が所有している場合です。
2.宅建業法の重要事項の説明における「私道に関する負担等に関する事項」の義務付け
宅建業法で規定する重要事項の説明では、宅建業者に対して取引の際にはあらかじめ「私道に関する負担に関する事項」の説明が義務付けられています。
私道負担のあることを知らずに不動産取引をした購入者に対して、損害を与えないようあらかじめ私道の負担の内容を説明する義務を課したものです。
説明すべき内容は、以下のようなものです。
・私道負担の有無
・私道の面積
・私道の位置
説明に含まれる私道には建築基準法上の道路である私道のほかに、通行地役権の目的となっている私道も含みます。セットバックに関する規定も含まれます。
私道について所有権や共有持分を有していなくても、それを利用するために通行料等の負担金を支払うことになっている場合、私道に関する負担にあたります。また、現在の負担のみならず、将来生じることになっている負担等も含まれます。
3.私道負担のある土地売却の注意点としての通行権
私道は、あくまでも私有地なので、誰でも自由に通行できるわけではありません。現実には、私道の所有者が第三者の通行を好意で黙認している場合も多く見受けられますが、所有者以外の第三者が他人の私道を通行するためには、原則として、通行する権利が必要となります。
この私道を通行する権利には、囲繞地通行権、通行地役権、賃借権等の債権契約上の通行権などがあります。これらに対しても買い手に伝える必要があります。
(1) 法的な通行権
➀囲繞地(いにょうち)通行権
他人の土地に囲まれ公道に通じない土地(袋地)の所有者には、公道に出るために、袋地を囲んでいる土地(囲繞地)を通行することができる囲繞地通行権が認められています(民法第210条)。
囲繞地通行権は、隣接する土地の利用関係を調整するために、袋地の所有者に法律上当然に認められる権利なので、設定契約は必要ありません。ただし、通行によって囲繞地に損害を与えた場合には償金を支払う必要があります(民法第212条)。
②通行地役権
他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)の通行の用に供することができる権利を通行地役権(民法第280条)といいます。
通行地役権は、承役地所有者と要役地所有者との通行地役権設定契約によって設定されますが、明確な設定契約のないまま黙示の合意があるとみなされるケースや相続や時効によって取得する場合もあります。
通行地役権は物権なので、通行地役権の登記によって、承役地の購入者等の第三者に対抗することができます。
また、通行地役権は要役地に付随する権利なので、特約のない限り、要役地の売買によって、要役地の所有権が移転すると、それに伴って通行地役権も移転し、買主は要役地の所有権とともに、通行地役権も取得することができます(民法第281条)。
この通行地役権の移転は、通行地役権の移転登記がなくとも、要役地の所有権移転登記によって、第三者に対抗することができます。
③債権契約上の通行権
私道所有者との間で、私道の通行の用に供する目的の賃貸借契約や使用貸借契約を締結することで、私道を通行することができます。
ただし、これらの権利は債権上の権利であり、私道の購入者等の第三者に対し、その通行権を主張することができません。
④通行の自由権に基づく通行権
上記➀から③のような通行権がない場合でも、当該私道を通行することが日常生活上必要不可欠となっている等の事情が認められる場合に、建築基準法上の位置指定道路や42条2項の道路等について、通行の自由権を認めた判例があります。
⑤黙示の通行地役権
私道開設の経緯や事実により、私道の所有者間において、各々が自己の区画所有地を要役地とし、他の所有者の区画所有地を承役地とする相互交錯的な通行地役権が黙示的に設定されている場合があります。
(2) 車の通行権を含むのか
私道の通行地役権の中に、徒歩による通行権に加え、車による通行権も含まれるのか否かについては、この私道の過去の車の通行状況、私道の利用状況、私道の他の利用者への影響、私道の道路としての整備状況、周辺の交通状況等の事情を踏まえ、個別に判断する必要があります。
裁判例では、地役権の内容に自動車の通行が含まれると判断したものでは、私道を長年の間、トラブルなく車で通行してきた経緯がある場合があります。一方で、私道の幅員が広いところでは、人や自転車との接触の危険が高いこと、私道上での回転ができないことなどから車の通行権を否定したものもあります。
いずれにしても、この私道のこれまでの車の通行状況を確認し、他の利用者との利益調整を図る必要はあります。
4.私道の通行に関わるその他のトラブル
その他のトラブルがある土地、戸建て住宅の売却では所有者として、買い手に伝えるべきことかどうかを売主側の不動産仲介会社に伝え相談する必要があるでしょう。
➀私道への無断駐車が頻繁にある。
自分の私道に無断駐車されるトラブルが多くあります。私道に無断駐車された場合は、一般的に持ち主自身が動く必要があります。
②私道の他人の通行が頻繁にある。
道路である以上は、他人に通行されることを完全に阻止するのは難しい現実があります。通り抜けできる場合に顕著です。原則として所有者の許可がない人は通行できませんが、実質的には、関係者以外の通行禁止の表示をしても完全に阻止するのは難しい現実があります。
まとめ